あたし
居間のソファーで目がさめた。
七時を過ぎているので、ずいぶん長いこと眠っていたことになる。学校から帰ってから三時間以上だ。
ニャーン。
足元で、猫のタマが甘えた声で鳴いた。
タマはロボットだけど、見かけは猫そのもの。高性能の学習機能を備えているので、遊んでやるほど限りなく本物の猫に近づく。
目の前のテーブルに初めて見るペットのカタログ雑誌があった。お母さんがロボットペットショップでもらってきたものなのかも……。
あたしは大好きな猫のページを開いた。
――エサを食べて、ウンチをするのもあるんだ。それに一年も充電が不要だなんて。
それは電気を作るエサを食べ、あとでウンチとして出すそうだ。うちのタマは、週に一度は充電しないと動かなくなる。
「お母さん、ちょっと来て。これってすごいよ」
「あら、目がさめてたの」
台所からお母さんがやってくる。
「ねえー、これほしい。すごくおもしろそう。それに一年も充電がもつってよ」
あたしはカタログにある猫を指さした。
「タマはどうするの。捨てちゃう気?」
「それはダメ。でもね、もしかしたらタマにも、そんなのが取りつけられるかもよ」
「どうかしらね? まあ、お店に聞いてみてもいいけどね」
ロボットペットショップに、お母さんが電話で確かめてくれることになった。
お風呂あがりに台所で牛乳を飲んでいると、居間からお母さんの話し声が聞こえてくる。
「ええ、猫なら別に気を……。そうそう、うちのタマなんだけど……」
声が小さくてよく聞き取れなかったが、さっそくペットショップに確認してくれているようだ。
電話の結果を聞こうと、急いで歯磨きをすませ居間にもどった。
「宿題、まだやってないんでしょ。早いとこ、すませなさいよ」
お湯が冷めないうちにと言い残し、お母さんはそそくさとお風呂に行ってしまった。
電話のそばに、ZY―2100とメモされた紙が残されていた。
記号は商品番号のはず。あたしはさっそくカタログ雑誌を開いた。
猫の記号は、みんなCXから始まりCYと続いている。Xはオス、Yはメスだ。
次のDは犬だった。
ページをめくっていくとZが最後で、それはペットそれぞれの共通部品だった。
――タマの新しい部品かも。
ZY―2100の商品番号を見つけた。
――これって人のものなんだ。
それは人間の子供のものだった。でも、写真からでは何なのかわからない。
あたしは部品の説明書きを読んでみた。
『体内の部品交換だけで、一年間、年齢にあわせて心も体も成長。これによりこれまでのような毎月の体形調整が不要となり、経費と時間の節約が……』
――もしかしたら、これって……。
あたしには思いあたることがあった。
毎月一度だけ。
今日のようにわけもなく、昼間から長い時間、眠ってしまう習慣のあることを……。