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第三話

<数週間後>


ずいぶん口からものを飲みこめるようになっていて、離乳食のような食事ならとれるようになっていた。


ツンツンと肩を叩かれて、手のひらを上に向ける。すると文字を描かれる。

最近は自ら手のひらを差しだしていた。

まるでお手をする犬みたいだ。


「だ、い、じ、な、は、な、し」

1文字口に出して読む。


ドキリ、心臓が高鳴る。

ずっと聞きたかったはずだったのに、改まると聞きたくなかった。

長く逃避じみた思考放棄をしていた。

なぜ俺の世話をしてくれるのか、今はいつなのか、ここは何処なのか、俺はどうなってしまったのか。



━━━━━━━━━━

コハクはシオンから失明と失聴を言い渡された。

治る見込みはなさそうだ。

顔は8割が粉砕骨折していたと言われた。

さぞ顔も見るに堪えない姿なのだろうことが想像できる。

肋骨は12本中11本が折れており、肩甲骨も折れていたらしい。

そして足は動くことはない。

下半身不随のため今後の生活において車椅子生活は必至だという。


下半身麻痺は、血圧のコントロールができなくなる。

なので、寝たきりだった姿勢から急に座る姿勢になると、ブラックアウトといって、気が飛んでしまう。

だから、両手足をベッドにくくりつけて徐々に起こしていくというリハビリをしてくれていたのだ。


全て予想されていた事実なのだが、突き付けられた現実にぐさっと人生に道が経たれたように感じ、さーっと体温が下がる感覚がする。

まさに夢も希望もない。

同時に全身傷だらけで良く死ななかったなと再度自分のしぶとさに笑えてきた。

ここまで来たら生きていることのほうが不自然だろう。


そして驚くことに俺は植物状態から奇跡的に生還したのだと言う。

はぁ、喜ぶところなんだろうが、やはり諸手を挙げて喜べるほど生に執着しているわけではなかった。

武士の志ではないが、国のために死ぬのだと思っていた。

本望叶って国のために死ねたらのなら、俺の人生は大変満足……だったはずなのに。

━━━━━━━━━━




━━━━━━━━━━


『い・き・て』

その3文字を手のひらに書かれた。


「!!」

死にたいと思っていることがシオンにバレていたのか。

そんなそぶりをシオンに見せただろうか?

(俺の性格を読んだのか?)


実際、図星だ。


『死んだほうがマシだ』とありきたりなことがよく浮かんだ。こういう状態になって、考えない人間なんていないと思う。

考えることしかできない状態で毎日毎日過ごしていたのだ。

死にたいだなんて考えもできないくら腦がイカれればよかったとさえ思うのに、哀しいことに頭は正常だ。

警察官だからか、性格が知らないが、死が一番楽だと考えている。

生きることの方が辛い、犯罪者が自殺するのは狡い、罪を償えと思う。


今の俺はこんな状態になってまで人の役に立てるのか不安だった。


人に迷惑をかけて生きるのならば、死こそ人の為だと思う。

全ての事柄を天秤に乗せて重りで傾いた方を選んできた。損得勘定ってやつだ。

今回においても、俺が生きるより死ぬ方が世の為人の為だという事実に天秤が傾いただけだ。


次に迷惑を掛けないで死ぬ方法について。

例えば舌を噛んでも実際は痛いだけで、出血から気管が窒息して死ぬ。

正しい処置をされたら助かってしまう。

自殺未遂を起こしたと知られたら後が怖い、拘束されかねない。

それはそれで人に迷惑がかかる。

なので、監視されているであろう現在は下手なことを起こすことは控えていた。


それは自暴自棄のようで、人生を投げ出したようでもあった。そしてじゃあどうすればいいんだというところに戻ってくる。

『そんな事思っていない』と嘘をつく?

『そうです』と馬鹿正直に肯定する?

正解があるならだれか教えてくれ。


お前は十分国のために頑張った、だから怠惰に暮らしても許されるとでも言われるのか?推奨されるのか?


「………」

シオンに返す言葉が何も見つからず、回る頭だけコマのように回転させていたコハクに身体に回されるぬくもりを感じた。

(なんなんだよ)

平然と人の心に踏み込んでくる憎きシオンは今日も寸分たがわず俺の心にズカズカと入り込んでかき回していった。


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