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オールドイースト  作者: よこ
第2章
291/532

2-15 フィマオとカフェオレ(9)

ランチタイムを終え、ミラルダは図書室に向かった。が、予想通り今日はジーンの姿もトリクシィの姿もなかった。ミラルダはまたしても一人ため息をつくと、昨日まで読んでいた本を返して、次に借りる本を探し始めた。


 放課後ケアのクラスでも、ジーンは一人隅の方で書籍タブレットに没頭している様子だった。先週までは完全に一人だった筈のミラルダだったが、今、一人にされると、どうしていいのかわからなくなってしまう。なんとなく所在無い思いをしていると、トリクシィが、ミラルダの傍に近づいた。


「トリクシィ」

「聞いた?金曜日って…」


トリクシィは前置きなしで切り出した。


「あ、うん…」


何事もなかったかの様に話しかけてくるトリクシィの笑顔に戸惑いを覚えながら、ミラルダは頷いた。


「リリィの家に集合だって。場所、知ってる?」

「う、ううん」

と、ミラルダは首を振った。


「私もよく知らないの」

「そうなんだ…」

「だから学校が終わったら、私たちはリリィと一緒にお迎えの人と帰ることになるの」


ミラルダは頷いた。アナベルに言っておかなければならない。が、なんと言うべきか?ミラルダは、しばし頭を悩ませた。


連絡事項を伝え終わると、トリクシィはジーンの方へと視線を据えた。そのまま無言で幼馴染の姿を見つめ続ける。ミラルダは、何故か申し訳ない気持ちになった。


「トリクシィ、ごめんね…」

「え?」


ミラルダの謝罪に、トリクシィは驚いた様子で、彼女の方へと向き直る。


「何が?」

「だって、その…ジーンが怒ってるでしょ?それで…」

と、告げるとトリクシィは笑顔になった。


「どうして?ミラルダは何も悪くないわ。でしょ?」

「そうだけど…」


仲の良かった二人のバランスを崩したのは、自分の存在の様な気がしていた。自分が交霊会に誘われていなければ、自分が一緒に行くと言わなければ、トリクシィだって参加を見合わせたかもしれないではないか?ジーンはそれで怒っているのではないだろうか?


「昨日もジーンの家で大喧嘩になっちゃって…」

「大喧嘩?」


ミラルダは目を丸くして復唱してしまう。トリクシィは真面目な表情で頷くと

「だって、あんまり頭ごなしなんだもの。ジーンはミラルダのことも心配してたけど、私もミラルダも誰かに無理やりそうさせられたんじゃないもの。でしょ?」

「ま、まあ…そうだけど」

と、ミラルダは曖昧に答えながら、またしても自分の中のトリクシィのイメージを修正し始める。


どうも自分は、トリクシィの儚げな外見にひっぱられて、彼女を弱く…甘く見過ぎているようだ。ミラルダの態度にトリクシィは首を傾げた。


「違うの?ミラルダはひょっとして私に気を使っているだけなの?」

「いや、どうかな?」


そう問われると、よくわからなくなってくる。トリクシィが心配…ということを表向きの理由にして、本心では自分がママに会いたいのでは…。


 …でも、リリィはインチキだ…。


「ジーンの言う通り、交霊会でママに会えるなんて、今は全く思ってないの。一昨日パパに訊いてみて、やっぱりママは生きてるんだって、そう思ったから。なんでそう思ったかっていう理由は、うまく言えないんだけど…」

「そうなんだ」

「うん、ジーンのママにね、訊ければいいの。でも、それも嫌なの。私はパパからききたいの…」

「うん…」


その気持ちはわかる気がした。どんなひどいことでも、他人に聞かされるよりママやパパに伝えてもらう方がいい…。


「ミラルダがもし、本当は参加したくなくって、私に気を使っているだけなんだったら、今からでもやめていいんだよ?」

と、トリクシィが言葉を続ける。ミラルダは戸惑った。が、彼女はすぐに首を振った。


「ううん、気を使ってるわけじゃなくて、私は多分、トリクシィのことが…」


…ここで、私が勝手にあなたのことを気にしているだけなの。と、言ってトリクシィに伝わるだろうか?彼女を気遣っているということと、こっちが勝手に気にしているというのでは、やはり違っているようにミラルダには思われるのだが…。


「ミラルダ?」

「あ、うん。気を使ってるんじゃないけど、その、気にはしてるけど、それは、そのトリクシィのせいじゃないっていうのか…」


するとトリクシィが顔を伏せた。


「ミラルダもパパと二人だから?気にしてくれてるの?」


ミラルダはそれにも首を傾げた。確かにトリクシィのパパが、何を隠しているのか…というより、トリクシィの気持ちがどんな風に落着するのか、というより、果たして落着するのかどうかということは気になっていた。だが、それが理由というわけでもない。


「深い意味は無いの、きっと。半分くらい好奇心っていうのか…」

「そうなの?」

と、トリクシィは首を傾げた。が、「そっか」と、呟くと、納得したのかそれ以上そのことに関しては追及してこなかった。


 その日もアナベルは、普段通りの時間帯に、ミラルダを迎えに来てくれた。が、ミラルダが眼鏡の少女と一緒にいなかったので、首を傾げていた。ミラルダはトリクシィにバイバイをして、アナベルと並んで歩いた。アナベルとウォルターは今週の初めに学期末試験の範囲が発表されたので、試験期間に入っていた。そのため、ハウスキーパーの仕事の方は、開店休業状態で、今のアナベルは、家主と一緒に試験勉強を励行中だったのだ。


「今日は眼鏡の子、一緒じゃなかったんだね」

と、駐輪場まで来るとアナベルの方からそう言い出した。ミラルダは

「うん…」

と、呟いた。ジーンの雰囲気がウォルターに似ているので、アナベルにとってジーンは殊の外、印象が強い様なのだ。


「お休み?」

「ううん、そうじゃないの。今日はちょっとたまたま…」

「そうなんだ」

と、アナベルはこだわらずに納得してくれた。ミラルダは息をつくと、

「あのね、金曜日に、さっき一緒に居た子と、別の友達の家に遊びに行くことになってるの。それで、お迎えはいらなくて、…そのおうちの人が一緒に迎えに来てくれるからって」

と、金曜日の件をアナベルに伝えた。


「へえ、そうなんだ」

と、アナベルは笑顔になった。本当に嬉しそうなその笑顔に、ミラルダの良心が痛んだ。


「あの、ナイトハルトには…」

「ああ、わたしの方から言っておこうか?あと、ケアのクラスの先生にも、言っておかないとね」

と、アナベルは優しい笑みを浮かべたままでそう言った。ミラルダは益々後ろめたくなった。


 大きく、嘘は言ってない。しかし、アナベルの笑顔は、純粋に、自分に友達が出来た様子なのを喜んでくれているからなのだ。だが、トリクシィはともかくリリィは果たして友達と言えるのだろうか?それにせっかく少しだけ仲良くなっていたジーンとも、冷戦状態になってしまって…。それもこれも金曜日に、大人に内緒で、子供だけで交霊会をやろうとしているせいなのだ。アナベルの優しさに対して、自分は誠実とは言えない…。そう思ってミラルダは、落ち込んでしまう。それに…。


 ナイトハルトが知ったら、怒るだろうか?ふと、ミラルダはそんなことまで気にかかってしまった…。

 

***


バイオロイドの施設で、職員の目から隠れる様にして、ジョゼフはカサンドラからの最終報告を聞いていた。女子の参加者は、トリクシィと彼女の友達、カサンドラと、カサンドラの友達二名を入れて五人。ジョゼフは勢い良く頷いた。男子の方の参加者の目星はすでにつけていた。随分とてこずってしまったが、これで、ママと話がしたい、というトリクシィの願いを叶えてやることが出来る。


トリクシィが中々うんと言わなかったのは、あの目障りで口の悪いジーン・マクブライドの影響だろうと、ジョゼフはずっと忌々しく思っていた。


ジョゼフは特に何もしなくても女子には好かれたし、大抵のことはさほど苦労せずやることが出来た。なのにどうしたわけか、トリクシィだけは自分に夢中にならないのだ。その理由がよくわからない。未だにわからずじまいなのだ。なので、ジョゼフはやや一方的に、全ての責任をジーンに押し付けるようになっていた。


四年生の時に同じクラスになったトリクシィは、愛らしく可憐で、大人しくて、頼りなげで…。どうしたわけか、ジョゼフは彼女こそが運命の相手だと思ってしまったのだ。自分が守らないで誰が彼女を守るのか?が、トリクシィにはすでにナイトがいたのだ。眼鏡をかけた浅黒い、やせっぽちの同級生はジョゼフが浴びたこともないような悪態の限りを尽くして、トリクシィと自分を引き離したのだ。


 その上、五年生のクラス替えでは、本当にトリクシィと引き離されてしまった…。それだけでも腹が立つのに、あろうことか、ジーン・マクブライドとは同じクラスになってしまったのだ。さらに忌々しいことに、ジーンはジョゼフが最も得意とする算数で、彼と競り合うほどの優秀さを見せた。時にはテストでジーンに負けてしまうこともあったのだ。


 それでもジョゼフはトリクシィを諦めなかった。機会を伺っては彼女のクラスに赴いて、彼女にアプローチをかけ続けたのだ。が、トリクシィはいつもふわふわとジョゼフの言葉を交わすばかりで、一向に気持ちに応えてはくれないでいたのだ。ジョゼフはもどかしさでやきもきしてた。


 そんな彼の前に、ミラルダ・グールドウェイが、突然、現れたのだ…。


 トリクシィのことはあきらめない。けれど、ミラルダも十分魅力的だ。おまけに、ジーンを凌ぐほどの優秀さで…。いや、施設にいるバイオロイドの女子以上に、その美少女ぶりも含めて、ミラルダは優秀だったのだ。


 彼女ほどの逸材を、逃す手があろうか?この際“ノーマル”だろうと構わない。どうせバイオロイドをつくるんだったら、より優秀な方が望ましい。ジョゼフはそんな風に考えた。つまり、本命はあくまでもトリクシィで、ミラルダのことは、優秀なバイオロイドをつくるという、いわば自身に課せられた義務を遂行するためであって…。


これまではずっとそう思って、ミラルダに声をかけていたのだ。今日、ミラルダの笑顔を見るまでは…。


 いつもどこか取り澄ました表情の、…それこそ、ジーン並みにツンとした顔しか見せていなかったミラルダの笑顔を目にして、ジョゼフは一瞬で彼女の虜になってしまった。


思えばミラルダは、つねにすましてはいたが、彼女のそれはジーンとは異なり、どこか強がっているように見えなくもない。ミラルダも、トリクシィの様に、守ってくれるナイトが必要なのだ。気が付くとトリクシィに対して感じた時と同様、ミラルダに対しても、ジョゼフはそんな風に思い始めていた。…が、そう簡単に自分の心変わりを認めるわけにはいかない。


現に今、自分が交霊会を開こうと一生懸命努力しているのは全てトリクシィのためだ。だから、自分はちょっとだけミラルダを可愛いと思ってしまったが、決して心変わりをしたわけではない。ジョゼフはともかくそう自分に言い聞かせていた。


…実際に、交霊会を開くために奔走していた哀れなカサンドラと交わした約束のことを、ジョゼフが思い出すことは全くなかった…。


***


金曜日まであとわずか…。ミラルダはその日のランチタイムもトレイを持って、やや俯きがちに端の方の席を目指す。昨日と同じ場所にトレイを置くと、静かに椅子を引く。予想通り今日も背後に人の気配がした。振り向く気にもなれなくて、ミラルダはそのまま椅子に座った。背後の人物がやけに近くから

「隣、いい?」

と、聞いてきた。ミラルダは驚いて勢いよく顔を上げてしまう。


「ジーン…!」

「そんなに、驚かなくても…」


ジーンは渋い表情になりつつも、ミラルダの隣の席に腰を下ろした。


「あんた、怒ってたんじゃ…」


ミラルダが言いかけると、ジーンは聞いているのかいないのか、ミラルダの反対側、テーブルの一番端の席に、視線を向ける。ジーンの目線につられてミラルダも同じ方向を見ると、自分のすぐ横、斜め前にジョゼフが座っていた。ミラルダは仰天した。ジョゼフは見るからに不快気な表情で、ジーンの方をねめつけている。ミラルダがジーンの方を見ると、ジーンはジーンで、バカにしたような表情でジョゼフを見やっていた。


 間に挟まれてしまった格好のミラルダは、首を竦め、肩を縮めた。


 …一体何なんだ?この状況は?

と、ミラルダは叫びたくなった。しかし、今は挨拶の時間だ。


 教師の挨拶が終わると、食事が始まる。ミラルダは声を潜めるとジーンに向かって

「あんた、一体…」

と、囁いた。ジーンは、ミラルダを一瞥すると

「何が?」

と、切り返す。ミラルダはため息をつくと

「怒ってたんじゃないの?」

と、静かに質問した。ジーンはそれには答えず、ミラルダの向こう、ジョゼフの顔を凝視している。ジョゼフは

「ミラルダ、君、夏休みは、どうするの?」

と、妙に爽やかな口調で訊いてきた。ジーンと話しているつもりだったミラルダは、この唐突な質問に、戸惑いを隠せない。


「夏休みは…今のところは…」

「そうなんだ?だったら、ポートヴィレッジのサマーキャンプに参加しなよ」

と、何やら一方的なこと言ってきた。


「ポートヴィレッジの、サマーキャンプって言われても…」

「僕ら施設では、全員参加が義務付けられているんだけど、“ノーマル”も参加している。君なら勉強についてこられないってこともないし…」


いや、だから…ポートヴィレッジのサマーキャンプがどんなものなのか、そもそもそこからして、全くわからないのだが?と、ミラルダは声を上げたくなった。


ジーンが食事を進めながら

「ポートヴィレッジのサマーキャンプはポートヴィレッジってとこで、夏休み中の二か月間、みっちり勉強するキャンプのことよ。勿論、勉強ばっかしてるわけじゃなくて、イベントもあるしスポーツをやったりもするみたいだけど」

と、親切に説明してくれた。


「そうなんだ」

「そう、ちなみに施設住まいのバイオロイドたちなら、オールドイーストの地方府がお金を出してくれるから、実感としては無料で参加できるけど、“ノーマル”は普通に参加費を捻出しないと参加できないわよ。で、普通に出すと、結構、いい値段がするのよね」

「あ、そうなんだ…」

と、言われても参加する気など、はなから無い。夏休みにはナイトハルトと一緒に、トリオールのカークおじさんの家に行く予定があったし…。


「まあ、でも、あんたのパパはお金には困ってないんだっけ?」

と、ジーンが余計な一言を付け加える。ミラルダはむっとして

「別に、困ってないってだけで、そんな大金持ちってわけでもない…と、思うけど…」

と、答える。すると何故かジョゼフの方が

「ミラルダのパパって、何をしてる人なの?」

と、またしても唐突に尋ねてきた。ミラルダはどうしてそんなことを、ジョゼフに教えないといけないのだ?と、腹が立ったが、言葉を発したのは、ジーンの方が早かった。


「あんた、何、人のプライバシー、土足で踏み荒らしてるのよ?」


言われたジョゼフは、鼻白んだ。


「土足でって…。だいたい、君には関係ないだろ?ジーン」

「あ、そう。バイオロイドってそんなに偉いんだ?気に入った子だったら、パパの職業を軽―い気持ちで尋ねちゃっても、許されてしまうんだ?へぇ、知らなかったなぁ」


ジョゼフはあれこれ言い返したかったが、ジーンが力を込めて発した“気に入った子”というフレーズが頭の中でリフレインを始めてしまって、咄嗟に絶句した。


ミラルダは顔をしかめると

「ジーン、前から思ってたけど、あんたバイオロイドに恨みでもあるの?」

と、ジーンを睨みながらそう問うた。ジーンは器用に片眉を上げると

「別に?バイオロイドがどうのってわけじゃないわ。ジョゼフの傲慢さが気に入らないだけよ」

と、肩を竦める。ミラルダは呆れてしまった。傲慢というなら、取りようによっては、ジーンだって相当傲慢だ。


「だったら、そう言えばいいだけじゃない。当人に変えようのないことを攻撃するのはフェアじゃないわ」

「こいつのプライドの根っこが、そこにあるんだもの。だからよ」

と、ジーンは取り合わない。ミラルダとしては、別にジョゼフをかばっているつもりは全くないのだが、何やら自分がジョゼフをかばって、ジーンを非難しているような格好になってしまっていた。


案の定、ジョゼフが多量の感動を含んだ声音で

「ミラルダ、ありがとう…」

とかなんとかお礼の言葉まで呟いてきた。ミラルダは、どうして自分が、こんな立場に立たされてしまっているのかわからなくなってきて、深々とため息をついた。


すると、横でジーンがにやりと笑った。顔を上げると

「まあ、確かに、あんたの言う通りね、今の言い方はフェアじゃなかったわ。言い直す」

「ジーン…」

「あんた、なんだってそんな、ミラルダにちょっかいだしてんの?女、口説きたいんだったら、あちこち清算を済ませてからにしなさいよ」

と、初等校生が口にするには、何やら早すぎるような理屈で攻撃を再開した。ミラルダは、自分でも顔が赤くなるのが分かった。


「口説くって…」


…それに“清算”って、なんだ?



 見るとジョゼフも、妙な表情になっていた。ミラルダと目が合うと、彼は露骨に慌てふためいた。

「べ、別に口説いてるわけじゃない。ミラルダは転校生で、その一人で寂しそうだったから…」

と、目を泳がせながら言い出した。ジーンはジョゼフの反論をせせら笑うと

「聞いた、ミラルダ。あんた、憐れまれてたみたいよ。かわいそうな転校生ってね」

「ジーン、ちょっと…」


「一人ぼっちでかわいそうな転校生。自分が少し優しくしてやればすぐになびくだろうって?そもそもミラルダが一人ぼっちにされてんのはあんたに原因があるんじゃないの?ひょっとしてカサンドラに命令して、ミラルダをわざと孤立させてたんじゃないでしょうね?その方が落としやすくなるから」


「な!バカな!」


思いもよらない攻撃に、ジョゼフは思わず声を上げた。


「あ、これは深読みだったのね。そりゃ、悪うございました。でも、自分が悪いって気づきもしないで口説き続けるってのも、ものすごくバカっぽいわ。そんな無神経で気の利かない男、私だったら願い下げだけど」

「別に、こっちだって君なんかに、全然、興味はない。だいたいさっきからなんだ?別に口説いたりはしてないだろう?ミラルダ!」

と、ジョゼフはミラルダに視線を向ける。唐突に話を振られたミラルダは仰天してしまった。

「な、なによ?」

「僕は…その…」


呆気にとられたミラルダの、大きく見開かれた緑色の双眸を直視して、ジョゼフはかえって逆上してしまった。ジーンが可笑しそうに肩を揺らして

「だったら、何だって、サマーキャンプに誘ったの?何考えてんだか丸わかりなのよ」

「別に、それは、深い意味は…」

「あらまただわ。あんた、深い意味もなく夏の予定を決定されるところだったのよ、ミラルダ」


ミラルダはげっそりしてきた。喧嘩したいのだったら二人でどうぞと言いたくなってくる。


彼女は、再度深々とため息をつくと

「ジョゼフ、夏休みにはパパと一緒に、親戚の家に行くことになってるの。せっかく誘ってもらって悪いんだけど…」

と、ジョゼフの方を見もしないでそう言い出した。ジーンは行儀悪く頬杖をつくと、ジョゼフに向かって

「あんたはお呼びじゃないってさ」

と、にっこりとした。


ジョゼフは、忌々し気に顔を歪めると、食べかけのトレイを持って、席を移動した。


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