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キュベリズム  作者: ゼロ
新生活
5/8

賢次の汚名返上

帰り道は重く辛い、長い道に感じた。1キロ位のはずだが、1時間経っても着かないような気がした。みんながさっきの事で賢次に恐怖を抱き、おのおの考えていたからだ。賢次は弱点を突き刺した所まではかっこよかったが、あの連続突き刺しいらなかったと思う。確かに熊は弱点を突き刺したぐらいじゃ死なない。しかし、倒れこんだところで喉笛を刺しとどめをさせば良かったのではないか。おそらくみんなもこう思っていたはずだ。みんなが沈黙したまま家に着いた。


もう着いた頃には真っ暗になっていて、茶色かった熊も表面の血が黒く冷えかたまり、闇で黒い熊に見える程だった。熊は土間に運びこまれ明日解体することになった。リビングでは女の子の治療が行われていた。今は上を脱がしているため男は入らないようにとのことだ。しかし洋樹は女の子が僕らと同じくらいだったので興味津々だったが、かおりに睨まれ急いで2階にかけ上がっていった。


風呂は男子が先に入り、その次女子ということになっていたが、賢次が返り血でベトベトだったため先に賢次が一人で入ることになった。そして残りの4人は男子部屋で話し合う事にした。

[それにしても賢次ってサイコパスかありゃ。]

と洋樹がいいその話題を待ってましたと言わんばかりの顔でかおりが

[そうやで。相手が熊かてあそこまでやるちゅうのは人道外れてるで。まして最後にあんな指示を冷静に出せるって、感情の欠片もないんか。]

[アーロンに対する態度もおかしかったですもんね。普通はいきなりつかみかかろうとは思わないはずなんですが。]

とここまでの不満をみんなが一斉にぶちまけた。だが僕は何の不満も抱かなかった。確かに非人道的に思えるかもしれないが、あの事件の真相を知っているものからすればそれは違うと否定できる。


[第一戦おうと思いますか普通。あの場面は気を引いて逃げる場面じゃないですか。]

[そうそう。あれは俺なら逃げるね。]

[でもさ、あれは逃げれる盤面じゃなかったよ。女の子は足を折っていて、とてもじゃないけど逃げられる状態になかった。そしてそもそも、熊は逃げられる程足は遅くない。ましてやあの熊は相当かんかんだった。あのとき賢次が熊避け鈴を鳴らしてくれてなかったら、あの女の子は今頃あそこで横たわっていることになっているよ。]

僕は必死に賢次を守るため反論した。


[と言うてもな~。まあ戦った動機はいいけど、とどめをさせへんと刺しまくったことはかわりないやろ。]

[あー確かに。あれはナイフ持って街中出たら酒鬼薔だよ。]

賢次の信頼が極限まで減っている。だからここで汚名返上できなければ、きっとこの先意識のすれ違いが起こり、この家の空気は最悪になる。だから賢次の根底を分かって欲しく、僕はある一つの結論を出した。


[賢次はさ、人を助ける時以外にしか力を使わないんだ。自分のためなんかに使った事なんか一度たりともないんだ。今回もさ、みんなを助けたくて、守ろうとしたから、アーロンの時だってみんなの前にでて、熊の時だって縄なんか使わなくても倒せたのに、縄で僕たちの方に熊が来ないようにしていた。でも確かに行きすぎだと思うでも、みんなを守ろうとしたからって事だけは分かってほしい。]

と僕は賢次の汚名返上をするため熱意を込めしゃべった。洋樹とかおりはうんうんと頷き、分かってくれたみたいだが、美津恵は少し考えた様子でゆっくりと頷いていた。僕が話終わるのを待っていたかの様に賢次が階段を登って来る音が聞こえた。


僕と洋樹は待ち遠しかった風呂に、かおりは女の子の様子を見にリビングに、美津恵は忘れていた料理をしに土間に、四人で部屋を出た。賢次と部屋を出る時ちょうど会ったが、顔が疲れていたので、話しかけなかった。さすがに疲れはしているのだろう。


僕と洋樹は風呂に行った。扉を開けると洗面台と洗濯機があった。ここまでは脱衣所が少し広いだけで普通なのだが、浴室は違った。浴槽は幼児なら少し泳げそうなほどだった。天井も高くリビングといいこの家は僕たちが来るのを見越していたのか、そう思っていると洋樹が

[民宿だっただけあって広いな。]

と言った。

[やっぱりそうなんだ。]

僕は心で思った事をそのまま口に出した。今日会ったばかりの人と裸の付き合いをする。そういうことをしたことがないので(多分みんなそう)、何を話せばいいんだろう。


そう思っていると、

[じゃあ恋バナでもする?]

と仲間内でも僕からすれば苦手な事を要求してきた。でもまあこのくらいのほうがしやすいのかなと思い

[良いよ。]

と言ってしまった。

[じゃあさ、将弘はさ、どっちが好きとかある?]

といきなり一番言いにくい事を聞いてきた。でも正直二人ともタイプじゃ無かったので、

[う~ん。特に無いかな。]

と返すと、洋樹は喜んだ顔で

[ラッキー。いや俺さ、かおりタイプって言ってたじゃん。イヤー敵がいなくてよかったよかった。今日話しててよりいっそうさ、好きになったわ。あの正義感。すげーカッコいいわ。しかもあの走り方見た?フォームがプロってたわ。走るときにもう違うわ~ってなったわ。他には]

と恋バナというよりは、一方的に自分のタイプとかおりに対する思いを言い続けていただけのような気がする。


洋樹の興奮も収まって来たので、僕は一足先に風呂を出た。二階に上がろうとしたとき土間で美津恵が熊にもたれて泣いているのが見えた。僕は土間に行きサンダルを履き美津恵のそばまでいった。

[美津恵、どうしたの。]

そう言っても美津恵は顔を熊の毛の中に伏せたままで反応しなかった。

[確かに賢次がやりすぎたのは分かるけど、あの状況だと仕方なかったと思う。賢次にはいい印象は持てないかもしれないけれど、でも実際は、賢次は]

と言っていると、美津恵はゆっくりと体を上げ、こちらに泣き笑いの顔見せ

[うん。賢次はいい人なんだ。]

と言った。

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