未来のコンビニ
一本目は怪談……になるかは分かりませんが、おそらく怪談。
晩夏の夕暮れ時、近くの建設現場で働いていた作業員の男が、コンビニの駐車場に車を止めた。
片田舎のコンビニ特有の広い駐車場にただ一台、作業員は人気の無さに「土曜日だから仕方ないか」とぼやきつつ、帰り道に見掛けた見慣れぬコンビニに足を運んだ。
「なんだこりゃ」
男は間の抜けた声を上げた。
店内は最新式なのか、飲料から食品、菓子に衣類や生理用品に至るまで、全て自動販売機型だった。
「高速道路のサービスエリアとか、こんな自販機あったな。たこ焼きとか出てくるやつ」
そんな懐かしむ話をしながら、試しに何か買ってみる事にした。
千円札は何度入れても戻ってくるので、小銭入れをひっくり返して百円玉を何枚か探し出し、投入する。
表示されるのは見た事もない銘柄ばかり。とりあえず、と男は微糖の缶コーヒーを選んでパネルをタッチした。最新式に見える販売機とは思えないほど、中で大げさな駆動音が響く。間の悪い沈黙の後、コーヒーは取り出し口に落ちてきた。
「何だよこれ」
男は思わず声に出した。コーヒーは缶の開け口がない上、缶の塗料が劣化で剥がれ始めている。隣の販売機で菓子パンを買ったが、こちらは袋の代わりに密閉型のシートで覆われていたが、そのシートも劣化で手の中で崩れ、中身も変色が激しい。
「どうなってんだ!」
流石にカッとなった男は店員に文句を言おうと、本来ならばレジの置かれている辺りに駆け寄った。
しかし、その文句を言う相手はおらず、そもそもレジすらなかった。ATMや公共料金支払いのための端末が並んでいるだけであり、完全に省人化されていたのだ。彼以外に店内を動いているものと言えば、清掃と警備を兼ねたロボットが店内を巡回しているだけだ。
「くそっ……こんな不気味な所」
男が店内を見回すと、カレンダーや時計の代わりに日時が表示されたモニターが目に入る。そこに表示された日付を見て、男は愕然とした。
西暦2506年8月31日17時55分
男は恐ろしくなった。気が付くと、右手のコーヒーは缶の表面が錆び始め、左手の菓子パンは腐るのを通り越して朽ちて消える。店内や販売機の照明、各種端末が名滅し、ロボットは火花を散らす。恐怖に駆られて飛び出し、自分の車にかじり付くように戻ると、ゆっくりと振り向いた。
そこは、先月閉店した全国チェーン店の跡地だった。
ところで、未来のコンビニなのに、どうして現代の通過が使えたんでしょうね。
本当に『それ』は、未来のコンビニだったのでしょうか―