おじいちゃん
日曜日の夕方。
両親は買物、ボクは家で留守番をしていた。
「だれか、おらんのかあー」
台所から、おじいちゃんの声がした。
おじいちゃんに取り合うとロクなことがない。ボクは返事をしなかった。
「昼めし、まだかあー」
おじいちゃんが叫ぶ。
――昼ごはんだなんて、もうとっくに夕方なのに。
まいどのことながらイヤになってしまう。ボクだけじゃない、お父さんだって……。
「おやじのヤツ。いいかげん、おとなしくなってくれりゃいいのに」
そう言って、いつもグチをこぼしているのだ。
おじいちゃんが奥の部屋から出てくるのは、たいてい今日のように両親が留守のとき。かってに出てくると、お父さんにうるさがられるからだ。
かわいそうだとは思ったが、ボクはおじいちゃんを無視し続けた。
「食うもんがねえぞー」
おじいちゃんがいっそう大きな声で叫ぶ。
よほどおなかがすいているようだ。
ボクはしかたなく台所に行った。
「ねえ、おじいちゃん。ラーメン作るからさあ。だから食べたら、おとなしくもどってよ」
「ああ、わかってるさ」
おじいちゃんが子供のような笑顔を見せる。
「これ食べたら、すぐにもどってね」
インスタントラーメンをこしらえながら、おばあちゃんのところに早く帰るよう念押しをした。
「ばあさんは口うるさいからな」
「あたりまえだよ。おじいちゃんときたら、昼も夜もないんだから」
文句を言っていると、玄関のドアの開く音がして両親が帰ってきた。
とたんに――。
おじいちゃんはラーメンに手もつけず、そそくさと奥の部屋に逃げこんでしまった。
「もうじき夕ごはんだっていうのに」
できあがったラーメンを見て、お母さんがあきれた顔をボクに向ける。
「ちがうよ。おじいちゃんがね、なんか食べさせろってうるさいんだ。だから……」
「そうだったの。あなた、またおじいちゃんが出てきたみたい」
「なんだ。おやじのヤツ、今日も出てきたのか」
お父さんは顔をしかめた。
「いくらすぐに出てこれるからって、こうちょくちょくじゃねえ」
お母さんはいいかげんあきれている。
「ちょっとかわいそうだが、しばらくメールだけにしておくか」
お父さんは奥の部屋に行き、それから仏壇型パソコンの前に座った。
「なあ、おやじ。盆前にはまたつなぐからさ。それまでしんぼうしてくれよな」
マウスをクリックする。
霊界ネットワークシステムのフリーワープソフトが閉じられた。