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美少女令嬢登場

 魔術学校入学二日目。


 登校するとまたもや周囲のざわめき。視線が刺さる刺さる。


 また昨日とは種類が違う感じ。聖女がなんだのと聞こえてますよ?お貴族のみなさま。

 あれですね、昨日の属性チェックの結果の話ですね。

 わたし、いじめられっ子確定なのでしょーか…。



 今日は授業というよりも各先生方や授業内容の説明、選択科目や校内の案内などのオリエンテーションみたい。

 クラスの生徒の自己紹介もあった。やはりクラスの八割方はお貴族さまらしい。一般人の方々も結構いらっしゃるようでほっとする。

 立場は男爵の娘ですけど貴族生活4ヶ月目の新入りなものですからまだまだ気持ちは平民なんですもの。



 授業中の席を決める。決まった席によってグループが作られそのグループ単位で行動を共にするのだそう。


 お貴族様が殆どだけれど学園の授業を受ける間生徒たちは階級関係なく平等に扱われるルール。


 制服で同じ格好をするのもその為。貴族の方々は自由に着崩したりアレンジしているようですが。


 貴族のご子息ご令嬢方は入学前からの顔見知りも多く生徒同士の接し方には当然階級差は隠しようもなく。

 わたしの事情はみなさんご存じのようなので平民感覚の知りませんでしたーテヘっ☆で通すことにしましょうそうしましょう。


「同じグループだなディアドラ」

 キラッキラの笑顔の金髪ゴージャス美少年がにこやかにこちらに向かってくる。

 アデル王子様ー。またあなたですかー。いえ親切な美少年なのですが。彼は何一つ悪くないのはわかっているのですが。またまた視線があちこちから突き刺さりますよー。

 うぅ。

 平等とはいえ王子様と男爵令嬢ごときをいっしょくたにしちゃいますのねーそれ逆に不便極まりないと思いますー。


 わたしのグループはアデル王子と他に五人。王子様取り巻きの一人ハーロウ様。侯爵令嬢カースティ様と伯爵令嬢アゼリン様。騎士の家系のフィルドさんと商人の娘さんのエヴァンジェリスタさん、以上7名。

 アデル王子とハーロウ様以外ははじめまして。

 様付けなくてよい方が二人もいらしてありがたいわ。

 自分が上とかじゃなくてわたしの気持ちはそちら側なんですもの。ともにがんばりましょうと心のなかでガッツポーズ。



 通常の授業が始まって数日、このグループ制度意外に悪くないことに気づく。

 アデル王子や高位貴族の侯爵令嬢カースティ様とほぼ一緒にいるおかげか面と向かっていじめられることもあんまりない。

 まぁちょっと足を掛けられたり、ちょっと教科書隠されたり落書きされたり。かわいいありがちなちょっかい程度で済んでる。ありがたい。


 エヴァンジェリスタさんも平民なのでもっと見下される覚悟だったとかであまりの平和さに逆に肩透かしをくらってるご様子。

 平民とはいえエヴァンジェリスタさんは大きな商家のお嬢さんで下手な貴族よりもお金持ちなんだとか。



「ファリスさん、お昼はいつもどうなさってるの?」

「エヴァンジェリスタさん、わたしはお弁当なの。お庭で食べてるんです」

 食堂を利用する人が多いがそちらは初日にお水をひっかけられて以来近寄らないことにしてる。

「お弁当!自分でご用意されるの?」

「侍女に手伝ってもらってなんとか」ほぼ自分でするけどここは一応令嬢ぶりっ子。

「えーお料理なさるのね。すごいわ。一緒に食堂に行きたかったけど、じゃあまた今度」


 料理ってほどのものではないですけれども。簡単なサンドイッチとかね。自分で作るの楽しいし好きな物食べれるしわりと気に入ってる。

 のどかに暮らしてきたせいかお貴族さまの豪華な料理は美味しいけれどもチーズとか黒パンとかじゃがいもとか素朴な物のほうがホッとする。

 食堂は貴族の子女向けの手の込んだメニューが多かったなー。



 いつもは目立たない回廊の中庭で食べるけど今日はお天気も良いし見晴らしの良さそうな裏庭に行ってみよ。



 思った通り裏庭は遠くの丘陵と山脈の連なりまで見えて気持ちが良い。

 先客がいるわ。亜麻色の髪の男子生徒。あら同じグループのフィルドさんですね。奇遇ですね。

 わたしに気づくとほんわり笑顔で手招きしてくれたのでフィルドさんの横に腰掛ける。

「フィルドさんもお昼はここで?」

「うん、ファリスさんも?」

「いつもは中庭で頂くんです。ちょっと前までいつもお外で食べてたし気楽なので。裏庭は初めてですが景色がきれいで気持ちがいいですね」

 そう言うとフィルドさんもにっこりと頷いた。にっこりていうかぽわっと微笑む、て感じかな?


 フィルドさんのランチはバゲットにハムとレタスをたっぷり挟んだサンドイッチとオレンジの入ったアイスティー。ちなみにわたしはチーズと卵の黒パンのサンドイッチと温かいミルクティー。ふぅ。美味しい~。


「お外……ちょっと前まではなにしてたの?」

「羊や牛や山羊を追ってたんです。お手伝い程度ですけど」

「平民だったって聞いてはいたけど本当なんだね~。今の姿からはとても想像つかないけど」

「え、そうですか?なんとか貴族に見えてますか?」

「なんとかどころかどこから見てもきれいな貴族のご令嬢だよ?」

「ほんとに??誤魔化せてますか?うわーんよかったー!」

 わたしの言葉にフィルドさんは意外そうな表情をしたあと声を上げて笑った。わ、笑顔かわいい。つられてわたしも笑う。


 こんなに素で笑ったの久々すぎて気持ちがとても軽くなった。やっぱり気を張ってたんだな、と気づく。


 授業中はいつもアデル王子中心に話が進むのでフィルドさんは頷くばかりで無口な人かと思ったけれど、心地よいやさしい声で実はよくしゃべるんですね。


 アデル王子やハーロウ様、ご令嬢方の派手な美貌に囲まれてるととても地味に感じるけどフィルドさんの顔立ちは整っていて頬のラインはふっくら柔和。

 細くてすっきりした目元は少し垂れて見えてそこもやさしい印象。

 特徴がないとも言えるがよくよく見ると骨格がきれいで左右対象、パーツのひとつひとつがまろやかできれいな形をしている。笑うとくしゃっとなるのもかわいらしい。


 なんとういか、このひとほっとする。


 フィルドさんものどかな騎士領で育ったとのことで羊や牛追いのお手伝いをしてたらしく田舎あるあるで話が弾む。


 バゲットサンド美味しそうだなーと見てるとひときれ交換してくれた。

 マスタードのきいたバターが塗ってあって素朴な見た目なのにハッとする美味しさ。

 めっちゃミルクティーに合う~幸せ~。

 夢中でもぐもぐしてるとフィルドさんはふわふわと微笑んでくれた。

「卵にディル入れてるの美味しいよね。僕の家でもよくそうするんだよ」

 わたしのサンドイッチも気に入ってくれたようでうれしい。

 フィルドさんとわたしはどうやら味覚が合うみたい。





 授業が終わって寮に戻ると侍女のアンがお茶を出してくれる。

「お嬢様、授業はどうですか?学校には慣れましたか?」

「うん、思ったよりも授業は楽しい!貴族の付き合いはやっぱりまだ慣れなーい」

 そう言って笑うとアンも微笑んでくれる。


 アンの淹れてくれるミルクティーはとても美味しい。白地にブルーのボーダーラインのマグカップはわたしのお気に入り。

 男爵家ではマグカップなんて使えないけどここでは許されるから、とわたしの育ったコーリッシュ地方のものをわざわざアンが探してきてくれたもの。

 ミルクティーはしとやかなティーセットよりもマグカップにたっぷり注いで飲むほうがほっとする。


「今日はなんだか晴れやかなお顔してらっしゃるのでいいことでもおありかと思ったんですよ」


 こんな平民上がりのわたしにもアンはとてもやさしい。


 侍女なんて気を使う、と最初は思っていたけど年上のアンは男爵家に長く仕えており、マナーやしきたりに詳しいおかげで今では頼りっぱなし。


「アンのおかげでここに戻るとほっとするけど、そうねぇいいこと、あったかなぁ?ふふ」

「ふふ。夕食の時間まではいつものように復習されますか?」

「今日は図書室で復習してきたの。だから早めに予習して夕食後は厨房を借りてお菓子でも作ろうと思うのだけどアンも手伝ってくれる?」

「もちろんですよお嬢様。ふふふ」お察し、という表情でくすりと微笑むアン。

 えっなになになんかおかしなこと言ったかしら?

「ふふ、なんでもございませんよ。夕食の準備をして参りますね」

 そういいながらにこにこしてアンは部屋を下がる。もうアンったらなんなのよー?



 翌日、お昼に向かうわたしの前にアデル王子が立ちはだかる。

「ディアドラはお昼御飯はお弁当と聞いたのだが?」

「はい。さようでございます」

「今日は僕もお弁当を持って来たのだ。一緒にお昼を取ろう」

 おっふ。王子様のお誘いは断れません。取り巻きのハーロウ様とダレイトン様ももちろん一緒。お昼くらいはゆっくりだらっとしたかったけど仕方ない。


 昨日と同じく裏庭に来て見たけれど、あら、フィルドさんは今日はいらっしゃらないようね。

「ディアドラ、それはなに?」とサンドイッチの横の包みを指差すアデル王子。

「昨日パウンドケーキを焼いたんです。良かったら食後に召し上がりますか?」

「ディアドラの手作りなの?わぁうれしい!今すぐ食べたい!」

 アクアマリンの瞳をキラキラさせてパウンドケーキを頬張る王子様。まぁおかわいらしい。

 まだまだ少年ですね。ハーロウ様とダレイトン様も食事よりも先に食べてる。

「めちゃくちゃ美味しいよ!すごいなディアドラ」あれ、いつの間にかお二方にまで呼び捨てにされてる。まぁいいけど。

「料理上手だなディアドラは」


 そう言って最上級キラっキラ笑顔のお三方。

 美貌が爆発してますね。眩いわ。

 パウンドケーキなんて材料全部同じ量計って混ぜてオーブンにぶっこむだけなんですけどこんなに喜んでもらえるなんて簡単なお方たちですね。

 貴族が料理なんてはしたないとか言わないところはとっても素敵だと思います。


「ところでディアドラ、今度の新入生歓迎会のパートナーは決まってる?僕の申し込みはまだ間に合うかな?」

 おっふ。

「アデル様抜け駆けはいけませんよ!」「そうだそうだ!」お二方が叫ぶ。

 そういえばそんなこと朝礼で言ってましたわね。

 お貴族様の催しってなんで基本ペアで参加なのかしら。てゆーか王子様のお誘いに拒否権てあるの??

 一応生徒同士は平等なのよね。ちょっとアンに相談してみよう。この場は笑ってごまかしとこ。


 イケメンに囲まれて緊張気味のランチタイムを終えたわたしは教室に戻る前にお手洗いへ。

 そこでご令嬢方に声を掛けられる。あらら別格の美少女です!

「はじめまして。わたくしはエスター公爵の娘のクララ・ヒュトランと申します」

 プラチナブロンドの見事なカールヘア。小さな白い顔にばら色の頬。星が輝いているようなパッチリとした深いブルーの瞳に長いフサフサの睫毛。さくらんぼのような艶やかな唇。

 きりりとした細い眉は凛とした雰囲気を醸し出してます。

 わたしが出会った人の中でいちばんの美人さんですね。


 他に二人のご令嬢も一緒。こちらは取り巻きですね。


「はじめまして。わたしはウルド男爵の娘のディアドラ・ファリスと申します」スカートを持ち上げて礼をとる。


「存じております。あなた有名ですもの」知ってる。で、どの有名理由の難癖かしら?おぉー手が震える。


「先程、アデル様と一緒だったようですが?」


「は、はい。アデル王子殿下とお昼をご一緒させて頂きました」


「他にエリオット様とイライジャ様もいらしたとはいえ婚前の女性がひとりで男性とお食事なさるのは感心しませんわ。今後は大勢他の生徒もいる食堂で食事をとるか、もしくはどなたかもう一人女生徒をお連れになるべきです」


 たーしーかーに!アンにも怒られちゃう案件だわこれ。


「ご指摘ありがとうございますクララ様。無知でお恥ずかしいかぎりです。以後気を付けます」

「ご理解いただけたようでよかったわ。それではファリスさんごきげんよう」


 もう一度スカートを上げて礼をとると気高い美少女は去っていった。


 なんだーただの親切な美少女じゃん!トイレに閉じ込められでもするかとひやひやしたのに。

 やっぱり高貴なお方はそんなことなさいませんね。ふぅ~膝から下がまだぷるぷるする。力が入りませんわ~。


 お手洗いから戻るとアデル王子が心配そうに顔を覗きこんできた。ちょっとその眉下げて首かしげる感じなんなのかわいい!子犬系ですね。


「あの…今、クララがいなかったか?」

「はい」

「その、ほら…大丈夫…か?」

 え、なにが?あぁ…

「あの、申し上げにくいのですが…」

「なんだ言ってみろ」

「アデル王子殿下。今後はお昼を誘ってくださるときはカースティ様やエヴァンジェリスタさんを一緒に呼んでもよろしいでしょうか?」

「クララがまたなんか変な言いがかりを…まったく」顔をしかめるアデル王子。


「気にするなディアドラ。といってもあれだから、そうだな今後は気をつけよう。ディアドラのために」


「ありがとうございますアデル王子殿下」

 よかった、わかってもらえてー。

 ほっとして微笑むとアデル王子の顔がぽんっと赤くなった。


 そうですよね、王子のマナー違反を遠回しに注意されてるんですものね。恥ずかしいですよねきっと。王子とはいえまだ少年ですものねー。


「ディアドラ、外でのランチはピクニックみたいで楽しかったが今後は食堂で一緒に食べよう。食堂なら人がいっぱいいるから気にしなくていいしカースティもヘザーもいるから。な?」


「はい」

 おっふ。お外の息抜きタイムが…。うぅ。アデル王子はかわいいんですけどもね。悪気もないんでしょうけども。




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