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時のない腕 5

 


 エスター公爵邸は豪奢な建物です。敷地もとても広く街中にあるということを忘れてしまいそう。


 グリフィス様に好きに過ごしていいと言われましたのでお庭に出てみることに。


 隅のほうに薬草ばかり植えてあるハーブガーデンがありました。ガラスと鉄の立派な温室もあります。園丁さんが入っていいよ、とにこやかに声を掛けてくださったので覗いてみます。わーいい香り。


「あー魔法薬学の小テスト、受けれないけど大丈夫かなぁ?」


「ちゃんとした試験さえ受けていればいいはずだよ」


 フィルドさんと魔法薬学の教科書を見ながら薬草の名前当てクイズをします。

 わたしたちほんとヒマ。屋敷にいればメイドさんたちがお茶にスコーンに卓上ゲームとあれこれ用意してくださるけど、ヒマ。


「これは、えーとレモンの香りがするけど見たことないなぁ。細くて小さな葉っぱね。」


「少し薬品ぽい香りもするね。多分レモンティートリーじゃないかな?」


「南半球の植物よね?温室だとこの地域でも育つのね。はぁ。勉強遅れちゃうなー。昨日の授業の分しか教科書持って来てないから、魔法薬学と精霊魔術しか予習もできないし」


「ファリスさんになにかあったら授業どころじゃないからねー」


 フィルドさんはいつものようにぽわーんとにこにこしています。


 ふふ。ちょっとだけありがたくもありますね。だってフィルドさん、普段はお隣の席にいても全然しゃべってくださらないですもの。思わずわたしもにこにこしてしまいます。

 拐われる危険があるとはいえグリフィス様がここは安全、ておっしゃってましたから。でも


「のほほんと過ごしていていいのかしら?そもそもわたしがいなければオリハルコンの剣は盗まれたりしなかったのかしら?」


「それはどーだろうね?でも剣の存在は公のものではないから知ってる人は限られるんじゃないかなぁ。犯人ではなくても情報を漏らしてるわけだし」


「その、一対の剣というのはどーいうことなんですの?」


「あー、英雄伝説って言っても色んなのがあるもんねぇ。王家の剣の存在は知ってるでしょ?」


「うん」


「その王家の剣と同じ刀匠が鍛えたものなんだよ。あのイエイツ先生が伸ばしたナイフも多分そう」


「そうなんですの?じゃあ捜索、できるかもですわ」


「え?」


 精霊魔術の教科書をパラパラとめくってみます。

 精霊の召喚(初級編)のページに下位精霊の召喚魔術が載っています。


「え、もしかして?まだ習ってないでしょ。どーするの?」

 フィルドさんやはり察しが良すぎます。


「たしか、物の気配の断片でもわかれば探せるっておばあさんに聞いたの。同じ人の持ち物とかそんなんで。同じ刀匠ならあのときのオリハルコンのナイフの感触を思い出してできそうな」


「そんなカジュアルなものなのかな?」

 フィルドさんがまた軽く吹き出してます。笑顔がかわいいので許します。


「やってみて損はないと思うの。この教科書通りで大丈夫ではないかしら」


 フィルドさんが教科書を開いて見せてくれてるのでその通りに指で術式を描きます。


『光の神の愛し子よ。我の求めに応じ給え』


 術式を描いた指先にポンと光が現れました。グレープフルーツくらいの光の玉です。

 わおウィル・オー・ウィスプですよ!やった!

「すげぇ…」

 でしょでしょーふふ。


「エンカミングという剣を探して。えーとね、こんな感触と同じ物なの。こーんな感じ。でもちっこいナイフじゃなくてこーんくらい?長い物なの」ナイフを思い出しつつイメージを送りこみます。はいそこフィルドさん笑わないで。


 ウィル・オー・ウィスプが頷くように点滅してからゆらーりと移動し始めたので後を追います。が、ふっつり消えてしまいました。


「あれー」


「ここからどーなるの?」


「うーん、どーなると思う?」

 テヘペロはさすがにできないので人差し指を顎にあてて首を傾げます。


 フィルドさんが地面に突っ伏してしまいました。肩がぷるぷると震えています。うん笑い死なないで?














「うん、わかりましたよ。試してみただけ、なんですよね?」


 グリフィス様がにこやかにそうおっしゃいます。

 うんその美しい笑顔ちょーっとコワイ。


 わたしとフィルドさんは最初に来た豪華な応接間のソファで下を向いて座ってます。完璧怒られてるわんこ、ですね。



「ファリスさんお手柄なんですから。ほら、畏まらないで下さいね?」


 お手柄、なんだろーか……。


「でも、これじゃ犯人もなにも……わかりません、よね?」


「この際無事にエンカミングが戻ってきたのでそれは問いただしません。王には私からうまいこと伝えますからご安心を」


 あのあと、わたしたちは温室で魔法薬学の予習をして過ごしました。

 日が暮れてエスター公爵家の美味しい夕食をいただいたあとにグリフィス様が様子を見に来てくださったのです。


 その時、光の玉と共に光輝く剣がわたしの目の前に現れました。




「ウィル・オー・ウィスプにそこまでの探知能力があるなんて誰も思ってないはずです。なのでエンカミングの盗難と、このウィル・オー・ウィスプの件は極秘にお願いします」


「もちろんです」


 たしかに。狐火のおばあさんが頼まれるのはちょっとした鍵とか指輪とか軽い日用品だったもの。まさかこんな大物まで、ゆーてもそうだわ。オリハルコンの剣てめちゃくちゃ軽いんですわ。綿菓子くらいですわ。別におかしくはないのかも?


「ファリスさんのためでもあります。ファリスさんにならいつでもエンカミングを引き寄せられると知られると……わかりますね?フィルドさんも」


「はい。今度はエンカミングを引き寄せるという口実で拐われますね」


「うわ……」

 えー、そうなっちゃうのー?


「もちろんエンカミングはこれからは厳重に、魔法探知にも掛からないように保管いたしますよ」


「グリフィス様、ほんとうは学園にあったんですか?その剣」

 唐突に思い出したので訊いてみます。


「……ファリスさんに隠し事はできないようですね」


 うん、まぁわたしではなくてフィルドさんですけどね?


「エンカミングの刀身が伸びたのは話してますね?」


 ふたりでこくこくと頷く。


「今のところ時のない腕の魔術にこの国で一番詳しいのはイエイツ先生です。刀身が伸びた理由を調べるために学園に運んだのですよ。それと」

 グリフィス様が言いにくそうに口元を手で隠します。


「わかった、鞘ですね?あの鞘を刀身に合わせるのができるのもイエイツ先生だけっぽいですもんね」


「そこまでわかりますか、ファリスさん」

 グリフィス様が驚いて目を見開きました。なんかわたしが洞察力あるみたいに思われてそうでこわいですけど。


 あんなしょーもない魔術を研究してそうなのイエイツ先生だけって、わかりますよ?さすがのわたしでも。


 横を見るとフィルドさんも目を瞠ってます。あら、少し見直してもらえたのかしら?イエイツ先生しょーもないとかゆってごめんありがとう!

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