表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来家族  作者: keikato
2/5

お父さん

 今日の夕食も七時を過ぎた。でも、遅くまで働くお母さんのことを思うとしかたない。

「お湯、わいたわよー」

 台所からボクを呼ぶ声がする。

――毎日、メンドーだなあ。

 テレビを消して、ボクはしぶしぶ立ち上がった。

 食器棚の引き出しから、インスタントカップを取り出す。どこのスーパーでも売っている、ひとパック五個入り有効時間十分という商品だ。

 ついでにカップチューリップも取り出す。

「インスタントって、なんだか味気ないね」

 それぞれのカップの注入口を開け、それからボクは熱いお湯を用意した。

「そりゃあ、本物のようにはないわよ」

「でも毎日お同じものじゃ、やっぱりあきてくるしさあ」

「それって安いのよ。値段のわりに中身もまあまあだしね。お母さんだって、ほんとはもっと上等なのがいいんだけど、なんたって高いでしょ」

 がんばって働いているお母さんのことを思うと、今日もこれでがまんするしかない。

 カップにお湯を八分目ほど注いでから注入口にふたをした。

 できあがるまで五分ほどかかる。

 テレビの続きを見ようと居間にもどった。

 しばらくすると……。

「ごはんだぞー」

 今度はお父さんの呼ぶ声がする。

 食卓のいつもの席に、いつものようにお父さんが座って待っていた。

「テレビばかり見てないで、勉強もしっかりやるんだぞ」

 お父さんはお湯を吸って咲いたチューリップには目もくれず、これまたいつものようにお決まりの説教を始めた。

「そうよ。これから勉強、もっとむずかしくなるんだからね」

 お母さんもここぞとばかりに言う。

「わかってるよ」

 ボクはうつむいて返事をした。

 それからも……。

「学校じゃあ、友達と仲良くしてるか?」

 いつもと一言も変わらないセリフを、お父さんはいつもの口調でくり返していく。

 その声をテキトーに聞き流しながら、ボクもいつものようにだまって食事を続けた。

 十分ほどたった。

 チューリップの花びらがしぼんだ。そして、お父さんもしゃべらなくなった。

「もう、ダメになったわ。いつもあっという間ね」

 しぼんでゆくお父さんを、お母さんは残念そうに見ている。

 やがてお父さんは、原形まで小さくなりカップの中に消えてしまった。

――こんなの、よく考え出したな。

 ボクはいつもうんざりする。

 夕食が終わり、お母さんが片付けを始めた。

 ボクには最後の役目がある。

 いつものように使用済カップのお湯をすて、いつものように台所のゴミ箱にほうりこんだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ