フルメンバー
風呂上がりの女性は何とも美しく見えるのは何故なんだろう。誰もがそう思うということは、少なくとも本能であるのは間違いないだろう。かおり、美津恵、と続き熊に襲われていたあの女の子が入ってきた。あのときは熊に対する恐怖と、少し暗かったのもあってあまり顔などを覚えていなかったがようやく分かった。
[オオー。すげえ可愛い。]
この男は人を直感的に褒めれる才能があると思う。162、3の背丈でセミロングの綺麗な髪をした色白の清楚
な女の子だった。顔のパーツから全体のバランスまですべて完璧だった。僕はこの女の子を橋本環奈と被せてしまった。
[初めまして、梅田凜って言います。さっきは助けてくれてありがとう。]
[いいんだよ。何てことはない。俺の勇姿を誉めても良いが]
と言い終わる前にかおりが鬼の形相で洋樹を睨んだ為、洋樹は普通にみんなを紹介した。
[じゃあ取り敢えず鍋を頂こうよ。ばあちゃんに悪いし。]
僕はそう言いみんなの茶碗に具を入れていった。
[ところでさ~、凜は何であんな所にいたの?だってあそこってよく見たらさ、行政の保護管理区で立ち入り禁止だったよね。]
賢次と僕たちでは見えている世界が違うのかと疑うほど賢次は視野が広い。また賢次の異次元さに驚かされた。しかし確かにそんな所にいるのはおかしい。僕は注意して聞こうとしたが、意外と答えはあっさりしていた。
[迷子になってて。それで]
凜の見た目からはそうは思えない意外な一面だった。
[私、光ヶ丘高校に合格したんですけど、親が家が遠いからこっちの近くにいる親戚の家に居候しにいきなさいって言われたからこっちにきたんです。で、この山を越える路線が無いから仕方なく山を登ることにしたんです。でも山を下る時に迷って、熊に会って急いで逃げようとしたけど、熊が追い付いてきて左足を殴られて足がやられてしまって、すごい痛かったんで、つい叫んでしまいました。それで、そこから逃げてたときに賢次君が熊避け鈴で熊を牽制してくれた。あのとき皆さんが来てくれてなかったら確実に死んでいました。からすごく感謝しています。本当にありがとうございます。]
声がすごく可愛かった。そして足を大怪我しているのに辛い表情を一つもせず、こんなにも明るくいられるのに、僕の心は動かされた。
[じゃあ凜ちゃん明日向こう行っちゃうんだ。]
全然まだ実質会ってちょっとなのに、何だかすごく寂しかった。
[あの。その事なんですけど、こっちの家に下宿したいんですけどだめですか?親戚の家嫌なんですよ。だめですかおばあちゃん。]
[何で親戚の家が嫌なんだい?この家より随分といいだろうに。]
僕は親戚の家が嫌な理由はこれだろうなと思っていたものがあったが、それは全然違った。
[実は親戚の家には、ニートの引きこもりの24歳の従兄弟の男がいるんです。でもうそれだけで結構嫌なのに、ソイツが下ネタ言ってきてセクハラしてきたり、胸を触ってきたりするんです。で、それをそこの親は黙認するぐらいですよ。もうそんな家行きたくないんです。]
僕は聞き終わったとき横目で洋樹を見た。洋樹はそれに気付き
[俺はそこまでしねえよ。少なくとも女の子に迷惑をかける事は。]
確かに洋樹はそこが違ったなと思った。
[最低やな、ソイツ。そういうやつはボコボコにしたればいいねん。]
と言いシャドウをした。
[かわいそうに。それだったら家に泊まっても良いよ。但し、お手伝いよろしくね。]
これはばあちゃんの定型文なのかな。まあそんなことはどうでもよくて、凜が一緒に住むことになったのはすごく嬉しかった。そして凜も喜びと感謝の気持ちを込め
[よろしくお願いいたします]
と言った。