3-15 はかり難く御し難い(5)
楽しい(?)ランチタイムを終えて、イーシャとアナベルはロッカーゾーンへ向かう。ランチはテイクアウトで済ませているノエルは一足先に教室移動だ。廊下を歩きながら、アナベルは慎重な面持ちでイーシャに切り出した。
「あの、イーシャ…」
「うん、?」
「先週…あいつ、お店に来てた?」
省略も甚だしいアナベルの問いに、イーシャは一瞬首を傾げてから
「ああ、来てたわよ。イーサンと…何か、普段より静かな雰囲気で、話し込んでたわね」
「そう…なんだ…」
「何、どうしたの?」
「うん…」
と、アナベルは曖昧に語尾を濁した。
友人の冴えない様子に、イーシャは盛大なため息をついた。
「…ウォルターと話したいの?」
「えっと…その…、話さないといけない…とは、思ってる」
ぼそぼそと不明瞭な呟きに、イーシャは再びため息をついてみせた。
「…あんたにしちゃ、ウダウダしてるわね?木曜日うちに来る気があるんだったら、いつもあの二人が座っている席、あんたのために空けておいてあげるけど?」
友人の申し出に、アナベルは顔を上げた。
「…イーシャ…」
アナベルと目があうと、イーシャはしかめっ面をして、彼女の頬を両方の手の平全体でつまむと、左右に引っ張った。
「…あに、ひゅりゅお…」
「らしくない顔しないの」
それだけ言うと、イーシャはアナベルの顔から手を離した。アナベルは引っ張られた頬を、両手でこすりながら、
「…ありがとう…」
と、若干不貞腐れながら、お礼を言った。イーシャは軽く吹き出すと
「気にしないで、早く解決しなさいよ」
と、笑顔でそう言った。
*
翌朝のロッカーゾーンで、ルカと行き合ったアナベルは、サイラスの検査入院の顛末と、それ以前の外泊について、聞いてしまう。ルカの方は、アナベルに相手の心当たりがないかと探りを入れてきたが、流石にどう口が滑ろうとも、こればかりはルカには言えない。
もっとも、ルカの方はビクトリアの処分の話を知っていて、推測をたてている可能性もある。ルカが知っているにせよ、知らないにせよ、アナベルからルカに伝えることは出来なかった。
木曜日の夜、アフマディの親父さんのお店は、常連の酔客で賑わっていた。アナベルは隅の方、かろうじて二人分の料理が乗せられる程度の広さしかないテーブル席の一角に置かれた椅子に腰を下ろして、待ち人が来るのを待っていた。
自分がいると気がついたら、ウォルターは逃亡をはかるかもしれない…
自分のことを棚に上げて、アナベルはなんとなく背中を丸めた。見つからないように…という無駄な配慮が意識なく作用した結果であろう。
丸まった背中から、明るい声がかかる。
「いつもだったらそろそろ来る頃だけど…何か頼んでおく?」
と、給仕の仕事の隙をみて、イーシャが声をかけてきた。アナベルは振り返って友人を見上げた。
「…でも、ここ、三人分置くスペース、なくない?」
と、アナベルがしょんぼりと言い返すと、イーシャは白々と
「どうとでもなるわよ」
と、いい加減なことを言い返す。…と、ガラリと入り口が開き、新たな来客の訪れを知らせる。イーシャは慣れた様子で
「いらっしゃいませ!」
と、看板娘らしい声を上げた。
新客は無造作にイーシャ視線を向けただけで、これと言った反応もなく彼女の方へと近づいた。が、普段自分が座っている席にある丸まった背中に気付くと、目を瞠った。どこか頼りなげな表情で自分を見つめる女性が何者か認識するなり、イーサンは目を細め、どこか意地の悪い笑みを浮かべた。
「よお。なんだ、お前、珍しいな」
と、言いつつ、イーサンは当然の様な態度でアナベルの対角線上の椅子に腰を下ろした。
「…イーサン…」
「なんだ?」
アナベルの弱々しい呟きに、行儀悪く頬杖をつき、弟子の顔を覗き込むようにして見つめながら、イーサンはにっこりと笑みを返す。…どうやら、今日の彼は一人で来た様だ…。
「…逃げたわね…」
と、イーシャが忌々しげにつぶやくと、イーサンが肩を揺らして笑い出した。
「濡れ衣だ。今日はジムにも来なかったが、師匠には当人から連絡を入れていた。急な用事だと」
「急な用事?」
「さあてね、大事な時期に抱え込まされたお荷物が、悪さでもして目が離せないのか…」
なにやら投げやりに発せられたイーサンのセリフに、アナベルの表情が強張った。
「何か…あったの?」
「さあ、俺が連絡を受けたわけじゃないし…」
「イーサン、何を知ってるの?」
アナベルの険しい口調に、イーサンはにやりと笑い
「お前の言う、“何か”が何によるか…だな…」
と、曖昧な返答を返すと、イーサンはアナベルの背後に立って、ジト目で自分を睨み続けるイーシャに視線を向け
「こいつ、何か頼んでるのか?」
と、言い出した。問われたイーシャが「まだ」と、首を振ると
「ああ、じゃあ、いつものやつ二つでいいから、頼む」
と、言い出した。
「いつものって…最近、メニュー見てたじゃない」
「ウォルターに付き合ってただけだ。わかってるのに訊き返すな。じゃあな、頼んだぞ」
「……」
イーサンの偉そうな態度にイーシャはむっつりと口をへの字にしたが、彼の意図は理解できた。無言で踵を返すと、厨房の方へ向かい、看板娘として再び働き始めた。
振り返り、イーシャの後姿をしばし見送っていたアナベルだったが、すぐに向き直ると何故か身を屈めるようにして
「…お休みって、ウォルターのことだよね?イーサン、何を聞いてるの?」
と、囁くような声で尋ねた。イーサンは、面白くもなさそうな顔になると
「…さっき言っただろう。休みの理由について、俺は何も聞いてない」
と、言ってから
「お前、週末も気合が入ってなかったが…聞きたいのはそんな事じゃないだろう?」
「ええっと…気合、入ってなかった?」
「ああ、これ見よがしにもの問いた気な視線をむけやがって…うっとうしい…」
「うっとうしいって…そう思ってたんなら訊いてくれても…」
と、アナベルが半端な泣き言を口にすると、イーサンは細目で弟子を睨み、彼女のこめかみに拳を押し付けた。アナベルの体が横に傾ぐ。
「…イタタタタ…。もう!何すんだ?!」
「甘えたこと抜かしてんじゃねぇ!どこのお子様だ?聞きたいことがあるんなら、自分で尋ねろ!」
反論の余地なき叱責に、アナベルは押さえられたこめかみを手でかばいつつ、恨めし気な涙目をイーサンに向けた。
「…だって…」
アナベルの態度にイーサンは不快気に舌打ちを返す。
「何が“だって”だ?いい加減で、その甘え腐った態度を改めないと、店から蹴り出すぞ?」
…誰の店だ?と、アナベルとしては問いたい。だが、彼の言い分が正しいと、分かっていた。
「わかったよ…」
と、アナベルがなおも不貞腐れた態度で答えるが、イーサンは冷ややかな眼差しを向けるだけで、それ以上何も言わず
「…それで?」
と、簡潔に先を促す。
師匠の短い問いに、アナベルは自分の気持ちを切り替え様と、ふっと短く呼吸をする。それから
「…さっき言ってただろう?“お荷物が悪さ”って。イーサンの言ってる“お荷物”ってなんのこと?」
「分かりきっていることを何故訊く。お前が知りたいのは、そんなことか?」
真顔で言い返され、アナベルは顔を強張らせる。
「…なんであいつがその“お荷物”を背負い込むことになったのか、その理由を知りたい」
アナベルの問いに、ようやく問いとしての及点を与えられると判断したのか、イーサンは肩を竦めながら答えを返す。
「俺が下手を打ったからだ。あいつはその尻拭いをしているに過ぎない」
「尻拭いって…」
「育成センターにハッキングを仕掛けていたのがバレたんだろう?」
…師匠の返答にアナベルは唖然とした。
「イーサン…知って…」
「当り前だろうが?お前の兄ちゃんからウォルターが説明を受けているし、当然あいつから聞いて、俺も知っている」
「…お前の…兄ちゃんって…」
「ああ?お前の兄ちゃんだろうが?編入生の金髪のフェミニストも、あいつの家にいる“お荷物”の方も」
「……な、なんで知ってるの…?」
呆然としたアナベルの問いに、何故かイーサンはにやりと笑う。
「最初からそういう風に訊けばいいんだ」
イーサンの不遜な態度に、アナベルはむっつりと顔を顰める。
「…全部知ってるんだったら…じゃあ、下手を打ったってなんのこと?」
「そのままだ、センターの連中に、しっぽを掴まれた。間抜けの極致だ」
「じゃあ、あの…つまり、ハッキングしてたのって…」
「ああ。俺だ」
あっさりと認められて、アナベルは絶句した。
「な、なんで?」
「なんで?ハッキングしてた理由を訊いているのか?」
アナベルは無言で二、三度頷いた。
「簡単に言えば金儲けだ。中等の頃から始めている」
「へ…?」
「ついでに付け加えると、今はやっていない。もっといい稼ぎ方をウォルターにちらつかせられて、以来その手のことからは足を洗っている。…話を戻すと、ケイン…ああ、お前、一度会ってるな、イルゼの兄貴でバイオロイドの…」
言われてアナベルは思い返す。住宅街にあるささやかな街灯の灯りの中、浮かび上がる幻想的な美貌。ベージュ色のコートをひるがえし、真っすぐ自分達に向かって歩いてきた姿…。
「イルゼのお兄さん?あの人がどうしたの?」
「バイオロイドの学生仲間から奴が依頼を受けて、俺と一緒にセンターの情報を探ろうとあれこれしかけていた。…結論から言えば、センターの個人情報は完全に外部から独立したシステム内にあって、外部からの侵入は果たせなかった」
「え?何それ?イルゼのお兄さんとイーサンが、中等校の頃そういうことやってたってこと?」
「まあ、そうだな。お前、前のセンター長から聞かされてたんだろうが?」
「いや、そうなんだけど…」
「そのじじぃがウォルターがやったこととしてお前に告げた情報は全部、俺とケインがしていたことだ。大体、俺が中等校の頃、あいつはまだロスアンだろうが。どうやって、んなこと実行できるんだ?」
「でも、高等校に来てから…」
「フェイクに乗せられんな。前のセンター長は確信犯だ。自分の発言があいつに伝わることも想定内だ。その上であいつがどう動くか、じっくり観察中…ってところだろうな」
「観察って…オ…前の所長は、全部わかってて、そう言ったっていう事?その、イーサンの事を知っていて、わざと、あいつの仕業って言ったって…そういう事?」
「恐らく」
「…だったら、あいつはただ、イーサンをかばって今みたいなことになってるって、そういうことなの?本当なら引き受ける必要もないのに、奴の面倒を押し付けられて…」
アナベルの口吻にイーサンは宙を見上げ
「大きく言うと、そうなるか…」
と、悪びれず相槌を打った。だが、アナベルは険しい表情のまま首を振る。
「いいや、おかしいよ。イーサンはさっき、センターの情報は独立してて侵入は果たせなかったって言ってたよね?なら、イーサンはどうやって、双子が私の兄にだってことを知ったのさ?」
アナベルの問いに、イーサンは片眉を上げた。
「…ウォルターが自ら進んでそんなこと、イーサン相手に吹聴したとも思えない。何か裏があるんだろう?本当は侵入出来た…とか…?」
アナベルの買いかぶりに、イーサンは肩を竦めた。
「俺が確実に探れたのは、センターの個人情報系のシステムは完全独立型で、内部に入り込むことでしか覗けないということだ。外部とは一切繋がっていない。これは断言できる」
「じゃあ、どうして…」
「頼まれたからだ、あいつに」
「あいつって…ウォルター?」
「ああ、退院したその日だ。自分の書類上の母親の身辺を調べたいから、役所内にある、センターの出先機関のデータに侵入して欲しいと」
「…ウォルターが?」
アナベルの問いに、イーサンは真顔で頷いた。
「…情報が欲しかったんだろう。“自分は小心者でルール違反はしたくない”と普段から言ってたあいつらしからぬやり方だ…」
「え…退院って…」
「五月に、入院しただろう?あいつは腹をやられた」
「……」
「やったのはお前を攫った奴で、今、一緒に暮らしている相手だ。そうだろう?」
「……うん」
「そいつは金髪の編入生の双子の片割れで、お前の兄だ」
「……」
「見舞いに来いと呼び出されて、退院したらすぐに頼みたいことがあると言われた。退院したその日にあいつの家に行ったら、あいつの出生書類のデータを提示された。その欄に記載されている卵子提供者のデータに侵入出来ないかと訊かれたから、登録ナンバーを頼りに役所にあるセンターの出先機関のデータバンクに侵入した。身元を知られたくない遺伝提供者は最初からそちらには存在を記されていない。わかる範囲など、たかが知れているが、その卵子提供者には取り立てて隠そうという意思は無かったようだ。削除事項までデータ内に残っていた。だから、双子がその女のバイオロイドであることを、知ることが出来た。…その女は他にもバイオロイドをつくっていた…」
…エナだ…。
改めて認識するまでもない。ウォルターの書類上の母親は、エナ・クリックだ。そして、イーサンの言うエナが作った“他のバイオロイド”とは、間違いなく自分のことだろう。
…それでウォルターは、ルカとサイラスが私の異父弟だと知っていたんだ。
だが、ウォルターが自分に言ったこともまた事実なのだろう。ウォルターが双子とエナを結び付けた契機が、実母の日記に残された記載にあったことは間違いない。
「じゃあ…イーサンはそれからずっと、私とあいつの事知ってたんだ…」
「悪い…」
意外な謝罪に、アナベルは目を見開いた。
「…イーサンが謝ることなんて…」
「…あいつは俺の性格を熟知している。下手な隠し立てをしたら足元をすくわれると読んだんだろう。…だが、まあ、あいつらしからぬやり方ではあったな。実際、ひどく焦っていた…」
「焦って…って、あいつが?」
「明らかに敵意を持った相手がいるのに、そいつの正体は不明。焦りもするだろう?」
「だって、それは…そんな…」
「お前は拉致されて拘束を受けたんだろう?」
イーサンの言葉にアナベルは衝撃を受けた。
「…私の、せい…?」
「お前のせい…というのとも違う。だが、お前が絡んでなければ、もう少し冷静な対応をしていた可能性は高い。どちらかといえば、あいつは神経質で慎重な質だ」
「……うん…」
アナベルが泣きそうな顔をして俯き、黙り込んでしまったので、その場に沈黙が下りた。と、静かになるのを待っていたかのようなタイミングでイーシャが注文された料理を運んできた。イーシャは不自然なほど真面目な顔で、二つの皿をテーブルの上に並べた。置き終えると、やや曇った表情で友人の顔を覗き込む。
「アナベル、大丈夫…?」
「イーシャ…」
友人の優し口調に、アナベルの顔が益々歪む。イーサンが呆れた様に口を挟んだ。
「…イーシャ、あまりこいつを甘やかすな。子供返りしているぞ」
イーサンの冷たい口調に、イーシャが目を眇めた。
「悪いのはウォルターの方でしょう?私がアナベルを心配するのの、どこか悪いのよ?」
イーシャのセリフにイーサンは呆れた様にため息をついて見せた。
「まあ、お前はそれでいいのか。おい…」
と、イーサンは視線をアナベルに向ける。
「俺がお前に説明出来ることはこれくらいだ。どうするかはお前が決めろ」
「イーサン…。でも…」
「お前が俺に出頭しろというんなら出頭してもいい。あいつには止められたが…」
「え…?」
「…ちょっと、あんた、出頭って…」
物騒な言葉にイーシャの顔色が変わる。が、イーサンは構わず言葉を続ける。
「俺が出て行ってその結果、じじぃが報復にあいつのしたことまで暴露する可能性がある以上、下手なことはするなと、まあ、そういう理屈だ。あいつが気にしているのは、ロスアンの家のことだ。警察沙汰には絶対にしたくないそうだ」
「……あ…」
「まあ、実際そうなる確率がどれくらいなのか俺には判断がつかないが、下手な脅しと一蹴も出来ない。後ろ暗さで言えばあいつより俺の方が余程ひどいからな」
と、目を細め、何故か薄っすらと笑いながらイーサンは言った。
「…何の話よ?」
「お前には関係ない。ほら、ハリージャが、呼んでるぞ。仕事に戻れ」
イーサンは手をひらひらさせてイーシャを追っ払いにかかる。イーシャは忌々し気に顔を顰めたが、結局素直にその場を去った。イーシャが仕事に戻った姿を見届けると、イーサンは言葉を続けた。
「…要はブラフだが、あいつが俺に負い目を持っているのも確かだ。へまをしたのは俺の筈だが、妙なところで人が好い…」
「…なんで、そんな…。私に言ってくれてれば、…オーランドに言って、誤解を解いて…。…警察がどうとかって、どうして…」
「さっきから言っているだろう?前センター長は確信犯だ。お前がいくら説明したところで無意味だ」
「そんな…だったら、どうしたら…」
「それはお前が考えろ。お前が出した結論如何で、俺に何かをしろというのならきいてやる」
「きいて…って…」
途方に暮れたアナベルが、困惑したまま首を振ると、何故かイーサンの表情が柔らかくなった。
「とにかく今は食え。ここは俺が出す」
「……イーサンが…?」
「そこまで驚くな」
ふいと、顔を背けると、イーサンは唐突に食事を始める。アナベルもつられてた様に、イーサンの“いつものやつ”を食べながら、イーサンの言葉の意味を反芻する。
…“俺に何かをしろというのならきいてやる”…というのが、イーサンなりの謝罪なのだと、食べ終わる頃になって、ようやく気付いた。
「イーサン…」
「なんだ?」
「ごめん…」
アナベルが俯いたまま謝ると、イーサンは目を瞠った。
「食事を奢ったくらいで…」
「そうじゃないよ…」
「なら、何を謝った?」
イーサンの真摯な問いに、アナベルは再び首を振る。
「…間違えるなよ…」
イーサンは、静かな、だがどこか優しい眼差しでそう言い出す。
「何のこと?」
「…お前があいつに何を言おうがお前の自由だ。あいつがこだわって言うべきことを言わないままでいるのもあいつの自由だ。けど、あいつのこだわりにお前がつきあう必要はない」
「…イーサン…」
謎かけの様なイーサンの言葉に、アナベルは何故か泣きたくなった。
「なんだ?」
「…ありがとう…」
泣きそうになりながらそう言うと、イーサンは目を細め、やや乱暴に、アナベルの頭を二、三度撫でた。師匠の突然の謎の行動に、髪の毛をぐちゃぐちゃにされたアナベルは本気で泣きそうになった。だが、こんなところで泣いている場合でもない。仕方がないので
「何をするんだよ?」
と、言いながらイーサンを一睨みし、ぐちゃぐちゃにされた自分の髪を手櫛で何とか整えた。
弟子のその様子に、イーサンは小さく笑った。




