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未来家族  作者: keikato
3/5

お母さん

夕ごはんのときだった。

「市役所に申しこんでおいたアレだけど、いよいよ明日の夕方、うちにやってくるんだ。ほら父さん、明日は会社だろ。だからかわりに、オマエがちゃんと出迎えるんだぞ」

 お父さんがうれしそうに言う。

「そうなの……」

 ボクは気乗りのしない返事をした。

 新しいお母さんがやってくるといっても素直に喜べるはずがない。ボクの心の中には、今でも死んだお母さんがいるのだから。

 そんな気持ちをさっしてか……。

「気にいらないときは返すこともできるんだ。とりあえず会ってみたらいいさ」

 お父さんはボクに気をつかってくれた。

 次の日の夕方。

 ボクは玄関で、新しいお母さんを出迎えた。

 それは市役所が貸し出している父子家庭向けの母親ロボット。お試し期間の一カ月は無料らしい。

 見かけはまるで人間だ。それにスマートできれいときている。

 これが本物の人間なら、お父さん、とび上がって喜ぶだろう。

「こんにちわ。よろしくね」

 母親ロボットが笑顔で右手をさし出す。

 その手は冷たかった。

 ロボットは体温というものがないのだ。そして涙が流せない。

 この日から三人家族になった。

 母親ロボットの性能はすばらしく、どことなく甘いにおいまでもする。ロボットであることを、つい忘れてしまうほどだった。

「どうだ、新しいお母さんは?」

「うん、とってもやさしいよ。お母さんにはかなわないけどね」

「そいつはよかった。けどな、死んだお母さんと比べられたら、ロボットもたまらんのじゃないかな」

「でもね、お母さんがいたころに、なんだかもどったみたいだよ」

 いつしかボクは、新しいお母さんのことをとても好きになっていた。


 お試し期間が終わって、母親ロボットとの別れの日がやってくる。

「どうだ、延長してみないか?」

 母親ロボットを見やりながら、お父さんがボクに聞いてきた。

「お金がかかるんでしょ」

 ボクは延長を断った。

 本当は……ほんとはこれ以上いっしょにいたら、別れがいっそうつらくなると思ったのだ。

 そのときである。

 母親ロボットのほほに、なぜかひと筋の涙が伝って落ちた。

「えっ! どうして?」

 ロボットは涙を流せない。ということは本物の人間なのだ。

「だまして、すまなかったな。父さん、この人と結婚しようと思ってるんだ。でも、オマエの気持ちを思うと、なかなか言い出せなくて」

 お父さんが耳をまっ赤にしている。

「お父さん、おめでとう」

 ボクはにっこりしてみせた。

「ありがとう」

 新しいお母さんは涙をぬぐい、それから両手でボクの手をつつんだ。

 あたたかな温もりが伝わってくる。


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