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めくるめく世界で 2

 


 僕はアデル王子であったが時が戻り公爵令嬢クララとして生きることになった。



 なぜだかわからない。



 アデル王子としての前の時間軸での記憶があるが、クララとしての記憶もある。幼女としての記憶ではなく世界がグニャリと変わるまでの、あの婚約破棄までの記憶だ。


 今の自分はアデル王子でもクララでもあった者だ。


 つまり過去に戻っているのではなく前回のあの時間から改めてやり直しをしているのだろう。でなくては子供のクララの身体にこの記憶はないはずだ。


 きっと誰かが魔術を行使したに違いない。


 時空間を操る魔術は光属性か闇属性のどちらかしか出来ない。どちらの属性も珍しいから、再びあの卒業パーティーの時に、いやその前までに禁断の魔術を使った犯人を探し出せるだろう。



 クララは頭がいい。


 だからふたり分の記憶に混乱することもなくわりと冷静に状況を察することができた。エスター公爵令嬢クララ・ヒュトランとして生きる切り替えはすぐにできた。


 アデル王子の思考力のままならきっと自分はアデル王子だと泣き喚いて狂った幼女は僻地の別荘にでも軟禁されたに違いない。


 クララのことを少し聡いからと人を見下してつんけんしてる嫌な令嬢だと思っていた自分が本当に残念でならない。



 クララとしての身体に宿っている記憶、主に脳かな?この思考力でもって前の自分の行動を省みると自分がどれだけ残念な王子だったかがわかる。


 天使のような、人形のような美しい見た目に反してチャンバラばかりしてるやんちゃで、同世代の男の子としては普通だが王子としてはいささかお馬鹿だった。


 そんな王子の婚約者にされたクララのショックときたら……。


 クララは自分のことが好きで執着しているのだと思った。愛されているのだと自惚れていた。見た目は美しいので女性にはモテていて勘違いするのも仕方なかったとは思う。


 本当のところクララは王子としての品位にかけるお馬鹿な王子をどうにかまともにしようと必死だったのだ。



 8才になると王命でアデル王子とクララは婚約する事になる。


 これも今のクララとして察するとお馬鹿な王子に少しでも賢い妃を、という親の愛だとわかる。僕は親にまでお馬鹿認定されていたのだなぁ…。両親の国王と王妃は幼いうちから賢さを見せるクララにすがるように婚約を取り付けたのだ。



 僕が、いや、わたくしの心にアデルがいるのにアデル王子はちゃんと存在している。あの王子の中のひとはいったい誰なんだろう?


 クララである自分から見えるアデル王子は前の時間軸の自分と同じ、やんちゃで奔放な困ったちゃんだ。彼に前回の時間軸の記憶があるようには全く見えない。確実にない。あったとしたらその演技力に脱帽する。


 天使画から抜け出たような見た目だけは本当に可愛らしい。


 元の自分と結婚とかありえない。先手を打って全力で婚約を回避したが結局婚約者候補、というのが頑張った結果だった。


 国王と王妃に、逆にお馬鹿な王子との婚約を避けようとした行動力と察する能力を買われてしまい気に入られてしまったのだ。


 婚約者候補としてアデル王子に接することが増えると意外な感情が芽生えた。


 これは……なんというか、あれだ。多分馬鹿な子ほど可愛い、とかなんとか……。


 前回の、いや、面倒くさいので前回の世界=前世と言おう。


 前世でクララが至らないアデル王子を執拗に注意して回ったのもお馬鹿すぎて困っただけではなくてどうにかしてあげたいという親心のような気持ちがあったからなのだ。


 恋心ではないがそれなりにクララはアデル王子のことを大切に思っていた。


 あの婚約破棄のときの悲しそうなクララの表情を見てアデル王子として『しまった!』と思えた理由も今なら理解できた。


 なんというか客観的にアデル王子は躾のなってない仔犬のような可愛いらしさがある。間抜けでやんちゃなわんこほど可愛い。


 やはり親心?から婚約者()()に留めたにも拘わらず現クララもやんちゃなアデル王子を諌める係に着任してしまった。


 身体の記憶や気持ちに思った以上に引き摺られるようだ。








 魔術学園に入学する年を迎えた。


 ディアドラに出会うと王子のお馬鹿ぶりは違う方向に加速する。これをどう諌めるべきか、関わらないのが最善なのだが多分クララの身体はそれを良しとしないだろう。


 クララになって分かったことはディアドラは確かに貴族の令嬢としてあまりにもマナーがなっていなかった。


 可愛い笑顔なのだがその笑い方、食事の仕方、言葉遣いや歩き方、淑女の礼の取り方、等全てが落第点という酷さだった。


 そんな彼女を誰もが笑い蔑んでいるのを見かねて貴族の子女としての振る舞いを教えようとクララが頑張ったのだ。


 アデル王子の友人としてふさわしい令嬢に育てようと。光の聖女となるのであれば困るのはディアドラだ。


 光の聖女なら男爵令嬢でも王子妃となることは可能。アデル王子と結婚するのであれば王子妃として周囲が納得する美しい振る舞いを身に付けさせねば。




 クララ、本当にごめん。




 アデル王子の次元ではクララの考えなんて露ほども思い至らないものなのだと改めて悲しくなる。









 現世で、ディアドラは案の定入学初日から目立っている。


 ディアドラに出会うとアデル王子としての心を持っている自分が再びあの恋い焦がれる想いに引き摺られるのではと危惧していた。




 ディアドラを一目見て気がついた。


 彼女はディアドラではない。


 前世の彼女とは見た目以外全く違う。


 その振る舞いも話し方も貴族の令嬢として申し分ない淑やかさがある。前世でクララがディアドラに求めたものがすでにある。



 ほんの少しばかりのおいたを咎めても前世の彼女とは違って粛々と受け止めていた。



 会話をしてみると前世の彼女との共通点もあった。




 ディアドラがクララを見つめる眼差しは前世の彼女がアデル王子であった自分にしたそれと全く同じだった。



 身体と心の……魂のか?記憶は複雑に交差するようでどちらかと割りきれるものではないようだ。


 ディアドラの中のひとは前世と違うがその身体の想いがクララの中のひと、アデル王子に反応しているのだと分かった。



 これは困った、ディアドラ可愛い……。








ひたすら説明回でごめんなさい。

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