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オールドイースト  作者: よこ
第2章
208/532

2-9 欠けたモノ(6)

※時間軸、前話【2-8】の続きになります。

郷里のカディナから一日がかりで戻ってきたアナベルは、下宿先に戻る前に、ハウスキーパーのバイト先、ウォルターの家に立ち寄っていた。仕事の再開は、明日、三学期が始まってからの予定になっていたのだが、学校が始まる前に、ウォルターに渡したいものがあったアナベルは、とりあえずちょっと寄るだけのつもりで、ウォルターの家を訪ねたのだった。


が、話しをしているうち、ウォルターが食事をとっていないことに気がついてしまったアナベルは、何故だか食事を作る羽目に陥っていた。もっとも、自分の方も、手がつけられなくて放置していた古典の課題を見てもらっているので、偉そうに恩を着せられる立場でもない。ギブアンドテイクだな、と、一人頷きながら会わない間の春休み中の出来事の話をしていると、インタフォンが鳴った。


「今日は誰も来る予定は、なかったはずなんだけど…」

と、ウォルターが首を傾げる。今日最初の、予定外の訪問者のアナベルは、なんとなく申し訳なくなってしまった。続いて

『ナイトハルトだー。ウォルターいるかー』

と、来訪者が名前を名乗る。ちょうどナイトハルトの話をしようとしていたところだった。


アナベルは驚いてウォルターの方に視線を向けてしまう。見るとウォルターも驚いたような顔をしている。


「お前、座ってろ」


アナベルは簡単に言うと、コンロの火を止め、玄関へと向かった。


 アナベルが、一番最近ナイトハルトに会ったのは、約一ヶ月前のことだ。バイトから戻ってきたアナベルは、アルベルトを訪ねて家に来たナイトハルトと、駐車場で行きあった。


その時ナイトハルトは、何の断りもなく、いきなりアナベルを抱きしめた上、理由も告げずに、先にアルベルトの家に入って行ってしまったのだ。


 …別にいい…。


きっと、何か抜き差しならない理由があったのだろう。その時のナイトハルトの様子が、普段と違っていたので、アナベルとしてはそう納得するしかなかったのだ。が、一応は年頃の乙女…ではある。全く何も感じていないのかといえば、やはり多少は気になっていた。


意識しても仕方がないことは分かっていたが、そんな出来事があって、一ヶ月、今日久しぶりに顔を会わせるのだ。勿論、くどいようだが、それほど深い意味がないことは分かっている。それでも、この一ヶ月ぶりの顔合わせを、ウォルターには見られたくない、という意識が働いて、アナベルはウォルターの欠食を理由に、自分から出迎えに出ることにした。が、何ゆえ、ウォルターの前で対面を果たすのに抵抗を感じるのか、それは自分でもよくわからない。


アナベルはやや仏頂面になって玄関を開いた。他にどんな顔をしたらいいのか、よくわからなかったのだ。


ミラルダにせがまれて、ウォルターの家まで赴いたナイトハルトだったが、出迎えに出たのが、ウォルターではなくアナベルだったので、当然のように驚いた。


ナイトハルトは出迎えてくれた仏頂面の金欠女子学生を、露骨に指差すと

「お前、なんでここにいる?」

と、あきれた様子で呟いた。


アナベルは舌打ちしたくなった。やはり一ヶ月前の事はナイトハルトにとって、ことさら特筆するような出来事でもなかったのだろう。一ヶ月ぶりに会って、開口一番がそれかよと、アナベルは内心で毒づいた。確かにウォルターの家を訪ねて、休みの予定の自分が出迎えれば、そう言いたくもなるだろう。


…気持ちは分かる。わかるのだが、他に言葉があるだろうに。


「どうも、ようこそ。…私で悪かったな」


ナイトハルトに無愛想な挨拶を述べると、アナベルは視界を下げた。ナイトハルトの髪の色と、よく似た金髪の頭が、視界の下の方に、入っていたからだ。と、そこには大きな緑色の目をした、金髪の少女が、やけに生真面目な表情でアナベルを見上げていた。


 …なんだ、この美少女は…?


 アナベルは二の句が告げなくて…ついでに、先ほどまでは確かにあった、ナイトハルトに対するわだかまりもすっかりどこかに飛び去ってしまって、ただ、まじまじと、目の前の少女を凝視してしまう。


 ナイトハルトは、言葉を続けようと思ったのだが、アナベルとミラルダが凝視し合う光景が面白くて、口を出しそびれてしまう。確か一週間前にも似たような光景を目にしたな、と、おかしくなってくる。もっとも一週間前のミラルダの観察相手は、ウォルターだったのだが…。


 アナベルはしばし、瞬きも忘れて、目の前の少女を凝視していたが、ふっと、呪縛から開放され顔を上げると呆気に取られたような表情で

「この子、ナイトハルトの子?」

と、嫌になる様な率直さで、確認をとってくる。


ナイトハルトは「ああ」と、短く答えると、ミラルダの頭に手を置いた。ミラルダは小さく目礼すると

「初めまして。ミラルダ・グールドウェイです」

と、丁寧に挨拶をしてきた。アナベルは慌てて

「私はアナベル・ヘイワード。アナベルでいいよ」

と、応じる。


なんだろう…外見はナイトハルトそっくりなのに、やけに可愛くないか?


単純なアナベルは、美少女の礼儀正しい姿勢に、すでにすっかり好意を抱いてしまっていた。つい先日まで、似た年齢のクソ生意気な男の子の相手をさせられていた反動も、あったのかもしれない。アナベルは思わず笑顔になった。


「ミラルダは何年生?」

「五年生です」

「そっか、顔はパパ似なのに、礼儀正しくて、しっかりしてるね」


と、アナベルは微妙な褒め方をした。きっと母親がすごくしっかりした、ステキな人なのだろうと、何の根拠も無くアナベルは決め付けた。


アナベルの微妙な褒め言葉に、ミラルダは自分の分だけ素直に受け取って、はにかんだように俯いた。


 …が、ナイトハルトは聞き逃さなかった。


「おい、お前、今、微妙に失礼じゃなかったか?」

と、目を眇めてしまう。が、アナベルは真顔で首を振ると

「いや、思ったまま、見たままだ」

と、答えると、二人を招きいれた。


キッチンの手前まで来るとミラルダが小走りになった。

「ウォルター」

と、言うと彼の傍らに寄って、手元を覗き込んだ。

「ああ、ミラルダ。今日はどうしたの?」

と、片肘をついた行儀の悪い姿勢のまま、さらに課題のタブレットに視線を据えたままで、ウォルターは尋ねる。


「うん、アルベルトの家に連れてってくれるって…」

と、ミラルダが言いかけるとナイトハルトが、娘の言葉を引き取った。


「そう、アルベルトに連絡を入れたら、こいつが…」

と、言いながらナイトハルトは自分の背後にいるのであろうアナベルを、見もしないで指差した。そして

「まだ、戻っていないって聞いて、それで…」


「それでね、ナイトハルトが、また、ピザとか頼もうとするから、昨日からずっとそれで…もう、食べ飽きちゃって…」

「で、ウォルターのところにご飯を食べに行こうって、こいつが…」

「もう!こいつじゃないでしょ!?」

と、ミラルダが抗議した。なんとなく事情は分かった。


二人が話している間もウォルターが、どこかぼんやりと片肘をついたままだったので、ミラルダは心配そうな顔になって、

「なんか、今日のウォルター、様子が変な気がするけど、大丈夫?」

と、首を傾げた。それから

「ひょっとして、お邪魔だった…」

と、遠慮気味に呟く。


ウォルターは少し体を起こすと

「いや、邪魔じゃないよ。驚きはしたけど」

と、答える。ミラルダは遠慮がちに父の背後の女子学生にちらりと視線を向けると

「でも、ウォルター、ガールフレンドはいないって、言ってたのに…」

と、少女らしい気遣いを見せた。


アナベルは流しの方に戻って

「私にことなら、ただのハウスキーパーだよ。ウォルターが今日、普段と違うのは食事を取るのをサボってたからだと思うよ」

と、説明した。


「なんで、今日は私の作った料理になっちゃうけど…」

と、付け加える。ミラルダは少し戸惑ったように

「ハウスキーパーって…。彼女じゃないの?」

と、首を傾げた。アナベルは苦笑した。


「まあ、わかるけどね。料理だってこいつの方が上手いし、けど、一応はそうなんだ。つまり、私は仕事で来てるだけだから、気を使わなくても別にいいよ。そのかわり、今日は私のつくった料理で勘弁してくれるかな?」

と、首を傾げる。


ミラルダはまだ微妙に納得がいかないという顔のままだったが、ゆっくりと頷いた。ナイトハルトがウォルターの表情を窺うと、見事なまでに無表情になっていた。


ナイトハルトはふっとため息をつくと

「仕事でって、今日は休みの日だろうが。そもそもお前、アルベルトに連絡を入れてるのか?」

と、やや突慳貪な口調でそう言った。


アナベルは慌てた様子で

「あ、そうだ!ちょっと寄るだけのつもりだったから…」

と、言いながらキッチンの隅に置いた、大きめのリュックから携帯電話を探り出すと、さっそく連絡を入れ始めた。


「あ、うん…ナイトハルトとここで偶然会って…昼食を食べたら戻るから…」

などとしばし言葉を交わすと、アナベルは通話を終えた。


「アルベルトから、詳しいことはナイトハルトに直接聞けるねって…ミラルダのこと?」

と、アナベルは首を傾げた。


 失神寸前にも見える、ウォルターを気遣ってアナベルは急いで配膳準備を整える。もっともナイトハルトにはウォルターの無表情には、別の理由が大きく作用しているような気がしないでもない。が、とやかく口をはさめる立場でもない。配膳を終えると、さっそく食事を取り始める。と、ナイトハルトが切り出した。


「つまり、こ…ミラルダの母親が亡くなったんで、俺が引き取ることになったんだ」

と、結構過酷な事態を、なんでもないことのように、妙にあっさりとナイトハルトは説明した。見るとミラルダが顔を強張らせている。アナベルの方が、うろたえて

「お前…もう少し言い方が…」

「いや、どういう言い方をしても事実は変わらない。が、初等校生一人に、留守番させることは禁じられている。俺は日中不在だし、それで、春休み中、こ…ウォルターにミラルダを預かってもらってたんだ」


「春休み中と言っても、四月に入ってからだけどね」

と、多少復活してきたウォルターが、付け加える。


「専門のチャイルドサポートを雇うことも考えたんだが、俺は他人を家に入れたくないんだ。まあ、苦肉の策だな。で、最初、お前をあてにしてんだが…」

「勝手に当てにするなよ…」

と、アナベルは苦い顔になった。


「アルベルトから聞いたんだが、お前、チャイルドサポートの資格を持ってるって、病院でのバイトよりはましだろうと思って、バイト代もちゃんと相場より高めで考えてたんだが」

「病院でのバイトよりマシって…」

「そりゃそうだろ」


病院でのバイトはいわくつきだ。おそらくナイトハルトが言っているのは、そういう意味だろう。


「でも…」

と、言いかけて、結局アナベルは口を噤んだ。それから

「まあ、確かに一応、ベビーシッター…じゃなくて、チャイルドサポートの講習はこっちでも受けたから、資格は持ってるっていえば、持ってるけど」

と、先を促す。


「まあでも、お前春休みにいなかったから、結局バイト代はウォルターの懐に収まったって次第だ」

「…なんの話だよ…」


「で、問題は三学期からなんだが、お前、平日の放課後、こいつの面倒みてくれないか?バイト代ははずむから」

と、ナイトハルトは本題を口にする。アナベルは、

「そりゃ、そういう事情なんだったら、別にいいけど…」

と、言いながらウォルターの方に視線を向ける。が、アナベルの視線に気がつかないのか、はたまた、自分が空腹であることに気がついたのか、ウォルターはひたすら食べている。


ナイトハルトはアナベルの視線に気がついて

「無論、ウォルターの家でのバイトを優先させてくれていい。こいつを迎えにいって、時間までここで働いて、それからアルベルトの家に連れて行ってくれれば…」

「って、私、自転車だぞ?ここからアルベルトの家って…」

「ああ、ミラルダも母親と二人暮しだった頃は、移動手段は自転車ばっかりだったそうだ。だからその点は心配ない」


アナベルがなんと返事をしていいのか躊躇っているとナイトハルトは

「昨日、俺の車にも乗せられる折りたたみ式の自転車も購入した。別に大丈夫だ」

「それは…」


「お前にミラルダを迎えに行ってもらって、後はずっとこいつの家においておくっていうのも、考えないでもなかったんだが、まあ、人畜無害の極みだとは分かってはいるんだが、こいつも一応は未成年の男子学生だしな、何か間違いがあってもお互い困るし…」

と、ナイトハルトが笑いながら言うので、アナベルは益々返答に困ってしまった。


人畜無害の極み扱いをされている、一応は未成年の男子学生は、何も聞こえてないかのように、やはりひたすら食べている。


アナベルはあんまりな台詞に

「おい、お前、あんな風に言われてるけど…」

と、つい声をかけてしまう。ウォルターは顔を上げると

「まあ、実際にその通りだし。鬼畜扱いされるよりはマシじゃないかな?」

と、平然と応じた。なんだかよくわからない理屈だ。


「まあ、お前が引き受けなければ、バイト代がこいつの懐に入り続けるだけだが、俺としてもウォルターにお金を払うよりはお前に払う方が、なんというか、気分はいいな」

「…どうしてそうなるんだよ…」

「そりゃ…」


「僕が無駄に恵まれているからだろう」

と、ウォルターはため息混じりながらそう応じた。ナイトハルトは悪びれずに

「まあ、そういうことだ」

と、にっこりした。なんとなく話がまとまりそうな雰囲気だったので、アナベルは遠慮がちに

「これって、アルベルトも承知してるんだよね?」

と、確認をとってみる。ナイトハルトは

「勿論だ」

と、頷いた。アナベルは続けて

「私は別に構わないけど、ミラルダは…いいの?」


今少し見た感じでも、ミラルダはウォルターと随分打ち解けている様子だった。わざわざあちこちに引き回さなくても、ウォルターの家にいた方が楽なのではないだろうか?


アナベルはナイトハルトが何か口を挟む前にミラルダの方に顔を向けて

「ミラルダ、パパが勝手に決めてるんじゃない?」

と、確認をとった。ミラルダも熱心にアナベルが作った料理を食べていたが、アナベルの言葉に顔を上げ

「ううん、別にいい。他の人がおうちに来るより、自分が行った方がいい」

と、生真面目な表情で頷いた。それから「自転車にも慣れてるし」と、付け加えた。


アナベルは尚も逡巡して

「でも、アルベルトの家は…」

と、言いよどむ。ナイトハルトもアナベルの言葉に不快気にため息をついた。


「まあ…そうだ。けど、大丈夫だろう」

と、何の根拠も無い自信を見せる。アナベルは

「アルベルトはいいとして、お前、そもそもリパウルには説明してるのか?」

と、胡散臭そうな表情になった。アナベルの言葉にミラルダが顔を上げる。


「そのリパウルって人、ナイトハルトとアルベルトが電話で話してた時にも名前がでてたけど、ひょっとしてママが言ってたアルベルトの恋人って人?」

と、首を傾げる。ミラルダの言葉に、アナベルではなく、ナイトハルトが反応をみせた。


「エレーンが?なんて?」

その言葉にアナベルとウォルターは、それぞれで『エレーンっていう、名前の人だったのか…』と、心の中で呟いた。


すると、父の言葉にミラルダは妙な表情になって

「別に…。アルベルトには恋人がいるのよって…それだけだけど?」

と、やけに取り澄ました口調になって父の疑問に答えた。ナイトハルトも妙な表情になったが、それ以上は追求しなかった。


アナベルは

「リパウルは、アルベルトの恋人で、ナイトハルトの幼馴染だよ」

と、簡潔に説明した。アナベルの説明にミラルダはまた、奇妙なほど生真面目な表情になって頷く。アナベルは続けて

「ミラルダはアルベルトのこと知ってるんだ」

と、尋ねてみた。


ミラルダはアナベルの言葉に頷くと

「最初に来てくれたの、アルベルトだった…」

と、はにかんだ表情で教えてくれた。見るとナイトハルトが面白くなさそうな顔になっていたので、アナベルはなんとなく面白くなってしまった。が、面白がっている場合でもない。


今は地下には誰もいないが、技研と特別病棟での健診が終われば、ルーディアが戻ってくるのだ。リパウルの…、技研の許可も無く、自由に人を出入りさせても、いいのだろうか?


が、一方であの家の家主はアルベルトなのだ。その家主が了解していることを、技研の都合でどうこう出来るものなのだろうか?アナベルは嘆息した。別に自分が気にかけなければならないようなことではないはずだったが、ここのところ、図らずもルーディアと技研に深く関りすぎている。そのせいで、微妙に気にかかった。


「…つまり、話を戻すと、お前結局、リパウルには…」

「ああ、あいつのことはアルベルトに一任してるんだ」

と、ナイトハルトは言いながら宙を見上げた。


「お前、自分がリパウルに説明するのが面倒だって…、アルベルトに押し付けてるだけじゃないだろうな?」

と、ナイトハルトは、当人に言われた言葉と似た台詞を、下宿生にまで言われてしまった。


 昼食の片づけまで終えて、とりあえずナイトハルトの車に便乗させてもらってアルベルトの家に戻ることになった。アナベルは夕食の作り置きまでしておきたいような気分だったのだが、流石にそこまでナイトハルト親子を待たせるわけにもいかない。


玄関まで見送りに出てくれたウォルターに向かって

「お前、夕食はきちんと…」

「わかってる」


なんだか母親みたいだ。よく知らないけど。と、ウォルターはアナベルの口うるささに嘆息してしまう。が、アナベルは

「…お昼食べたから、今日はいいか、とか、考えてないだろうな?」

と、しつこく疑わしげな眼差しを向ける。


ウォルターは内心そう考えていたので、咄嗟に顔をそむけてしまう。まだまだ未熟だった。


「お前は…」

「わかった、適当にでもちゃんと食べるから…」

「そんなだから、スタミナが…」


尚もいい募るアナベルの背後から、ナイトハルトが呆れたように

「そんなにこいつのことが気になるんだったら、夕方またここに来るか?送ってやってもいいぞ」

と、声を上げた。アナベルは、ナイトハルトの妙な言い方に頭に血が上ってしまう。


「違!気になるとかって、そういうんじゃなくて…」

「…やっぱりガールフレンドなの?」

「素直になれない年頃なんだ」

と、アナベルの返事を無視して父娘は、ありもしない事実を積み上げ始めた。アナベルは慌てふためいて

「お前がちゃんと食べないからっ!!」

と、ウォルターに八つ当たりを始めてしまう。


ウォルターはため息をつくと

「間違いなく食べるから、とにかく明日また来てくれれば…」

と、事態の沈静化をはかった。アナベルも少し落ち着いて

「うん、ミラルダと一緒に来ることになるんだな」

「なんなら早い時間でもいいよ」

「わかった。連絡を入れるから」

「うん…」

と、頷くとウォルターは珍しく少しだけ微笑んだ。アナベルはバツの悪さに顔が赤くなってしまう。


「その、八つ当たりして…」

「うん、今日はありがとう。助かった」

昼食のことだろうか?アナベルは少しだけ首を傾げて

「こっちこそ、古典の課題、おかげで何とかもう少し埋められそうだ」

と、笑みを浮かべると、お礼を言った。


なんとなく、いつまでもここで話をし続けたいような気になってきて、ウォルターはふっと、息をつく。それから

「ザナー先生とミラルダが待ってるよ」

と、静かに告げた。

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