ロールプレイング
何故、勇者は魔王を討伐するのか。
何故、王様は全てを知っている風なのか。
何故、親の掃除機はゲーム機によく当たるのか。
「よくぞ来た、勇者よ」
「先祖より受け継いだ伝承に則り、参りました」
「そうか、ならば話は早い。そなたの祖先が討ち果たした魔王が、時を経て蘇った。ただちに討伐せよ」
「はっ」
よくあるロールプレイングゲームのように王様の前から始まり、魔王討伐に赴く勇者の冒険の始まり。
しかし、勇者には一つ、引っ掛かる事があった。それは、この国は大陸の片隅に位置する小国であり、国王の世界的な影響力も無いに等しい。魔王の根城は海を隔て、山を越えた遥か彼方の果ての地。勇者はつい、国王の見識の広さに疑問を抱き、尋ねてしまった。
「滅多な事を知るものではない」
国王は目付き一つ変えずに言い放った。勇者は何も言えず、王の間を後にした。
「ご先祖様からの伝承では、この国の王様に会えとされていたけど……何故、こんな小さな国に?」
気になって仕方がない勇者は、城下町に出て仲間を探すという順序を無視し、国王の部屋に忍び込んだ。
決して大きくない本棚を漁っても、広い世界を知るには到底足りそうもない所蔵、勇者の頭に浮かぶ疑問符はますます大きくなった。そんな中、勇者は気になる本を見つけた。
「なんだこれ……他の本と比べて、厚さが半分くらいしかないぞ。しかも、この大きさは?」
表紙も頁も、他の本と明らかに感触の異なるそれは、異質という他なかった。
あまりにも鮮明な世界地図、各国主要都市の詳細過ぎる情報、何故か洞窟や塔、神殿に魔王の根城まで、緻密に整えられたモザイクアートと共に記載されている。書かれている言語は分からなかったが、複数の異なる文字種を使い分ける事により、文章量を圧縮しているらしい事は分かった。
「これは一体……!?」
勇者を背後から刺す冷たい感触、熱を帯びた痛みは痺れに変わる。視界は暗転し、薄れゆく意識の中で不気味なほどはっきりと、国王の言葉が耳を打ち、それが勇者の聞いた最後の音となった。
「メタな事を知るものではない」
「よくぞ戻った、勇者よ」
「魔王討伐のその時まで、私の旅は終わりません」
「うむ、では行くがよい」
「はっ」
よくあるロールプレイングゲームのように王様の前から始まり、魔王討伐に赴く勇者の冒険の続き。
突っ込み出したらキリがないかもしれない、でも突っ込んでみたくなる。