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ヒュトラン家のほうへ

 


「お待ちしておりましたわ」


 クララ様がティーセットをすっかりご用意なさってるのをグリフィス様が引き継いでお茶を淹れて下さいます。4人分あるので予定通り、だったようですね~。


「兄上が淹れたほうが美味しいんですのよ」


「お茶が好きでね、自分で淹れたいんだよ。今日届いたスプリングフラッシュ、どうかな?」


「花のような香りがふわっと広がって…、こんなお茶初めてですー」


「仄かな甘味があるね。うん、いいね美味しい」



 相変わらず優雅な所作でお茶を飲むグリフィス様はにこにこです。美形の幸せそうな笑顔は見る方も至福ですね。お茶もとっても美味しいです。



 ここは王都のエスター公爵邸です。ほんとうに何がどうなっているのやら魔術学園5階の某扉をヒュトラン兄妹が開くとこの豪奢な応接間にたどり着きます。一度試してみたのですがわたしやノイシュが開くと普通の教科準備室でした。


 この仕組みばっかりはヒュトラン兄妹と仲良しのノイシュも知らないし教えてもらえないようで、最初に来たときに驚いていたのはわたし向けの知らないふりではなかったようです。






「それで、わかったの?」


 ノイシュがなんでもない風におっとりと訊ねます。


 うん??



「証拠が出揃わないんだけどね。知りたいだろう?」


 そうなんですよね、ノイシュとヒュトラン兄妹の会話って基本当人同士でしか分からないんですよね~。何のお話しなんでしょう?て、あ、もしかして……?


 わたしの勉強は今日は諦めたほうがよいのかしら?



「手伝ってもらいたいことがある。学園でこの件に拘わっているのは君たちだけだからね、あ、ファリスさん勉強の時間はちゃんととるからね」


 わたしはそんなに顔に出てるのかしら?グリフィス様の察しが良すぎるのですよね?ノイシュといいこの方々の察知能力ってどうなってるのでしょう。



 グリフィス様のお手伝いという名目の命令を一通り聞いて(内容の細かい把握はノイシュがしてます…)やっと勉強を見てもらえます。




 ノイシュとクララ様は庭で剣の稽古です。稽古無しの日のはずなのに会うとやりたいようですね。鍛練、というよりも好きで好きでたまらない、という感じです。


 あ、おふたりがお互いに好き、というわけではなくて剣のことですよ。おふたりとも剣の打ち合いを、顔は真剣ですがとても楽しそうにしてらっしゃいます。ちょっとあの間には入れませんね。





「波動療法とフィトケミカルだと同じ植物を使っても全く効果が違うのが不思議なんです」


 わたしは真面目に勉強することにしましょう。


 グリフィス様はわたしの真横に座ります。素敵な殿方がこうも近いとさすがにちょっと照れますね。


「このエッセンスの方は波動、周波数を調えて精神や身体を含む魂を本来の完璧な状態に導く。フィトケミカルの方は不調に合わせて処方される、対症療法の薬剤に近いね。楽器で例えると調律が波動療法、故障の修理がフィトケミカル、という感じ。伝わるかな?」


 波動療法の花のエッセンスとフィトケミカルの植物の精油を並べて指差しながらグリフィス様が噛み砕いて説明してくださいます。


 エッセンスの方は香りはありません。うっすら保存料代わりのアルコールの匂いがするくらい。精油の方は強烈な、濃縮された植物の香りがします。たしかに全く別物ですね。



「なんかわかったような…あれですよね?シュタイナー先生の話にも通ずるような。魂に関係するんですよね?エッセンスはその人そのものの本来の在り方に戻す、フィトケミカルは心身の壊れた部分を癒やすためのものということでしょうか?」


「なかなかいい理解だよ。君にあげるといった香水はフィトケミカルだね。ローズマリーは記憶力の向上だけじゃなく病気の予防にも役立つし、女性には美容にいいことも喜ばれているね。それぞれ同じ精油を使っても用途別に違うレシピが必要だけど。エッセンスの効果は、じゃあ宿題にしとこうかな。はいどうぞ」


 ガラス細工のとても綺麗な小瓶を、わたしの手を持って渡してくださいました。グリフィス様のほんのり冷たい手指の感触は不思議と優しく心地良いです。


「わぁ…きらきらしてる。なんだかプレゼントみたいで嬉しいです~ふふ。こんな綺麗な瓶に入ってるなんて素敵…」



 殿方にこんな綺麗なもの貰うのって初めてで少しどぎまぎして顔がにやけてしまいます。中身は頭が良くなる香水と些かロマンスに欠けますけどね。わたしも少しは察知能力が上がるでしょうか?


「これで喜んでくれるなんて、ふふ、ファリスさんは可愛らしいね。じゃあこれをあげるからには勉強頑張ってもらおうかな?試験の結果が良かったらもっと素敵なものをあげよう」


「えっ、そんな、いいんですか?やった嬉しいです」


 グリフィス様がくださるものってとても素敵なものに違いありません。楽しみ!がんばりましょう…勉強!


「ファリスさんには色々と手伝ってもらうしね。実際に剣も取り戻してもらったし。本当に感謝してるんだよ」


 小瓶を持ったわたしの手を優しく両手で包み込んで、とても優しい声ででそうおっしゃいます。


 そんなふんわり柔らかい笑顔、できたんですねグリフィス様。素敵。なんだかお父さんみたいですね。ふふ。





 ふと窓の外を見るとクララ様とノイシュが剣を振りかざしたままこちらを真顔でじっと見ています。うん?




 もしかしてわたしとグリフィス様って、手を取り合って見つめ合ってるような構図ですかね?



 違う!


 話してるのは勉強とかお手伝いの話なんですよ!違いますからねノイシュ!







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