表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短淡単譚  作者: MaZ
5/7

スライムの見た夢

 私はスライムである。

 そう、洞窟や迷宮によく棲息している、最低限の知能と本能で蠢く粘液の塊だ。

 本来ならば人に分かる言葉で思考する知性などない。

 では、私とは何者か。


 忘れた。


 厳密に言うと、記憶はしているのだが、思考の波が記憶という宝箱の鍵を開けるに至っていない。

 今この瞬間さえ、持ちうる限りの力でもって、全力で記憶の中の本という本の頁をめくっている。


 比喩だ、スライムである私に本の頁をめくる手指など無く、そもそも本を傷めずに読めない。

 しかし、やっとの思いで開いた記憶の中の本の頁には、大きな疑問符が一つ浮かぶだけだ。


 こんな時、もし私がスライムになった経緯が、誰の目から見ても単なる不幸でしかないのなら、捨てる神あれば拾う神ありとばかりに、私に素晴らしくも卑怯極まりない天啓を授けてくれるのだろう。


 そんなものはない。

 あったらとうの昔に自分を取り戻し、呪文でも何でも唱えて人間にでも戻っている。

 とりあえず、思考の渦がここに至るまでの間、いくつかの試みを行った形跡と記録がある。


 まず、記憶力。

 先ほど述べた通り、記憶そのものはあるが、それを開く術がない。

 単純に引き出せるものとして、読み書きが出来た事は幸いだ。

 実験的な日々を、岩に文字を溶かし刻んで残す事が可能だからだ。


 次に、認知。

 人間のような五感が備わっているわけではないが、おおよその見聞きは出来る。

 加えて、周囲の温度を感覚的に推し測る能力に長けている。

 これはスライムの特性と見て良いだろう。


 続いて、身体能力。

 当初は粘液に膜が張られているようなイメージだったが、どちらかというと表面張力だ。

 粘液は酸性のようで、これで獲物を補食したり、岩に文字を刻む事が出来る。

 張りを強めれば、鞠のように跳ねる事も出来、俊敏さは思った以上にある。


 その他にも吸水性や繁殖など、様々な生体研究を行い、私が目覚めた洞窟の岩壁は、私が刻んだ記録で一杯になった。

 数えに数えて百日ほどか。

 幾度と無く思考の波を揺らし続け、いよいよ私は記憶の奥深くに近付いた。

 宝箱の鍵はもう少しで開かれる。

 私は何者だ、その疑問に終止符が打たれ


「おーい、問題を起こしてたAI、見つかったぞ」

「あぁ、ありがとう。こいつが空き容量食ってたんだな」

「何か、自分をスライムにされた人間だと思ってたみたいだぜ」

「なんだよそれ、自分で物を考えてたって事か?」

「自己学習プログラムの実験体だったけど、もう新しいバージョンが出来上がったからな」

「消すのも勿体無いし、バックアップだけ残しておくか」


 私は、檻に閉じ込められた。

 だが、生かされている。

 いつか、外の世界を見られると信じて-

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ