王様と聖女と
「ディアドラ・ファリス、此度の貴殿の活躍見事であった。本来ならば公式に褒賞すべきところこのような形となって残念ではあるが」
長いブロンドの髪を揺らしながらレオン国王陛下がにこやかにそうおっしゃいました。
ここは王宮の一角、謁見の間ではなく王妃の宮の庭園の見えるサロンです。わたしのために、とささやかなお茶会が開かれています。
「褒美はまた別に取らせるつもりであるぞ?なにか希望があれば申してみるがよい」
レオン国王陛下は派手なブロンドの長髪にアクアマリンの瞳のとってもゴージャスな男性です。お洋服は白い緩めのシルクのシャツに濃紺のパンツとラフなスタイルですがなんでこんなにゴージャスなのでしょう?
絵本や少女小説の挿絵の白馬の王子様そのものといった感じですね。
おめめくりっくり、睫毛ばっしばしに陶器のお肌、キラキラ明るいオーラがまばゆい華やかな美青年。
重々しい口調とのミスマッチが素敵な若々しい国王陛下ですね。なんかお髭の強面想像してたんですけど、そうですよね、アデル王子のお父様ですものね。さすがの物凄い美形、顔が派手!です。
グリフィス様もとても美しい男性ですがレオン国王陛下とは対照的な美貌ですね。ぞんざいに言うと太陽と月、という感じ。
あと数年もすればアデル王子もこんな感じだろうなーというそっくりな容貌のせいか立派で堂々としてるのに何故か犬耳としっぽが見えてきそう…なのはもちろん内緒。
「ありがとうございます、レオン国王陛下」
国王陛下と王妃殿下の御前でグリフィス様とフィルドさんと一緒にお茶を頂いてます。
褒美とか突然言われても、うーん思い付かないですねぇ。
オリハルコンの剣盗難事件の成り行きを国王陛下にうまいこと伝えてくださったグリフィス様が戻ってらしておっしゃるには王宮に一緒に来るように、と。
それで今日は王宮に参りました。フィルドさんも一緒なのが心強いです。
学園のほうは流行り病での欠席と誤魔化しているのであと数日は休まないといけないとのこと。あー勉強が…ついていけるかしら。心配。
陛下の隣にはセシリス王妃と、もう1人女性がいらっしゃいます。
「ディアドラさん、今日は非公式のお茶会ですからどうぞリラックスしてお茶菓子を楽しんでくださいね。色々用意しましたがお口に合うものがあるとよいのですけど」
「ありがとうございますセシリス王妃殿下」
王妃殿下はとても優しそうな愛くるしい笑顔のお方です。国王陛下とそっくりのアデル王子ですけどわんこ系の愛らしさはお母様譲りですねきっと。
とても美味しい紅茶に見たこともないような見目麗しいお菓子と、わたしの地元コーリッシュ地方の素朴なお菓子も混ざっています。ヘヴァケーキにフェアリングビスケットなど久々のちょっぴり懐かしくもあるお菓子にうきうきします。王妃殿下の気配りですね素敵。
「こちらは聖女セイラ・キルケー様。あなたにぜひ会いたいとおっしゃられてね」
「はじめましてディアドラさん。久しぶりに光属性の生徒さんがいると聞いていつかお会いできたらな、と思ってたんですよ。こんなすぐに機会があってうれしいですわ。よろしくね」
「聖女様!こちらこそどうぞよろしくお願いします」
イエイツ先生の言ってた聖女様ですね!先生はお堅い聖女、なんて溢してましたけど黒髪のさらさらストレートヘアの爽やかな清楚系美人さんです。
「それでなディアドラ、今回呼び立てしたのはな、ぜひウィル・オー・ウィスプのことを聞かせてもらいたくてだな」
国王陛下がそわそわと子供のようなキラキラおめめでおっしゃいます。
「えっ」
「わたくしも聞きたいです。光の精霊なんですよね?わたくし見たことなくて」
「えっ、そうなんですか?」
思わずフィルドさんの方を見ます。フィルドさんも微妙な顔してますね。だって教科書見ただけでできたのに。
「セイラは治癒魔術が得意だからな。たしかに精霊魔術を使うのは見たことない。予もあれは苦手ではあるが」
「精霊魔術は相性が大事ですからね。初級の授業でシルフィードを召喚したきり全くですわ」
へー、そういうものなんですね。まだちゃんと習ってないので知らなかったことですね。フィルドさんもへーという顔で相槌を打ってます。
「そうだな。予の時も初級はシルフィードだったな。あのときはたしか召喚したものの制御できなくて大変だった…」
レオン国王陛下が苦い顔してらっしゃいます。
「ですよねー、だからわたくし二年生からは精霊魔術は取ってませんもの」
「予もだ」
「妾もですわー」
それぞれに学生の頃を思い出しておいでのようです。
「グリフィスは四年生だったな?おぬしは精霊魔術のほうはどうだ?」
「そうですねー、私は得意でもなく不得意でもなく、というところですね」
「さすが学年トップですねぇ。エスター公爵家は代々優秀な魔術師を輩出してますものね」
グリフィス様は両陛下や聖女様とも仲良しのようですね。
「それよりもレオン様、光の精霊ですよ~」
セイラ様がキラキラ笑顔でこちらを見ます。
さあどうしましょ。
「召喚、してみたら?」
フィルドさんに目で相談すると、えー召喚?
「えーと、なにか探すものがないと、呼ぶだけとか申し訳ないですよねぇ」うーん……
「じゃあオリハルコンの剣を召喚してみてくれ」
「……レオン国王陛下」
聖女様と同じくキラキラ笑顔の国王陛下をグリフィス様がジト目で見てます。
ですよね、あのエンカミングは魔法探知に掛からないよう魔術で封印したとおっしゃってましたものね。
「エンカミングを探せたなら王家の剣、チリジラデンも探せるのではないかな?あれはたしかぽんと倉庫に放り込んでからどこに行ったかわからないんだ。当分見てないな」
「国王陛下……」
国宝をぽんと放り込まないでくださいね?な表情のグリフィス様の額にほんのり青筋が見えるような見ちゃいけないような。
「そうなのだ、倉庫内行方不明なのだ。だから光の精霊の出番であろう?探してもらえるかな?ディアドラよ」
今度はグリフィス様も頼む、といった表情です。聖女様や両陛下とは違ってちょっと必死さがありますね。なんか大変ですねグリフィス様。心中お察しいたしますぅ。
「かしこまりました。やってみますね」
すっと人差し指を差し出すとその先に光の玉、ウィル・オー・ウィスプが現れます。
皆様方のわぁと喜ぶ表情が広がった一瞬ののち、驚愕で固まりました。
わたしの手には豪華な柄と鞘の宝剣がありました。
シンプルだったエンカミングとは違ってゴージャスな、少し湾曲している細身の刀剣ですね。
光の玉は二回点滅してわたしのほっぺにほわんとぶつかるとすぅ~と消えます。
「えっ?えぇ????」
わたしとフィルドさん以外が驚きの声を上げます。
「一瞬でしたねー。多分すぐ近くにあったからですかね?」
「どうやったの?」
びっくりしてはいるものの唯一冷静な様子のグリフィス様が質問されました。
「あれからフィルドさんと精霊召喚の練習をしたんです。その……ヒマ、だったので……」
フィルドさんと顔を見合わせて頷きます。
何度か練習を繰り返すうちにコツが掴めてきたので無駄に魔力を使う詠唱を省略したり術式を描くのを最小限にしたり……フィルドさんと相談しながら試行錯誤を重ねたことを手振り身振りで伝えました。
フィルドさんは何故か向こうを向いて顔を覆い隠しています。
「あと、ウィル・オー・ウィスプがなつくのが大事って、地元の狐火のおばあさんも言っていたので、それですかね?」
「たしかに、光の精霊がなついているように見えたな」
レオン国王陛下がやっと口を開きます。あ、ずっとポカーンと開いてはいたんですけど。
「はい。最初のうちはランダムに違う子が現れていたんですけど今はずっと同じウィル・オー・ウィスプが来てくれます。ちょっと可愛いらしいですね」
「見分けがつくの?」
セイラ様もやっと口を開きました。
「はい、大きさや光の色味、動きかたや点滅の仕方がそれぞれ違うので慣れると見分けられます」
「いや、カッコいい!カッコいいなディアドラ!!」
レオン国王陛下がパァっとゴージャスな笑顔で叫びました。
「こう、ほら!まるで物語のようにパッと手に聖剣が現れたみたいな、まるで伝説の勇者のようだったな!」
興奮してらっしゃいますね。やっぱりアデル王子のお父様ですね。リアクションが可愛らしいです。
「ディアドラは剣は使えるのか?」
「いいえ、全くです」
「そうなのか。この際剣術を習ってみてはどうだ?女性でも、ほら、グリフィスの妹のクララは一流の剣士だぞ?素晴らしい腕前だ」
おー、さすがクララ様ですね素敵!クララ様が騎士風の装いで華麗に剣を振るう姿はさぞかし美しいでしょうね~!自慢の妹を褒められたグリフィス様の口元が綻んでいますね。わかります。
「なんかこう、危機的状況の時になどな、パッと剣を召喚して華麗に戦う聖女、というのはカッコいいだろう?ノイシュ殿もカッコいいと思わぬか?ノイシュ殿の母上のメエヴ殿も一流の剣士であろう?」
「はい」
突然話を降られたフィルドさんが困惑顔で頷きます。
フィルドさん騎士の家系とおっしゃるからお父様が騎士なのかと思ってましたがまさかのお母様が騎士様だったのですね~!
グリフィス様がレオン国王陛下をにこにこと見つめています。うん、こんな時のグリフィス様はちょっとこわいんですよ?
もしかして陛下、なにかやらかしたようですね。グリフィス様に思いっきり動揺してるのわかりますよ?臣下のはずなのに、まだ学生なのにグリフィス様お強いですね?




