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ひつじ女房

作者: 入峰いと

 むかしむかし、山奥のあばら家に樵の男が暮らしておった。樵というても、大きな木を切るわけではない。山の上のお寺さんに仕えて、お寺の土地の木が混みすぎてきたらすかしたり、路に枝が張り出して来たら払ったりして、お坊さんたちの薪を作るのが仕事やった。


 父親も母親も死んで、樵は独りきり、山の向こうの港には、異国船が来るようになって、大層にぎやかになっとうことも知らんと、寂しく暮らしておった。嫁が欲しゅうとも、貧乏で嫁の来手も見つからない。


 ところがある日、樵は山の中で、足をくじいて難渋している娘に出会った。樵が自分の家まで負うて帰って、手当をしてやると、娘は、行くところがないので置いてくれと言うた。樵は

「それなら俺の嫁になってくれんか」

と頼み込んだ。娘は、決して<なぜ>と尋ねないのなら、嫁になってもよいと答えた。そこで樵は娘と約束し、夫婦になった。


 美しい嫁と暮らすのは楽しくて、直に嫁の腹が大きくなった。ところが月が満ちて生まれた赤子は黄色い目をして、白い毛が生えておった。樵は驚きのあまり嫁との約束を忘れてしもて、

「お前、なんでこないな子がでけた」

と尋ねた。


 嫁は笑って、自分は港の異人に飼われていた羊だが、人間に化けて逃げてきたのだと答えた。そして赤子を抱き上げて、約束を破られたからもうここにはいられないと告げると、そのまま茂みの中へへ駈け込んで行ってしまった。


 樵はそれきり、二度と嫁にも赤子にも会うことがなかったとさ。


 今では山道にも自動車が走るようになったが、よう気をつけなならん。道の横の茂みから突然羊の群れが出てきて、車にぶつかることがあるそうや。おしまい。

150年ばかり前、どこかであったことのような気がします。

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