優しさ
[どうゆうこと。]
僕は必死に意味を捉えようとしたが無理だった。そして美津恵は理由を説明しだした。
[実は賢次君の刺していた場所、上手いことあまり神経が無いところを刺していた。この傷口はそう思います。]
[ええっ!]
驚いた僕に構わず美津恵は続けた。
[そして、私あのあと思い出したんだけど、あのサイズになると簡単には喉笛を切れないんです。そして、もしミスしたら痛みで高瀬舟の喜助の弟のように普通に死ぬよりも何倍も苦しんでしまう。だから賢次君は喉笛をいきないかず、確実に死ぬ様に出血させ続けたんだと思います。だから木の枝も痛みがないよう一気に体から抜いていた。だから賢次はできるだけ痛まないように殺してくれた凄い良いひとなんだって。]
僕は最初何を言っているのか理解できなかった。美津恵が賢次を善人に仕立てあげ過ぎている。最初はそう思ったが、あの事件があるので、僕はそれが真というのも全然有り得ない話ではないように感じた。
そして僕は賢次がそこまで考えて行動していたなんて考えもしなかったということが分かった。この頭の回転の早さと動じない心、それをできる技術。僕は賢次がよりいっそう、かけ離れた存在だと気づいた。僕は美津恵に何も言わず部屋に戻った。
部屋には賢次がいた。賢次はニュースを見ながらナイフを研いでいたが、僕はそんなのを気にせず賢次の後ろの部屋の端に座った。それと同時ぐらいに洋樹が部屋に入ってきた。疲れで洋樹が階段を登って来る音すら聞こえなかった。
[ばあちゃんがアイスくれたぞ。]
そう言いアイスキャンディーを二人にくれた。
[なんだ賢次、ナイフ研いでるのか。大変だなあ。おっと、礼を言うのを忘れてた。賢次今日はありがとうな。イヤー俺さ、マジで怖かったわ。今俺らの命があるのも賢次のおかげだわ。本当にありがとう。]
[そうか。]
賢次は少し笑いながらそう返した。洋樹の第一印象が悪かったにも関わらず、すぐにいいやつと僕が思えたのはこの素直さなのかなと思った。
[あ、そうそう。女子が風呂でたら食事にするらしいよ。だからおばあちゃんが手伝って、だってさ。]
[そういうことは先に言えよ~。]
僕はアイスキャンディーの袋をもう開けてしまっていた。
[わりい。わりい。]
僕はアイスキャンディーを急いで口に入れ食べた。口が冷たく、さすがに歯茎にしみた。リビングに降りると、七人分の食器と椅子が置かれていた。和室なので昼もそうだったが、何だか宴会みたいな感じになる。今日はばあちゃんが僕たちが言っている間に買い物に行き、鍋ということになっていた。7人もいるのでそんじょそこらの鍋じゃ足りず、民宿時代の鍋を引っ張りだしてきた。何でもできる賢次は、料理もやっぱり上手だった。すごいスピードで野菜を切り、間に合わせた。
とはいえ、ばあちゃんには到底かなわなかった。伊達に主婦をやってないなという感じだった。料理の準備も終わったので、リビングで女子を待つことにした。洋樹はあの女の子の顔がやっと見れると、ワクワクしていた。僕も内心少しワクワクしていた。みんなで雑談をして5分ぐらい経ち女性陣がようやく到着し、リビングに入ってきた。