魔術学園 初級編 2
「占星術とはなんじゃ?世間一般にどんなものだと認識されておるかな?さて、今日は28日だな、28番の生徒」
シュタイナー先生は生徒全員を見渡しながらのんびりと質問しました。
一年生のうちは占星術の授業は月に一度しかありません。わたしたち新入生には今日が初めての授業となります。
シュタイナー先生の教室はドーム状の天井があり窓は遮光カーテンで閉じられて昼間でも真っ暗です。
ドーム状の天井には不思議な装置から出た小さな光がたくさん映し出されて、まるで夜空に星が広がっているようです。
「えぇと、星占いのことでしょうか?天体や星座の位置と生まれたときの星空とで今日はどんな日になりそうとか好きな人との間にどんな未来があるのか、とか……予言とはまた違うのかな?新聞の隅にあって毎日確認する人が多いと思います」
当てられた28番の女子生徒がおずおずと答えます。
「そうじゃろうな。一般的にはそう思われてると儂も感じておる」
シュタイナー先生は教室の中央にある教壇から降りて側にあった椅子に腰かけました。
先生は立派な白い髭がふさふさとしていて金色の縫い縁のある黒くて長いゆったりとしたローブを着ています。賢者というか仙人というか、ちょっと非現実的な雰囲気があります。魔術学園来たー!という感じがしますね。
「今日は占星術最初の授業。まずは根本的な考え方や雰囲気を感じとってもらおうかのぉ。理解しようとすると難しいじゃろう。理論として考えると矛盾を感じるやもしれぬ。なぁんとなく先生がそんなこと言ってたなぁ~という感じでゆるーく聞いてほしいのじゃ。これからの占星術の授業での基礎となる、そうじゃな、基本の基本の話じゃ。童話とか読み聞かせの絵本くらいに思ってくれたらよい」
仙人は星空のような天井を指差して話始めました。
「星の在るところというのは宇宙じゃ。では宇宙とはいったいなんじゃろうか?わかるひとはおるかな?」
ちょっと、壮大すぎてわかりません。この授業が睡魔との戦いになりそうな予感しかしません。まさか寝る前の読み聞かせでしょうか……。幸い教室は暗いですし寝てしまってもわかりません。
これは寝てスルーしても大丈夫なお話しのようですよ~。
「宇宙とは全てのことじゃ。全てであってたったひとつ。それがこの世の全てじゃ。それは人にも言えることでの。儂らは一人一人違う人間じゃ。少なくともそう認識して生きておる。でも違う人間だと思っておるから違うだけで、やはり全てはたったひとつなのじゃ」
さっぱりわかりません。どうしましょう。アデル王子はすでに瞼が半分塞がってますね。
「この思っておる、というのが大切でな。儂らは違う人間と思っておるが全てはひとつの魂なのじゃ。儂らは違う存在としてこの世に生を受けたと思っておるたったひとつの魂なのじゃ。全ての人間は神の子、とは様々な宗教でも言われておるがこれは比喩ではない。儂ら人間は誰しもが神の子じゃ。もう少し厳密にいうと神の分身なのじゃ。そして分身だと思っておるから別々の個体のように思えるだけで実際はやはりひとつなのじゃ。本当は分かれてなどおらんのじゃ。その全てでありひとつというが唯一にして絶対の神、それが宇宙と呼ばれるものであり儂ら人間なのじゃ」
仙人は、シュタイナー先生は見事な髭を撫でつつ続けます。この世には色んなものがあるように思ってるけど実際は唯一絶対の神様しかいないってことでしょうか?ちょっと理解するのは諦めました。
「全てはひとつといった。その全ては今ここにあるのじゃ」
あ……周りを見ると殆どの生徒が目を瞑っているのが見えます。教室が暗いのもあるし仕方ないかな。アデル王子は舟を漕いでますね。わたしはこうやって意識を反らして目的を理解する事から起きてること、に変えました。
「時間も空間も全てここにある。過去も未来も幻想じゃ。あっちもこっちも地球の裏もすべてここにあるのじゃ」
横を見ると、あらノイシュはきちんと聞いているようです。それもわりと真剣に。理解してるのでしょうか?凄いですね。
「絵本や物語の本で考えると分かりやすいかもしれぬな。絵本の中では初めがあり終わりがある。その間は何年も経っているかもしれない。そしてあっちからこっちへと何㎞も移動するかもしれない。そして様々な登場人物がおるやもしれぬ。しかしながらそのすべてはたったひとつの絵本の中にすべてあるのじゃ。この世界も同じような原理でできておる。違うのは絵本は一方通行に進むが生きておる人間には無数のシナリオと無数の選択肢があるということじゃ。人間はそれを瞬間ごとに選びながら進む。瞬間ごとというと時間が経っておるように思えるが実は常に今しかない」
あー、絵本例え、なんかわかるような……うん。睡魔が強すぎ……。
「という無意識の世界の話は単純なのじゃが、理解はしようとしなくて大丈夫じゃ。なんとなく頭の片隅に置いといてくれればよい。さて、占い好きな女の子もおるじゃろう?ソウルメイトやツインソウル、ツインレイというのを聞いたことがあるのではないかな?」
あ……魂の、運命の恋人とか、そういう意味合いで使われますね。
「この世の分離を現実と認識して生きておる人間にわかるような段階の話にしよう。ソウルメイトとは分離した魂の中でも惹き合うもののことをいう。同じグループソウルの魂にそういうことがある。グループソウルというのは文字通り同じグループの魂のことで現実を共に過ごす場合が多い。このグループソウルというのは、そうじゃな。カップ一杯の水じゃな。そしてひとつの魂は一滴の水じゃな。うむ」
先生がこちらをふと見ます。
「ファリスさんであったかな?透明な一滴の水が、コップの水に落とされる。さてこのコップの中でかつて一滴であった部分を取り分けることができるじゃろうか?」
「この世界では出来ないと思います」
「そうじゃな。しかしそれをしてしまうのが光と闇の愛し児じゃ。つまり光の聖女である君はそれが出来る存在なのじゃ」




