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先生とわたし

先生の話

作者: 生徒

「言葉はね、心ですよ」


 先生はいつもこう言う。


「最近の人はね、言葉は道具だって言うんです。つまり、誰かになにかを伝えるための手段なんだ、とね。もちろん、言葉にはそういう役割もある。例えば、母語ではない新しい言葉を勉強するのは、それを使ってより多くの人とお話しするためでしょう。このような言葉は道具といってさしつかえありませんね。でも、母語にはそれ以外の役割がある」


 先生は少し考えて、続けた。


「母語はその人の心をうつす鏡なんです。わたしたちはみな同じ日本語をしゃべっているように思えますが、実はかなりバラバラです。例えば、英語でのいわゆる"I love you"を言いたいとき。あなたが好きです、という人もいれば、君を愛しているよ、という人もいるし、月がきれいですね、という人さえいる。その人がどんな言葉で表現するのか、そこにその人の心が現れるんです」


 先生は目をあおがせて、次の言葉を探す。


「だから、詩や俳句はとてもおもしろい。物語やエッセイも、普段のなにげない会話でさえも。その人が発する言葉によって、その人の心の奥底がちらりと見えることがある。そんなとき、その人のことが少しだけ理解できたように思うんですね」


 先生は少しだけ、楽しそうな顔をした。


「つまり、わたしが言いたいのは、言葉をいいかげんに扱わないでほしい、ということです。どんなにめちゃくちゃな文章だとしても、真剣になって書いた文章なら、それがその人の心なんだから否定してはいけない。自分が文章を書くときも、自分の心に耳を傾けながら真剣に言葉を選ばなければならない。君はよく読んだり書いたりしているが、それを忘れてはいけませんよ」


 先生はそう言って、ふと思い出したように、部屋を出ていった。

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