3-14 東海岸の海(12)
ひたすら、しゃにむに、アナベルは自転車をこいだ。とにかく必死で、こいでこいでこぎまくった。そうこうするうち、アルベルトの家に到着してしまう。スペアキーを使って中に入るが家には誰もいない様だった。
…いや、地下ではルーディアが眠っているのかもしれないが。今は育児休業中で、普段家にいるリパウルは、恐らくミラルダのお迎えに行っているのだろう。
アナベルは真っすぐ自分の部屋に入ると、リュックを放り投げ、うつ伏せにベッドに倒れ込んだ。枕を掴んで抱きかかえ、その中に顔をうずめる。
……心がちぎれそうだった…。
…なんで、あんなこと、言ったんだろう…。
アナベルはすでに、自分がウォルターに投げつけた言葉を悔いていた。
…何故言ってしまったのか…理由はわかっている。かっとなったからだ。サイラスに敵わなくて、他の誰でもない、その怯えを、当人に見透かされて嗤われて憐れまれて…怖くて悔しくて…ウォルターが助けてくれて、嬉しかったのに、でも、不甲斐ない自分が情けなくて…だからこそ、…彼が口にした言葉が許せなかった…。けれど、あれがウォルターの本心でないことも、わかっている。
…このところずっと、あいつの様子が変だって、そう、思っていたじゃないか…。
いつも、こうだ。前にも同じ反省をした筈なのに、どうして、似た様な間違いを繰り返す。人間が成長するとかって、きっと嘘なんだ…。
いつもいつも、頭に血が上ると、自分の気持ちで一杯になって…あいつの言う事、全然、聞いてやれなくて、自分の訊きたいことばかり口にして、言いたいことばかり押し付けて…あいつが本当に言いたいことを、言えなくしてるのは私じゃないか…。
きっと、嫌なことがあったんだ、サイラスに、何か…いや、オーランドだってスタンリーさんだって、きっと、あいつの話をきかなくて、私みたいに、自分の言葉ばかり押し付けてるんだ。
だから…我慢して、…嫌だったに決まってる。私が押し付ける様な言い方したから…。
…嫌いだ…
そう言った時の、ウォルターの表情を思い出す。涙が勝手に溢れてきた。…泣く資格なんてないだろう?と、自分を叱咤するのに、お構いなしで涙はどんどん流れ出て、枕を濡らし、アナベルの呼吸を苦しくする。
…なんで、あんなこと、言ったんだ?全然、嫌いじゃないのに…ただ、あいつがあんな風に言うのが、許せなくて…。
声を押し殺し、苦しい嗚咽を一人で上げながら、アナベルの思考は延々と、らせんを描き続ける。
…謝りたい…ううん、謝らないと…嘘だって言って、言い過ぎたって…今度こそ本当に、話を聞くって、そう…。
…オーランドの言うことを信じたいんなら信じればいい…。
肯定も否定もしなかった…。どういう意味だったんだろう?オーランドがなんて言ったのか、あいつは知っていたのか?ハッキングンなんて…自分の正体を知りたかったから?
そういえば、ウォルターは、バイオロイドのことも結構知っていた。けど、それは、イーサンに聞いたって…。
…イーサン?
…いつだったかウォルターは、イーサン自身がハッカーでクラッカーみたいなものだって言ってなかったか?
オーランドの言うセンターをずっとハッキングしてたハッカーって、ひょっとして…。
アナベルは枕から顔を上げると、手の甲で顔をこすった。めそめそと泣いている場合ではない…。やっぱり、きっとどこかに誤解があるんだ…。とにかく、サイラスをウォルターの家から追い出さないと…。そう、決意して…なぜか再び、涙が出てきた。アナベルは急いで涙をぬぐう。
…こんなことで泣くのは苦しい…もう、泣きたくないのに…。
コトン、カタンという音が玄関の方から微かに聞こえた。
「…アナベル…?」
続いて、自分の名を呼ぶ微かな声。アナベルはベッドから飛び下り、部屋のドア近くに置いてある姿見で自分の顔を覗き込む。…ひどい顔に、なっていた…。この顔のまま出て行ったら、十中八九突っ込まれる…と、思いながらも閉じこもっているわけにもいかない。とにかく、まず、洗面室に…と、思いながらドアを開くと、目の前にミラルダの可愛い姿があった。
「アナベル?」
少々裏返ったその声に、ささやかなごまかし工作すらほどこせなかったと、項垂れる。
「…どうしたの?熱、あるの?…泣いてた?」
心配そうに言い募るミラルダの背後から、ユリアをベビーベッドに移したリパウルと、地下にいるのかと思っていたルーディアまでが寄って来た。
「…アナベル…」
「…何があったの?」
…口々に問いかける優しい声に、アナベルは再び泣きたくなった…。
*
食事の支度まではまだ時間に余裕があるということで、四人の女性はキッチンへと場所を移した。リビングにはユリアのベビーベッドがある。一度寝ると多少のことでは目を覚まさないユリアであったが、あまり、賑やかにする必要もないだろう。
ミラルダが率先して、飲み物の準備を始める。ルーディアがミラルダのお手伝いをする。
「…何があったの?」
項垂れるアナベルの隣の椅子に座り、やや真面目な調子でリパウルは切り出した。今日、アナベルの代理でミラルダのお迎えに行ったリパウルは、当然、アナベルの今日の予定を知っていた。ウォルターの家にサイラスが同居していることも、立場上、知っている。口調は当然、柔らかいものにならない。
「リパウル…」
「…サイラスに…その、何か…」
その名を出すのに、リパウルはしばし躊躇った。だが、ミラルダは真面目な表情で二人のやりとりに耳を傾けている。今日のお迎えがアナベルでなくリパウルだった理由を、ミラルダは既に知っている。自分を攫った人間の現状について、虚心ではいられないが、恐いと逃げ回ってばかりいる少女でもない。
リパウルの言葉に、アナベルは首を振る。…サイラスと何かがあった…というほどのことは何もない。ただ、自分が脆弱なだけで…。
「違うんだ…その、サイラスが本当にあいつの家にいて、それで…頭にきて、あいつにひどいことを言って…」
「あいつって…ウォルター君?」
リパウルの問いに、アナベルは顔を歪め、無言で頷いた。リパウルは、少し安堵したのか、その表情を緩めた。
「喧嘩しちゃった?ウォルター君と…」
優しいその問いに、アナベルは再び首を振る。
「喧嘩…なんかじゃない…。喧嘩にもならなかった。私が一方的にあいつをせめて、ひどいこと言って、…言い逃げして…」
言っている端から涙が溢れそうになってくる。泣きたくなくてアナベルは肩を竦め、目を固く閉じた。…と、優しい手がそっと、背中に触れた。
「リパウル…」
思わず、目を開き、顔を上げる。
「…腹が立って、ひどいこと、言っちゃったんだ…?」
目が合うと、リパウルは優しく微笑んだ。アナベルは思わず頷いてしまう。頷いた拍子に涙が零れ落ちた。彼女は慌てて手の甲で涙をぬぐう。泣いていた事実を隠す様に…。
「…後悔してるのね?」
…どうしてわかるんだろう?アナベルは再び、言葉なく頷いた。泣きたくなくて唇を噛みしめる。…言葉を返したいのに、口を開くと、涙が溢れそうで…。
アナベルの様子に、リパウルは優しく目を細める。
「…ウォルター君の事、好きなの?」
静かに問われ、アナベルは目を瞠る。一瞬、息が止まった…。目を瞠ったままで、アナベルは一度頷いた。頷いた拍子に、再び涙が零れ落ちる。アナベルは慌てて、手の甲で顔をこすった。リパウルが優しく笑う。
「…泣いてもいいのよ、アナベル…。こんな時はね、思いっきり泣いた方がいいの…」
優しいその言葉に、どこまでも強情なアナベルは首を振る。
「…な、泣く…資格なんか、ないよ…。ひどいこと、言ったのは…私で…」
「…バカね…」
「…カッとなって、引っ叩いちゃったし…」
アナベルの懺悔に、リパウルがくすくすと笑った。
「…リパウル…」
情けないアナベルは、リパウルに笑われて、涙も引っ込んでしまった。
「よほど腹の立つこと、言われたのね…。男の人って時々、本当に、どうしようもないから…」
「…え、ええっと…」
そうくるのか?と、アナベルは思った。が、そう言うリパウルは、何故だかとってもきれいに見えた。アナベルは状況も忘れて思わず見とれてしまう。
「…ここだけの話ね、実は私もあるの…」
「…へ、え…?」
「あるって…?」
ポカンと、口を開いて、ミラルダが呟いた。
「アルベルト。あんまり腹が立ったから、引っ叩いちゃったの」
「え、ええーーー?」
「え、なんで?」
アナベルとミラルダが口々に反応する。ルーディアは呆れた様子で、お茶をカップに注いでいた。
「それは、内緒。でも、アナベルの気持ち、わかる気がする…」
いや、それはどうだろうか?だが、詳細を聞いてみたい気もする。
「あ、ひょっとして、その喧嘩が原因で…」
アナベルの曖昧な問いに、リパウルは肩を竦めた。
「ううん、その時はね、後で仲直り出来たの」
「…あ、そうなんだ…」
その時…でない、別の時の件…に関しては、どうやらあまり突っ込んではいけない様だ…。
「言い過ぎたなって、後悔してるんだったら、早く仲直りしないとね」
「うん…」
「……長引かせるとね、本当に、難しくなっていくから…」
ふっと、一瞬、歪んだ笑みを浮かべて、重々しくリパウルが付け加えた。…なんだろう、彼女に言われると説得力が半端ないのだが…。
「あ…う、うん。そうだね…」
若干ビビりながら、アナベルは心から同意した。
「サイラスとの同居を黙っていたことで怒っちゃったの?」
さっきの恐い笑顔は、なんだったの?と、突っ込みたくなるほど、普段のリパウルに戻って、そう、首を傾げられる。
「うん…あいつ、その、理由とか、全然話してくれなくて、すごく、投げやりな感じで…」
「そう…」
「でも、きっと、何とかなると思うんだ。とにかく、サイラスさえ追い出せれば…」
「うん、そっか」
と、頷いた後、リパウルが眉を寄せた。
「…追い出すって…アナベル…」
「あいつがサイラスのこと引き受けた事情とか、リパウル知ってる?」
「え…それは…彼が、その…」
「父親が同じだから…そういうこと?」
アナベルの説明にリパウルは目を瞬かせた。
「そう…。私はそう聞かされてるわ。けど、そんな理由でって違和感があったのも、本当。だって、ウォルター君は、被害者だわ。いくら兄弟だからって…大丈夫なのかしらって…」
「うん、そうだよね」
リパウルの言葉にアナベルは頷く。自分の感覚を共有してくれている人がいるというだけで心強い。
「けど、ウォルター君も、そう言って引き受けてくれたって…違ってたの?」
「多分、違うと思う。…あいつが何も言わないから、はっきりとは言えない。けど、こんなのおかしい。だから、絶対に、サイラスを追い出してやる」
「アナベル…」
リパウルは唖然とアナベルの横顔を見つめた。…恋するアナベルを励ますつもりが、何やら妙な方向に向かっているような…。
対するアナベルは、リパウルの慨嘆も知らず、一人でいきり立っていた。
…諸悪の根源は間違いなく、あの変態色魔の兄貴だ。…とにかく、一発、殴ってやらねば気が済まない。病弱だからと妙な遠慮をしているから、調子が狂うのだ。…次に会った時には絶対に殴る!
物騒な決意を胸に秘め、アナベルはへこたれそうになる自分に活を入れた。が、活の入れ方が歪んでいる可能性については、残念な彼女は検討しなかった。
*
開発局での業務を終えたナイトハルトはいつもの様に、シュライナー家を訪れた。今日、彼を出迎えてくれたのは、アナベルでなく、アルベルトだった。ナイトハルトは眉を寄せると
「ミラルダは…」
と、口にした。アルベルトは苦笑を浮かべると
「今は、リビングでリパウルたちとユリアと遊んでいる。先にいいか?」
と、キッチンへと誘導した。
キッチンに入るなり、ナイトハルトはアルベルトの発言を先取りするように
「例の奴の話か?」
と、切り出した。アルベルトは流しに向かうと、「ああ」と、答えてから「コーヒーでいいか?」と、尋ねた。ナイトハルトは真顔で頷くと、普段から自分が座っている椅子に腰を下ろした。
コーヒーの準備をしながらアルベルトが口を開く。
「ウォルターの家に、サイラスという青年がいるのは間違いないようだ」
「アナベルが行ったのか?」
「そうだ。ルカを経由してウォルターには止められていたようだ…」
「あいつ、何を考えて…」
「ウォルター?それとも、アナベル?」
「両方だ。まあ、今のはウォルターに対してだが」
「…母親違いとはいえ兄だ。断れなかったんだろう…と、言いたいところだが、流石に非常識だな」
「そんな人を馬鹿にした理由を鵜呑みに出来るほど、ナイーブにできてない」
「…まあ、そうだな」
ナイトハルトの白けきった物言いに、アルベルトは苦笑を返す。
「アナベルはなんて言ってるんだ?今日、ウォルターの家に行ったんだろう?」
「…それが…」
と、アルベルトが何やら言い難そうに口ごもる。と、彼は不意に視線をキッチンの出入り口へと伸ばした。つられて、ナイトハルトも同じ方へ視線を向ける。見るとそこに、話題にしていた女子学生が、むっつりとした表情で立っていた。
「…アナベル」
と、言う、アルベルトの短い呼びかけには気遣いが込められていた。が、ナイトハルトは普段通りの不躾具合で、何の遠慮もなく本題を切り出した。
「お前、ウォルターの家に行ったのか?あの、サイラスって誘拐魔…」
「あぁ?」
「………」
…軽―く、尋ねただけだ。…しかも、まだ話をしている途中で…。
ここのところ、ナイトハルトの気分は下降気味だった…。それは彼とミラルダの二人だけの事情ではあったのだが。…それでも、ミラルダは、シュライナー家で、ユリアから多大な慰めと励ましを得ていたし、友達や家を守る猫たちにも元気を貰っている。
…何より、今でもママの気配を感じることがあったので、悲しみに足をとらわれそうになりつつも、それに溺れることなく日々を過ごせていた。
…が、彼女の父親の事情は少し異なっていた…。
「…お前…舐めてんのか?」
アナベルの不穏な態度に、ナイトハルトは目を細めると、なにやら優美に立ち上がった。
…不安定な精神状態にありながら、一日一日を、娘を守ることでなんとかこなしていたナイトハルトは、その日常に水を差すような新たな展開に、率直に言えば、余裕を無くして苛立っていた。だが、自分に余裕がないという自覚はある。
彼なりに周囲に当たらないよう、現在進行形で、誠心誠意努力中であった。…それが…。
話の端緒から唐突に現れ、普段に輪をかけて生意気な…いや、生意気というレベルを超えた、目の前の女子学生の無礼な態度に、ナイトハルトはあっさりと……軽くキレた。
「おい…」
と、システムキッチンの方から、アルベルトがやや焦った声を上げた。
…が、最低の気分である…という点において、今のアナベルはナイトハルトとためを張れる程度には、機嫌が悪かった。
ナイトハルトの買い言葉に、アナベルは腕を組み、目を細める。
「誰がお前なんぞ舐めるか」
「ご挨拶だな、俺が何をした?」
「関係ないだろう、余計な首を突っ込むな」
「…関係ない…?」
その一言に、ナイトハルトの眉間は深い皺を刻んだ。
「お前、本気で言ってんのか?」
「ミラルダは近寄らせない。あの屑野郎をあいつの家から追い出すまで…」
「ほお、そんな予定があったのか?」
「予定じゃない、確定だ。だから、お前に出来ることは何もない。関係ないってのはそういう意味だ」
「なるほど…。で、追い出すって、具体的にどうやるんだ?」
ナイトハルトはバカにした様な笑みを浮かべてアナベルの次の言葉を待つ。アナベルはわかりやすく歯軋りし始めた。
「う…うるさいなっ!追い出すったら、追い出すんだ!」
「そもそも、どうして、こんなことになった?ウォルターはなんて…」
「…だからっ…!!うるさいって、言ってるだろうが!」
「アナベル!」
悲鳴にも似た悲痛な攻撃の言葉に、掣肘の声を上げたのはアルベルトだった。
「…その、少し落ち着くんだ。君とナイトハルトが諍いを起こさなければならない理由はない。そうだろう?」
アルベルトの言は正論だった。アナベルはアルベルトの顔を見つつ顔をしかめると、ようやく口を噤んだ。ナイトハルトはアナベルの強張った表情が孕む、不安定な揺らぎに涙の気配を察知する。
「お前、何があった?」
訝し気に顔をしかめ、単刀直入にナイトハルトは問うた。途端、アナベルの目線が勢い良く彼へと向き直る。
「だから、お前には関係ないっ!」
「関係ない?そんなわけないだろうが。あのな、これでも一応、お前のことも心配してやって…」
「恩着せがましいいい方しやがって…!お前に心配して欲しいなんて、誰が頼んだっ?!」
一応はナイトハルトなりに、アナベルを気遣って、訊いたつもりであった。…にも拘らずこの言い様は…?
ナイトハルトはわかりやすく顔を引きつらせると一歩踏み出し、問答無用でアナベルの手首を掴んだ。
「お前、いい加減…」
言葉の途中で、目が合った。…大きな双眸は目一杯、見開かれ、無防備に開かれた口が小さく震えていた。
「…おい?」
「…放せっ!!」
叫ぶなり、アナベルはナイトハルトの腕を振りほどく。振りほどきざま、彼女は既に踵を返していた。素早く整えられた撤退体勢を保ったまま、アナベルはナイトハルトに向かって
「お前だって、人のことおもちゃにしてるだけじゃないか!…この、鬼畜!!!」
そう、捨て台詞を吐くと、迅速に彼女は撤退した。
鬼畜と言い捨てられたナイトハルトは、振りほどかれた腕を宙に浮かせたまま、しばし固まってしまった。…が…
「…おい…」
と、離れた場所からやや、冷ややかな声がかかる。ナイトハルトはむっつりと声の方へと顔を向けた。
「なんだよ…」
「お前、アナベルに、何をした?」
この場面では、まあ、当然尋ねられるであろう質問に、ナイトハルトは嫌そうに友人の探るような咎める様な視線を見返した。
…とにかく、ミラルダとリパウルがこの場に居なくてよかった…
咄嗟に思いつくのがそのレベルだったので、ナイトハルトも鬼畜呼ばわりされても仕方がなかったかもしれない。
「…何って…あれはあいつの八当たりだろうが…」
ナイトハルトの不貞腐れた様な返答に、アルベルトはこれ見よがしなため息をついた。
「…まあ、そういう側面もあるだろう。けど、何もなければあそこまでは言わないだろう」
冷静な切り返しに、若干、後ろ暗いところのあるナイトハルトは、言葉に詰まった。
「…随分、前の話だぞ?」
「…そうか…」
と、だけ返すと、アルベルトは白々とした眼差しで友人を凝視した。




