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Color of Thieves  作者:
シルギィの洞窟
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シルギィの洞窟

「着いたぞ」

 ガルムの一言にやっとのことで馬から降りるが、結局ふらついてしまいブチが支えてくれた。

「すまない……」

「怪我人じゃ仕方ねえ、気にすんな」

「このまま肩を貸してくれると助かる」

 ブチに頼んだのだが、目の前でダグがしゃがんで言う。

「肩より背中貸してやる、黙って背負われていろ」

「あ、ああ」

 情けないことだが、今はそうも言っていられない状態だった。大人しく言われた通りにダグに背負ってもらうことにする。

 背負われながらガルムに疑問をぶつけた。

「着いた、と言われても……アジトと呼べるものなんて、何処にも見当たらないが?」

 見渡す限り荒野で、目立つものと言えば人の手が加えられたと思わしき祭壇のような形をした岩がぽつんと佇んでいるだけ。見方によっては墓のようにも見える。

「まさか、この墓標に皆が眠っている、とか言うんじゃないだろうな? 祭壇にも見えるが……」

「いや、祭壇で合ってる。まあ、この下で眠ってるってのは間違っちゃいないがな」

 にやり、と笑いながら言われるがこちらは笑い事ではない。

「まさか、結局は俺達を殺して埋めるなんて言わないだろうな……」

「兄様! ですから、恩人を疑うのは失礼だと申し上げたではありませんか」

 リリシアに怒られてしまうが、これは深刻な事態ではないのか?

「あー……悪い、今のは俺の言い方が誤解を招いたな。まあ見てろよ、仲間以外は知らない取って置きだぜ?」

 言いながらガルムが神殿等であれば聖典でも置いていそうな平たい部分に掌を乗せて言葉を発した。

『アウルムルアム、大地を愛し、大地を尊び、我はここへ辿り着いた。大地を受け入れる代わりに、我を受け入れたもう』

 その言葉は普通の声で発せられたものではなかった。声は二重にぶれたかのように聞こえ、大気が振動しているようなびりびりとした感触を肌に感じる。

 そして、その言葉に応じるように祭壇の周りの地面から草色の光が溢れ出してきた。

「これは……」

「綺麗な光ですね」

 驚いているだけの俺と違い、リリシアは驚いてはいるようだが、何の警戒もせずに地面から漏れ出す緑の光に何度も手を(かざ)してみている。

「お、おい、そんな得体の知れないものに触れようとするなっ」

 俺の心配を他所にリリシアは頬を膨らませるが、それでも光に触れようとするのは止めてくれた。

「兄様は臆病すぎます」

 少しいじけてしまったようだが、得体の知れないものに触って妹が病にでもなりはしないか心配なのだから仕方ない。

 背負われているから言葉で止めることしか出来ないのだが、リリシアが素直な子で本当に良かった。というか、素直ではあるが彼女は逆に怖いもの知らずなところがあると思うので俺としては心配なのだ。一体、誰に似たのだか。

 そんなやり取りをしていると、なんと地響きと共に祭壇の後方の地面がせり上がってゆく。

「嘘だろう……」

 それはやがて見上げる程の巨大な洞窟の入口として俺達の眼前に姿を現し、地響きと溢れる光も収まっていた。何もなかったはずの荒野に、今や嫌でも目立つ程の洞窟が姿を晒している。

「どうだ、驚いたろ?」

 言われた言葉の通りに驚いていて、ガルムの言葉に呆気に取られたまま頷くしか出来ない。俺と同じ心境だろうと思いリリシアを見てみれば、彼女は俺とは違い驚くだけに留まらずその表情に喜色をありありと浮かべていた。本当に恐れ知らずだな。

「ま、俺達の盗賊団はこの洞窟で暮らしてるって訳だ。中に入れば勝手に地中に戻るから、ここならお前達も追手に見つかるこたぁ()え」

 ブチが笑いながらダグに背負われている俺の肩を叩いて言う。

「確かに……これは捕まりっこないな」

「それにしても……」

 感心しきりだった俺と違って、リリシアは何か気になることがあったらしくガルムを見ながら疑問を口に出す。

「このような大掛かりな仕掛けも動かせるというのに、ガルム様が頭目ではないのですね」

「様とか止めてくれよ、むず痒い……俺はこいつ等と同じ下っ端だ。ボスはこの神殿の主だし、俺と同じように入口も開けるぞ」

「人相も野党然としていますのに……」

「悪かったな、悪人面で」

 余りにも堂々とした失礼極まりないリリシアの発言にガルムが憮然として答え、他の三人は思い切り笑っていた。リリシアにはこういうところがあるから本当に心配なんだ。彼等が優しい野党でなければ殺されていても文句は言えない。

「お、俺は嫌いじゃないぞ?」

 リリシアの直球過ぎる暴投に俺のフォローもこんなことぐらいしか言えなかった。

「ありがとよ」

 ガルムがふっと軽く鼻で笑って肩を竦めて言うと、ぞろぞろと皆が洞窟の中に歩み出す。

 そして全員が入ると再び地響きと共に洞窟の入口から入ってきていた光が消えた。背後を見てみても外はもう見えない。それでも洞窟の中はエメラルドグリーンの光に照らされて明るいままだった。

 背負われて通路を進みながら辺りを見回していると、壁の所々にこの光を発しているらしき鉱石が埋まっていることに気付く。

「この発光している鉱石は? 国では見たことがない」

「ああ、これか? あんまり出回るモンでもねえな、一応は希少なんだが……まあ、見ての通りここには腐る程ある。この洞窟内にある分だけで国一つぐらい買えるだろうな」

「まあ。盗賊と名乗っていましたけれど、それだけのお金があるのならば盗みなんてする必要はないのでは?」

 俺の代わりにリリシアが疑問をぶつける。それは俺も気になるところだ。

「そうだな、それだけあれば遊んで暮らせる。何も隠れ住む必要はないだろう?」

 便乗して聞いてみるが、俺の言葉に四人は渋い顔をして歩みを止めてしまった。

「このまま頭に会いに行くと、まずいな」

「……だよな」

 四人が頷き合うと俺は通路の隅に降ろされ壁に背を預けさせられる。

「えっと……すまない、気に障る発言だったのなら謝る」

 素直に頭を下げたのだが、それにはガルムがそうではないと(かぶり)を振った。

「いいか? やっぱりお前達が王族だってのは本当みたいだ、今ので確信した。その世間知らずな状態のままアイツに会ったら殺され兼ねん」

「……申し訳ありません」

 ガルムの言葉に流石のリリシアも、しゅんとしてしまった。だが言われても俺達には何が悪かったのか分からないのだ。申し訳なさと、理由を知りたいと思う気持ちが()い交ぜになってしまう。

「そうだな、何から教えてやるか……取り敢えず軽い話と重い話、どっちからがいい?」

「軽い話で」

 その軽い話を聞いている間に心の準備をしておこう。下手をすると殺されるかも知れないとまで言われているのだから、重要な話なのだろう。それを先に聞いて後で軽い話を聞き気持ちが軽くなってしまってはいけない。

「じゃあ軽いのな。壁に埋まってる鉱石は妖精の石って代物だ。死んだ妖精が土に還ると、この発光する石になる。原理なんて知らねえけどな」

 妖精なんて本当にいるのか、とも思ったが……いや、恐らくいるのだろう。こんな不思議な洞窟があるぐらいなのだから。

「まあ、妖精ですって、兄様。素敵ですね」

「素敵って……要するに、死骸だぞ?」

 それって素敵か?

「……兄様には夢がなさすぎますね」

 膨れられてしまった。

「これで軽い話は終わりだ」

「早いな……」

 本当に軽い話だったようだ、直ぐに終わってしまった。

「それじゃ俺の話からにしとくか。一番軽いだろ?」

 ブチがそう言ってから順に聞かされた彼等の話、境遇は、確かに俺達兄妹が余りにも世間知らずだと思い知らされるには十分な内容だった。俺も、リリシアも、二の句が継げない事実だったし、自分達がどれだけ甘やかされて守られた環境にいたかも知ることになる。

 謀反が起きて何もかも失う?

 そんなものは、この世界ではありきたりな話なんだと知った。

「……じゃあ、頭に会いに行くぞ。さっきみたいな発言は控えろよ」

「はい……」

「分かった、余計なことは言わない」

 リリシアと共に頷くことしか出来ない。俺達はきっと打ちのめされたかのような表情で通路を歩いただろう。いや、実際は背負われていたので俺は歩いていないのだが。少なくともリリシアが珍しく沈んだ表情をしていたのは見て取れた。

 ……父と母が死んだ事実にも、ここまで嘆く様子も落ち込む様子もなかったのに、だ。

 彼女は強い、きっと俺よりも。冷静に状況を判断していたのはリリシアだし、そのリリシアの明るい態度に俺も引っ張られていたのだから。

「おーい、シルギィ」

 一度広間を通って一番奥の部屋まで辿り着き、ガルムが頭だと言うのに呼び捨てで声を掛けながら部屋に無断で入るので、驚いて思考が引き戻される。

 因みに広間では物珍しそうにじろじろ見られまくった。

「んー……?」

 一番奥の部屋は、祭壇があったことからも想像出来るように、正に神殿のような内装だった。他は洞窟と呼べる無骨な通路だったが、広間を含め部屋数はかなりあったようだし、広さも王城と変わらない程に広い。この部屋にしたって、祈りを捧げるに相応しい部屋だ。

 五段ほどの低く長い階段が部屋の中心に佇む透き通る綺麗な円形の泉に伸び、その泉が五つの純白の柱に囲まれていた。まるで(みそぎ)をする場所のような神聖さだった。

 その階段の途中に白髪に肩から布を掛けているだけのような薄着の男性が座っており、ガルムの問いかけに項垂れたまま顔を上げることなく答える。

「新人にどうかと思う奴を連れてきたんだが……ちと事情があってな。死にそうなところを助けてやったから、出来れば話を聞いても殺したりしないでくれるとありがてえんだが」

 ガルムの続く言葉に、シルギィと呼ばれた頭目が顔を上げて俺の目を射貫く様な真っ直ぐさで見てきた。

「――――っ」

 余りの真っ直ぐな視線に気圧されたのもあるが、その顔にも驚くことになる。

 盗賊の頭目、きっと年功序列も多少はあると思ったのだが……。

「よう、俺はシルギィ。お前等は――どんな目に遭った?」

 自信に満ちた笑みを浮かべて告げる彼は……俺やリリシアと、さほど変わらない若さだった。

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