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オールドイースト  作者: よこ
第3章
497/532

3-16 イカサマ賭博師の愚昧(2)

双子のことがあってから、ロブは女性とあまり真面目に付き合わなくなっていた。今、付き合っている…と言えるのかどうか、週に一度ほど会っている女性とは、体の関係は全くない。マチルダを恋人と呼んでいいのであれば、学生カップルの方が、まだ進んでいると言えるだろう。だが、今のロブの気分に、彼女との関係はちょうどしっくりときた。


「お仕事の方はいいんですか?」


可愛らしく首を傾げながらマチルダがそう訊いてきた。セントラルシティの中心部からは少し離れた郊外のカフェで、彼女の言葉にロブは笑顔を見せた。


「もっと怒ってもいいよ。あなたが仕事をしないから、その分ジョンが忙しくなって、私の相手をしてくれないのよっ!てね…」


ロブの冗談にマチルダは微笑を浮かべ俯いた。


「…ジョンが私の相手をしてくれないことと、仕事は関係ないから…」


相手の言い草にロブはため息をついた。


「…彼は私より仕事の方が好きなの…」

「そんなことはないだろう?君の様な奇麗なパートナーと過ごすより、仕事の方を好む男なんて、この世にいるとは思えないけど?」


マチルダは顔を上げると寂し気な笑顔になった。


「…いつも、優しいのね、ロブ…」

「まだ言えないのかい?君が一言いえば、仕事なんてそっちのけになると思うけど…」


だが、マチルダは首を振った。ロブはため息をつくと、横を向いた。


…どうしてマチルダと会い続けているのか、自分でもよくわからない。


マチルダ・リューには、パートナーがいたし相手との間に子供もいた。相手に決まったパートナーがいることに、ロブは抵抗を覚えたことはない。今までも、パートナーがいる女性と付き合うことはあったし、むしろ完全にフリーな女性より、決まった相手のいる女性との方がつきあいやすいと感じているほどだった。


決まったパートナーがいる女性はフリーの女性の様に、こちらにパートナーのなることを泣き縋ることもなければ、脅迫してくることもない。決まったパートナーとは別に恋人を欲しがる女性は、今の生活に取り立てて不満はないが恋愛という刺激を欲しているか、あるいは、はっきりと、自分のパートナーに対して不満を抱いているかのどちらかだった。


不満を抱いている場合であっても、パートナーと本気で別れるつもりはない…そういう相手だけを選んでいる。例えば、パートナーに対する陰険な報復の意味合いで愛人を欲する女性…つまり、そういうタイプの方が、割り切って遊べて後腐れがない分、ロブにとっては都合がよかったからだ。


ただし、その場合でもひとつだけ決めていることがあった。どんな女性であっても、パートナーが自分の知人であればその女性とは付き合わない…。それは、義理の問題ではなく、厄介ごとに巻き込まれでもしたら面倒だったからだ。


…それが、マチルダのパートナーはジョン・リューという、ロブより七つ年上の職場での同僚なのだ。それに加えてマチルダは、その儚げで美しい容姿を含めたうえで、ロブの好みでは全くなかった。


これまでロブが好んでくどいていたのは、すらりとした姿態に端正な美貌、そして、例えるまでもなく、エナのようなはっきりとした性格の女性だ。それが、マチルダは、ロブの好みからすると、小柄過ぎたしその美貌も愁いを含み過ぎていた。人格に至っては、その幼さと愚かさは軽蔑に値すると思うことさえあった。


無論、彼女の振舞は常に優しく思いやりに満ちていたし、一見、女性らしい細やかな気遣いに溢れていた。マチルダは見るからにわかりやすく、従順で清純で貞淑な“妻”であり、母であり…。間違っても自分が飲む酒を男性に注文させたりはしないだろうし、先に酔いつぶれた男に冷笑を浴びせ、自分の飲食した分だけ、嫌味なほどきっちり支払いを済ませた上で、連れの男性をレストランに残して、一人で先に帰るなどと…。


…これまでエナから受けた、屈辱的な仕打ちを思い出して、ロブは一人で顔をしかめた。頭を小さく振って思考を切り替える。


ロブがマチルダに関心を抱いたきっかけは、局員たちの噂話にあった。ずっと独り身だと思っていたジョンが、突然妻子持ちになったという冗談からだ。よくきくとずっと離れて暮らしていた、というだけのことだったのだが、更によく聞くとその妻はジョンより十歳も年下な上、結構な美人だというではないか。


それでもおそらく、エナと双子のことがなかったら、一度見て、好奇心が満されれば、それで満足して、二度と会おうなどと思いもしなかっただろう。


…目立たないが、ジョン・リューは優秀な男だと思っていた。何故、ジョンの様な優秀な男が、こんな幼くて愚かな、外見だけは美しい女性をパートナーにしているのか、ロブには全く理解できなかった。体の方がよかったのかとも思ったが、マチルダの話が本当なのであれば、パートナーになってから、夫婦生活はまったくないというし…。


ロブが半ば強引にジョンの家に自分を招待させたのは、双子が生まれる二週間前くらいのことだった。ロブはジョンの自宅で彼の妻と、一人娘のもてなしを受けた。八歳になる彼らの娘は母親によく似た可愛いらしい少女だった。その事実に、まずロブは驚いた。つまり、簡単に計算するとジョンのパートナーが娘を産んだのは、彼女が十六歳の時ということになるのだ。…何があったのかと余計に好奇心を刺激された。


ジョンが少し席を外したそのタイミングで、ロブが要領よくマチルダから、彼女が持っている携帯電話の番号をききだしたのは、彼にとっては、ただのきまぐれでしかなかった。質問に戸惑うマチルダに「ジョンに何かあった時にすぐ貴女に連絡が取れるように…」と適当な言い訳を告げると、マチルダはすぐに納得して、素直に番号を教えてくれた。


彼女の真剣な眼差しがなければ、遊び慣れた女性が、無垢なふりをして誘っているのではないかと、疑うほどあっさりとしたものだった。それでも、連絡を取る気はさらさらなかった。


…確かにその若さと美貌には驚かされた。だが、それだけだ。ロブからみたマチルダの美しさは、古い価値観に基づいて、観賞用にしつらえられた美に過ぎず、さほど関心を掻き立てられるものではなかったからだ。


…それが、双子のことがあって、何故かマチルダのことを思い出した。その時付き合っていた女性からの誘いを気分が乗らないからという理由で断っておきながら、気がつくとロブはマチルダに連絡を取っていたのだ。


ロブが彼女に電話を掛けると、電話の向こうの取り乱したマチルダの第一声は

『ジョンに何か!?』

だった。ロブは思わず笑ってしまった。無論、ジョンには何もない…。だが…


「ああ、マチルダ。君、出て来ることは出来るかな?」

『わ、わかりました!あの、どこへ…』

「玄関の前で待っていてくれればいい」

『すぐに出ます!』


ロブがジョンの家に赴くと青い顔をしたマチルダが玄関に立って、落ち着きなく周囲を見回してた。ロブからの電話を受けてすぐに玄関に飛び出し、それからずっと、ロブが来るのを待っていたのだろう。そんな雰囲気だった…。


 …どうしてこんなに簡単に、人を信じるのだ?


その愚かさを、ロブは嗤った。


 自分の車をジョンの家の前に着けると、ロブはマチルダに助手席に乗る様に誘った。マチルダはさほど躊躇うことも無く飛び乗ると

「あの…スタンリーさん、連絡をありがとうございます。それで、ジョンに何かあったのですか?電話したんですが、通じなくて…。あの人は今どこに?…何か持って行った方がいいものとか…私、取り乱して、電話できけばよかったのに…」

と、一気にまくし立てた。


ロブは耐えきれずハンドルに手を掛け、俯くと肩を揺すって笑ってしまう。


「スタンリーさん…?」


訝し気なマチルダの声が聞こえた。…なるほど、ジョンはかなり愛されているようだ…。正直に言えば、少し新鮮だった。こんなにパートナー想いの女性に出会ったのは初めてだ。


「…いや、ジョンは優秀な局員で、いつも私は助けられている…」

「スタンリーさん?あの、ジョンは…」

「いや、そんなに心配されるとは…」


言いながらロブは車をスタートさせた。マチルダは顔をしかめたままだ。


「あの、どこか、病院とか…」

「まあ、そうかな?」


マチルダはシートベルトも締めずに、組んだ両手を自分の足の上に置いていた。


「…すみません、取り乱してしまって…。あの、もう落ち着いたので話してもらえませんか?その、無事なんですよね…」

「勿論、無事だとも…」

「あの、今どこに…」

「さあ、難しい案件に取り組んでいるようだったから、今日は一日開発局にいるんじゃないかな?」


言いながらロブは横目でマチルダを見た。マチルダはずっと険しい顔のままだ。


「あの…どういう…」

「さあ、私が君に会いたくなっただけかもしれない…」


ようやくマチルダはロブの方を見た。


「どういう意味ですか?私を騙したの?」

「そうかな?」

「…帰してくれませんか?私…もう一度、ジョンに電話を…」

「出なかったんだろ?彼の勤務態度は実に模範的だ。仕事に集中するため、プライベートな通信手段の方には意識が向かないのかもしれないな。…それでも試したいというのなら、私から彼の席に電話を掛けようか?」


ハンドルを片手にロブは胸ポケットの携帯電話を探り始める。


「あの…なんて…」

「今、君のパートナーといるんだが、パートナーが君の身を案じているとね…」

マチルダは仰天した様子で目を見開いた。

「そんな…。そんなことを伝えて、ジョンに誤解されたらどうするの?止めて下さい」

「なら、やめようか」


ロブは素直に携帯電話を内ポケットに押し戻した。マチルダは再び俯いて、じっと自分の手を見つめている。


「あの…何か私に用事でも…」

「そうだね、この前のお礼…かな?」

「お礼?」


マチルダは顔を上げると、首を傾げた。ロブは笑うと

「そう、身構えなくてもいい。サプライズってやつだ。招待を受けたら、お返しをすることにしているんだ」

と、ロブはすらすらと出まかせを口にした。が、マチルダはほっとした様子で

「そう…そうでしたか。すみません、私…気が回らなくて…」

と、言いながら笑みを浮かべた。


「いや、誘い出す手口を間違えたね。ジョンに何かあったかのように言ってしまったからね」

「そうです。だれだって、驚くと思うわ」

「納得してくれた?さっきも言ったけど、ジョンは優秀な局員で、部署こそ異なるが、我々はいつも彼には助けられてる。何の間違いか、わたしの方が役は上だが、実際はジョンの方が仕事のことをわかっている」

「そうなんですか?」


パートナーを褒められて満更でもないようだ。マチルダは嬉しそうに微笑んだままだ。


 確かにマチルダはパートナーに対して愛情を持っているようだ。だが、ロブには何故か、それが男女間の愛情というより、娘が父を慕う様な、…つまり被保護者が保護者に対して抱く依存に根差した愛情のように見えてしまった。


 ロブの嘘を真に受けて、あるいは、ジョンの身を案じていた反動もあったのか、マチルダはすっかり緊張を解いていた。気がつけば中心部から少し離れたカフェで、マチルダはロブと一緒に、お茶の時間を過ごすことになっていた。


「娘が帰って来る時間があるから、あまりお付き合いは出来ませんけど…」

「娘さん、思っていたより随分大きかったけど…」


言われてマチルダは頬を赤らめた。イブリンは同世代の少女と比べて取り立てて大柄なわけではない。ロブの言うのが年齢のことなのだと、マチルダには察しがついたのだろう。


…察しがついても、適当にかわせば良さそうなものなのだが、何故か彼女は正直に

「あの…それは、年齢のことですか?スタンリーさんも、やっぱり私のこと、頼りない母親だって、お思いになられます?」

と、顔を赤らめ、俯いたままそう言った。


「そうは思わないよ。自信がないの?」

「…ロスアンにいる頃は、母がそばにいてくれたから不安なんて何もなかった。…けど…」


言いながらふいにマチルダの両目から涙が零れ落ちた。流石にロブは狼狽えた。


「マチルダ…」

「ご、ごめんなさい…。ちょっと、お母様のことを思い出して…」


言いながらマチルダはバッグからハンカチを取り出すと、顔を覆った。そのまま苦し気に息をつきながら、静かに泣き続ける。


 …なんなんだ、一体…。


 自分が適当なことを言って、ここまで連れ出したのだという事実は棚に上げ、まだ会って二度目にしかならない自分の目の前で、無防備に泣きだしたマチルダに対して、ロブは身勝手にも腹を立てた。だが…


 何故だかロブは、顔を隠して苦し気に泣くマチルダの姿を、じっと見守ってしまう。そして、彼女が泣き止むのを静かに待った。


 涙の発作を無理やり沈めるように、マチルダは眼がしらをハンカチで押さえながら

「ごめんなさい。みっともないところをお見せして…」

と、まだ、涙の残る声で謝罪した。


「…お母さん、何かあったの?」


ロブは気がつくと、自分でも意外なほど優しい口調でそう尋ねていた。マチルダは少しだけ首を振って

「亡くなったの…ロスアンで…間に合わなくて…」


言いながら再び顔を歪めた。


「そうか…ごめん」


マチルダは再びハンカチで顔を覆ったが、小さく首を振りながら

「スタンリーさんは何も悪くないです」

と、言った。


「うん…でも、君のつらさが分からない。私には生まれた時から、母親がいなかったから…」

「そうなんですか?」


何が意外なのか、マチルダは顔を上げると泣きはらした赤い目で、そう尋ねた。


「…そう、顔も知らない」


…女性を口説く時に、…同情を誘うために、この事実をしんみりとした口調で告げることにロブは慣れていた。御多分に洩れず、マチルダも気の毒そうな表情になった。だが、彼女は今までにない方向から、言葉を切り出してきた。


「そうなんですね。…ジョンと同じだわ…」

「ジョンと?」


ロブの問いにマチルダは頷いた。


「ええ、ジョンもそうなの。彼がまだ小さかった頃、母親は彼をおいて出て行ってしまった…」


図らずも同じ職場で働く人物の身の上を知ってしまったロブは、呆気に取られて、思わず口を開いてしまう。…全く、なんという女性だ。よくもまあ、パートナーの個人情報を同僚に向かってペラペラと…。プライバシーとかなんとか…そういう概念は、彼女の中には存在しないのか?


 が、呆れ切ったロブの驚愕には気づかずマチルダは不可解にも微笑んだ。


「…寂しい?」

「え…?ああ…」

「なら、一緒ね。私とジョンと、そして、あなたも…」


それだけ言うと、マチルダは静かに俯いた。泣きはらした眼は赤く、その頬には先ほどの笑みの余韻が残っていた。


…間違いなくマチルダの感想はズレていた。ロブはマチルダに対して、まだ、呆れていたし、泣いた後の顔は、お世辞にも美しいとは言えなかった。そう、思っているのにも拘らず、この時もロブは静かに彼女の顔を見つめてしまっていた…。


 こんな風にして、ロブとマチルダの、交際とも呼べない様な交際は始まった。母親がいない同志として認めてもらえたのか、理由はよくわからないが、マチルダはさしたる抵抗もなく、ロブの誘いに応じた。一体どういう神経をしているのか、やはりよくわからなかった。


だが、パートナーに対して何の不満もなく、十二分な愛情で結びついているのかと思っていたリュー家の夫婦も、よく知ってみれば、そう理想的でもなかった。マチルダは聞かれれば素直になんでも答えたし、ロブは下世話な好奇心の赴くままに質問を重ねた。


結果、マチルダが高等校に上がる前の夏休みに、セントラル大学の院生だったジョンのアパートメントに宿泊した結果、娘を身ごもったこと、そのため、ジョンと正式なパートナーになったこと、その娘が初等校に入学するまでは父母と共にロスアンにいたこと、そして、娘の初等校入学に合わせて母娘でセントラルシティに来た事…マチルダがずっと、男の赤ちゃんを欲していること…ジョンと正式にパートナーになってから、一度もベッドを共にしていないことなど…ロブは、そんなことまで知るようになってしまった。


 …パートナーとの間に男の赤ちゃんが欲しいのだが、どうしたらいいのかわからない…。今の自分が受ける相談にしては、あまりにもバカバカしかったし、間違いなく皮肉で、これ以上ないほど滑稽な相談だった。


 そもそもマチルダのその悩みは、一児の母が持つようなものとも思われない。もう一人子供が欲しいのなら、パートナーをベッドに誘えばいいだけだ。だが、マチルダは頑なに、それは出来ないという。


その話を聞いた当初は、マチルダが心配しているのは、ジョンに他に恋人がいるのではないか?…と、いうことなのだろうと、ロブは勝手に早合点していた。六年近く別居していたというのだ。


…それならば、マチルダの様な受け身なタイプの女性が、恐くて確かめられないという理屈は、わからなくもない。なので、余計なお節介もいいところだ、と思いながら、職場でそれとなく探りを入れてしまったほどだ。


結果は全くのシロで、ジョン・リューはロブが呆れるほど、ただひたすら仕事熱心なだけだった。…とまれ、せっかく調べたのだからと、マチルダにも伝えてみたところ、彼女はパートナーの浮気の心配など全くしていなかった様子で、首を傾げてお礼を言われてしまった…のだった。


とんだ道化だ…と、ロブは自分の余計な働きぶりに、かえって落ち込んでしまったほどだ。だが、そのせいで、逆に興味が湧いてしまった…。


「じゃ、何が原因で、彼をベッドに誘えないんだ?パートナーだろ?」


単刀直入にロブが問うと、マチルダは女子学生の様に真っ赤になった。それから、俯くとたどたどしい口調で、説明をしてくれた。彼女が言うには、ジョンが自分を妻に…つまり、パートナーにしてくれたのは、娘を授かったからで、そのせいでジョンに迷惑をかけたから…というのが、その理由だった。


彼女の理屈を聞いてロブは呆気にとられた。…ロブからすると、ジョンは自分で自分の行為の責任をとっただけだ。流石に行為に至る仔細までは聞き出せなかったので、ロブは単純に、魔がさしたジョンが学生だった従妹に手を出した結果、運悪く…身ごもったのだと、解釈していた。


 普段からマチルダは過剰に身を飾らない、清楚で清潔な装いを好んでいるのか、はたまた外聞を気にしているのか、季節がらもあってか、外見からはっきりとはわからなかったが、学生だった頃とは異なり、今のマチルダであれば、その体は女性として既に、十分に成熟していることだろう。


…そんな好色な眼差しで、ロブは時折、マチルダを観察してしまうのだが、当然のことながら、確かめられよう筈もない。要するに、ジョンに特殊な趣味があるのでなければ、妻が誘えば一も二もなくその要求に応じるだろうし、そうすれば子供なんてすぐに出来るだろう。


…こんな、さして深い付き合いがあるわけでもない、パートナーの勤務先の人間にグドグドしく相談すべき悩みだとは…ロブにはとても思えなかった。


 それに…子供の問題というのであれば、自分の方がより深刻だと、ロブとしては主張したかった…。


 ロブは深々とため息をつくと、顔を上げた。


「今日は、娘さんは…」

マチルダはにっこりすると

「ええ、さっきも言ったけど、今日は習い事の日でしょう。それで、習い事のお友達三人で、お友達の家にお泊りに行くとこになっているの。送り迎えはチャイルドサポーターのサマンサがしてくれるので、少し自由だわ…」


普段からマチルダと会うのは、娘の習い事があるこの曜日にしてた。少しはゆっくりできるからだ。無論ロブにとっては業務時間内だ。彼は外回りと称して、ようは仕事をさぼっていた。


「大変だね」

「ううん、イブリンはすごくいい子なの。多分とても楽をしている。…同じ立場のお母さんのお友達がいないから、よく分からないのだけど…。男の子のお母さんは、大変だって、サマンサが…」


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