魔術学園 初級編
王立魔術学園の授業はなかなかに厳しく本格的です。
貴族の子女ばかりということで「おほほほ」と優雅なお遊戯的お教室のようなのを想像してたわたしはちょっとばかり面食らいましたがアンにも言った通り授業が楽しいのは本当です。
厳しさに音をあげる生徒も多いようですがわたしはアンと一緒に予習復習してるおかげでなんとか授業には付いて行けてるよう。
王立魔術学園は王立魔術院の魔術師養成機関であり成績優秀者は卒業後は身分に拘わらず実力で国家の中枢の要人に引き立てられるということで下級貴族や平民としては将来のために踏ん張るところ。
上級貴族にとっても例えその方面の才能がなくともきちんと知識を学んでいなければ貴族としての権威に欠けてしまうということだそうです。
同世代の貴族がほぼ集結しているので社交の前哨戦として友好関係やコネを育んでおくのも大切なところ。
科目は基礎教養、基本魔術、魔法薬学、魔法生物学、歴史、実践魔術、占星術、民族呪術学、物理魔術、精霊魔術等があり、一年生の間は基礎教養と基本魔術がメインです。
ひととおり初級編を学んだところで5月下旬より学力試験があるそうです。
本当に実力重視なエリート養成スパルタ式、うかうかと遊んではいられません。
将来魔術関係の仕事に就くか、とか進路のことはまだ考えてませんが魔術の授業は目新しくて楽しくて触れる知識のすべてに興味津々です。
「ではエヴァンジェリスタさん。エンペドクレスの四大説から派生した精霊魔術におけるエレメンタルの主な精霊をいくつか挙げてください」
「はい、エア・エレメンタルのシルフ、ファイアー・エレメンタルのサラマンダー、ウォーター・エレメンタルのウンディーネ、アース・エレメンタルのノームがいます」
「良くできました。さらに他の精霊を知ってるひとはいますか?」
精霊魔術のジャーヴァス先生の質問にちらほら手が挙がってます。最も勢いよく鼻息荒くピシッと挙手しているのはアデル王子。
「ではアデル王子」
先生から生徒へは敬称禁止、基本さん呼びですが『王子』は省略できません。
「はい、エア・エレメンタルのジン、アース・エレメンタルのベヒモス、ファイアー・エレメンタルのイフリート、ウォーター・エレメンタルのナーガがいますジャーヴァス先生」
「良くできました。アデル王子。イフリートはファイアー・エレメンタルですが属性は火ではなく炎になります。ベヒモスも土ではなく大地ですね。初級編ではあまり関係ありませんが、二年生からも精霊魔術を選択しようと思うひとはよく覚えておいてくださいね」
上位精霊の名前を言えたアデル王子が得意満面、超ドヤ顔でこちらを見ます。
こんな時はにっこり微笑み返す、とアンに教わった通りに、ね。アデル王子は口元を弛めて頬を上気させて着席しました。これで正解なのかしら、あとでアンに訊いてみます。
人の持つ魔力には地水火風と光・闇の属性がありますがこれは大まかなもので人によっては風メインのサブ属性が火だったり、火属性メインで他の属性を少しずつほどよく持っていたりします。
入学式に属性テストでメインの属性は生徒全員明らかになってます。
もしも敵国との戦闘になれば属性は秘密にしておくほうが良いですが国内の生徒のみの学園なので安全措置のためにお互い明らかにしておくとのことです。いろんな生徒がいますからね。卒業後の内戦やクーデター阻止の意味合いもあるとかないとか。
基本のメイン属性は変わることはないですがサブ属性は魔力を高めれば変えることも可能とのこと。
わたしは光属性だけど訓練次第で、例えば精霊魔術だとシルフやウンディーネを召還することもできるようになります。イフリートなんかの上位精霊はさすがに無理だと思うけど。
「四大エレメンタルの他には、光属性の精霊だと例えばウィル・オー・ウィスプなんかがいますね。このウィル・オー・ウィスプは比較的召還しやすくよく使役されます。いったいどんな使役理由でしょうか?わかるひと」
ジャーヴァス先生が黒板から生徒の方を振り返るとみんな顔を見合わせたり下を向いたりしています。教科書に載ってない質問ですもんね。いちおう知ってるけど…
「ではファリスさん」
「はい、探索魔法に使役されますジャーヴァス先生」
「良くわかりましたね!すばらしいですファリスさん。どこで学びましたか?」
「わたしの育った田舎のほうでは狐火と呼ばれる野良のウィル・オー・ウィスプがいました。それらをなつかせて物を探す仕事をしていたおばあさんに教わったんです」
どこからともなくクスクス笑いが聴こえます。あぁ、田舎、に反応したのですね。貴族の領地なんて殆どのどかな田舎でしょうに不思議ですね。
「ファリスさんはコーリッシュの湖水地方育ちでしたね。コーリッシュは沼地も多くその瘴気をエネルギーにする野良のウィル・オー・ウィスプが好んでよく現れるようです」
ジャーヴァス先生がにっこりと言いました。
野良?野良の精霊?と生徒たちから疑問の声が漏れてます。
「これまでもみなさんが学んだとおり精霊は本来エレメンタルプレーンと呼ばれる次元から精霊魔術で召還されます」
ジャーヴァス先生がにこやかに説明する。
「ですがたまにひょんなことからこの次元に存在を現す精霊がいます。それをウィル・オー・ウィスプのような下位精霊の場合は民間では野良と呼ぶことがあるんですね」
へぇーと頷きながら生徒たちがノートを取っているとジャーヴァス先生がもうひとつ、とつけ足しました。
「美青年を湖に引き込むウンディーネなどはよく昔話に登場するでしょう?あれも野良です。現代でも野良ウンディーネはいるのでイケメンのみなさんは水辺を歩くときはくれぐれも注意してくださいね」
イケメン自覚があるのかアデル王子やダレイトン様があからさまにウヘェという顔をしてます。それを見てクラス全体に笑いが巻き起こります。
女子生徒の幾人かは心配そうにアデル王子やダレイトン様を熱い眼差しで見つめています。ハーロウ様を見つめる女子もいますね。やはりイケメンはモテるようですね~。