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Color of Thieves  作者:
シルギィの洞窟
4/51

生き残れる可能性

 目が覚めると一頭の馬の背にうつ伏せに寝かされている状態だった。

 背中に傷があるのでこの状態なのだろう。一頭を一人で使ってしまって申し訳ない所だが、周りを見ていると全部で三頭いた。俺達の乗っていた馬も連れてきたようだ。

「気付かれましたか、兄様」

 寝ながら馬に揺られたまま周りを見呆けていた俺に、大柄な男の馬の後ろに乗せられていたリリシアが真っ先に気付いて声を掛けてくれた。

「ああ、それで……」

「俺達のアジトに向かってる所だ」

 疑問を口にしようとした俺に、リリシアではなく大柄な男が答えてくれる。

 何故そんなことになっている? 盗賊になれ、と言われはしたが俺は気を失ったせいで未だ答えてはいないし、このまま黙って素直に付いて行って無事に済むかどうかは疑問だ。

 俺はまだいい、男だから労働力にさせられるとか奴隷にされるとかだろう。だが女性のリリシアはそうはいかない、いくら世間知らずでもそれぐらいは判断できる。

 ここは断った方がいい。

「いや、でも俺達は――」

 そう思い口を開いたのだが、それは意外にもリリシアに遮られることになる。

「恩人を疑うのは控えた方がよろしいかと、兄様」

「う……」

 そう言われると言い返し難い。実際に彼等に助けられなければ俺もリリシアも死んでいただろう。恩は恩でも、命を助けられるという最大級の恩を受けている。そんな彼等を疑ったりするのは確かに、非常に失礼な話だろう。

「はっは、嬢ちゃんの方が肝が据わってらあな」

 革鎧を着た男が笑いながら言うと、禿頭の男が続けて声を出した。

「しっかし、兄妹だったとはな。あんまりにも大事に抱えてたモンで、嬢ちゃんから話を聞くまでは恋人だか愛人だかだと思ったぜ」

 その言葉に少し憮然としてしまった。愛人って……俺はそんな遊んでいるように見えるのだろうか。

「……妹だって大事な女だ」

「違いねえ。あんまからかってやるなよ、ダグ」

 大柄な男が禿頭の男をたしなめながらダグと呼んだ。それでリリシアが気付いたように言う。

「そう言えば助けて頂いたというのに名乗りもしていませんでしたね、大変な失礼を致しました。私はリリシア=L=イマァスと申します。あちらは兄のエディシアルです」

「……ホント、肝が据わってんぜ」

 リリシアの堂々とした、俺も含めての名乗りに大柄な男が少し驚いたような表情で言う。

「兄貴を診てる間、嬢ちゃんから何も言われなかったからこっちから言うんだが……俺達は野党だぜ? 確かに助けはしたけどよ、この後どうなるか考えねえのかい?」

「……申し訳ない。助けられておいて非常に失礼だとは思うのだが、自分もその意見には賛成だ」

「……兄貴の方も兄貴の方で度胸あんな。失礼だと思ってるなら、それを言っちまっちゃ殺されちまうとか思わねえもんかね?」

 今度はダグと呼ばれた禿頭の男が呆れたように言うが、これに対しても俺は特に相手を持ち上げたり機嫌を取る気にはなれなかった。

「どちらにしろ、この状況では逃げることも出来ない。正直なところ、妹さえ見逃してくれるのなら自分はどうなってもいい、という心境だ」

 だが、俺のその意見には彼等ではなくリリシアが核心を突いて俺を黙らせる。

「状況が状況なので流石に兄様も混乱しているようですが……普段通り冷静によく考えて下さい。私達は着の身着のまま逃げてしまい食料も水もありませんし、唯一売れそうな服は彼等と交換する約束をしてしまいました。しかも、ここは荒野の直中。ここで二人だけ放り出されましても……」

 困ったように言われて、ようやく気付けた。

 どうやら俺は本当に冷静さを失っていたらしい。それが状況によるものなのか怪我によるものなのかは分からないが、どちらにしろ正しい判断とは言えない考え方をしていたようだ。

 このような所で放り出されても野垂れ死ぬ可能性の方が非常に高い。

 しかし、リリシアは俺と違ってこのような状況でも常に冷静だった。これではどちらが上の者なのか分からない。少し自分が情けなくなるというものだ。

「そう、だな……」

 俺が軽く落ち込んでいると、リリシアは続けて大柄な男の質問に答える。

「それと貴方方が野党だというのに、その後を考えないかという問いに対してですが……こちらは、考えても仕方がない、と思うのが本音です」

「ほう?」

「私は非力な女ですし、唯一守って下さる兄様は瀕死、逃げ出せる道理もありません」

 リリシアの答えに対して大柄な男が俺を見たので、自分が瀕死なのは間違いないという思いで軽く頷いて見せた。

「それに、しようと思えば兄様を見捨てて私だけを連れ去ることも簡単に出来たはず。それをしないということは、貴方方が少なくとも優しい方だということだと信じたいですから」

「へえ、信じるじゃなく、信じたい、か――完全に信用しないのは良いことだぜ」

 革鎧の男が笑いながら言う。信用し切れないと言われたも同じだと言うのに、その態度はやけに明るい。

「まあ、いい。全くの世間知らずって訳じゃなさそうだし、疑うとこはちゃんと疑ってるみたいだしな。俺はガルム、ただのガルムだ。盗賊になった野郎に家名なんざ必要ねえからな」

 大柄な男がガルムと名乗り、次に禿頭の男が自分も含め他の連中の名も伝えてくれる。

「俺はダグで、この太いのがブチ。で、そっちの鎧着込んでる奴がビビリのビビだ」

 その言い方に少し疑問になったので聞いてみた。

「ビビリのビビ? 偽名なのか?」

 その疑問にはガルムが答えてくれる。

「んー……偽名っつーか、新しい名前かね? どうせ野党になった時点でお尋ね者になってる奴だったり、家に戻れない奴だったり、全部失った奴だったり……昔の名前なんて邪魔なだけって奴も居るからな」

「……そうか、失礼なことを聞いた」

「気にすんなよ。俺だってビビリだって言われ続けてるけど、もう気にしてねえしな」

 失礼な名付けられ方なのに、本人が気にしていないと朗らかに笑う。

「で、だ。一応、安心させてやりたいんだが……俺達も大勢いる団と呼べる規模の盗賊だからな、助けたとは言え最終的な判断は(かしら)に任せることになっちまう」

 ガルムが頬を掻きながら言うので、俺は諦め半分の吹っ切れた気持ち半分で伝えた。

「せめてリリシアの処遇だけは何とか頼んでもらえないだろうか?」

「ん? ああ……まあ、それは頼んでやる。と言っても俺達のいる団も結構特殊でな、無駄な殺しはしねえし、殺すなら出来るだけ王族、貴族、だけと決めてる。それに、女を無理やり襲うような奴はあんま居ねえな」

 女性を無理やり襲う奴が少ないと言うのなら、少しは安心はできるのだが……今、聞き捨てならない台詞が聞こえたぞ?

「もう隠せないだろうし正直に言うが、俺達は思い切り王族なんだが……」

 これはもう、殺されるのが確定したのではないか?

「事情は話してやる。どっちにしろ、嬢ちゃんに聞いた謀反ってのが本当に成功したんなら帰る場所も立場も、もうねえんだろう? それにさっき嬢ちゃんが言った通り、こんな所に置いてったらどっちにしろ死んじまうぜ」

「怪我も見たとこ、結構深かったからな。お前が今必要なのは休める拠点だ」

「それもそうなんだが……」

 どうにも俺は納得し切れないのだが、リリシアはそうでもなかったようだ。

「良いではありませんか、兄様。反旗を翻した臣下に殺されるも野党に殺されるも、屈辱的には似たようなもの。可能性が少しでもある方に賭けましょう」

「お前は……」

 本当に兄以上に度胸があるな。情けなくなるよ。

「どうしました?」

「……いいや、自慢の妹だなと思ったのさ」

「あら、兄様も私の自慢ですよ」

 笑いながら返すリリシア。本当に頼もしい限りだ。

 そして、どうせ付いて行くのなら信用し切ってしまった方が気が楽だと気持ちを切り替える事にして、俺はガルムに素直に質問をぶつけることにした。

「それで、アジトに行くのはいいのだが……こんな荒野の直中に盗賊が隠れ住むような場所なんてあるのか? 話じゃ結構な大所帯みたいじゃないか」

 その疑問にビビが自慢気に答えてくれた。

「こりゃ俺等の自慢だが、中々凄いぞ。まあ、楽しみにしておきな」

 自慢気ではなく自慢そのものだったようだ。しかし、盗賊の(ねぐら)なんて自慢になるのだろうか? 金がないから人から盗む盗賊なのであって、寝床だって粗末なものである気がするのだが……。

 だが、今はそんなことよりも頼みたいことがあった。

「そのアジトに着くのは、どれぐらいになるんだ?」

「そうだな……お前、恐らく自分で思ってるよりも怪我が酷いんだよ。だから速度を出して馬を走らせるのも、ちょっとまずい。そろそろ夕刻だから、このままいくと……深夜か?」

 ガルムの言葉に俺はそれなら、と提案することにする。

「すまない、面倒を見てもらって勝手な言い分だとは思うのだが……今日はこの辺りで一晩野営してもらえないだろうか?」

「ん? それは別に、俺等も急ぐ訳じゃねえからいいんだが……お前達はそれでいいのか? 追手が掛かってるんだから、少しでも早く隠れちまった方が良くねえか?」

 なるほど、確かにリリシアの言う通り彼等は優しいようだ。今の言葉で確信に近付いた。

「ああ、追手は殆ど振り切っていて俺達の居場所を知っているのは、殺された三人だけだったんだ。だから暫くは捜索に時間が掛かるだろうし、問題ないと思う」

「それなら止まってもいいが……どうしたんだ?」

 俺は最後の力で笑顔を浮かべて何とか伝える。

「どうやら、言われた通り、非常に怪我がまずいらしい……馬に揺られているだけで傷がまた開いたようで、そろそろ、限界……」

 そのまま俺は再び馬からずり落ちて気を失うことになった――。

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