ポーカーフェイスと子羊
これまでの登場人物
ほんばし みか
☆本橋 実花
あだ名はポーカーフェイス。
高校2年生。
いそがや
☆磯谷
名は不明。
高校2年生。
ジリジリと照りつける太陽に溶けてしまいそうな今日このごろ。
セミの鳴き声が鬱陶しくてさらに暑く感じる。
早く学校に着いて涼みたい。
自然と僕は早足になった。
ポーカーフェイス改め本橋さんとは今日でちょうど二週間何も無い。
僕は本橋さんが苦手なのだからこれでいいだろう。
むしろ僕にとって好都合じゃないか。
本橋さんを泣かせてしまったし、僕は僕で女の子と触れ合ったことが今までなかったしああいう時どうしたらいいか分からない。
このまま縁を切った方がお互い安心だ。
なのに何故だろう。
こんなに心が落ち着かないのは。
「おーい。起きてよー。えーっと…磯谷くんだっけ?」
完全に夢の中だった僕はその声でこっちの世界へ戻ってきた。
目を開けると目の前に子羊のような瞳で見てくる…女の子…?
「あー!何その目はー?絶対今、男?女?って悩んでたでしょー?」
「あっ…いや…」
「もー。僕はね、男だよ?」
確かに制服は男子のものだ。
ふわふわした明るめのヘアが羊のようだし、瞳がまん丸で生まれたての子羊みたいだ。
それに身長もかなり小さい。
コイツ、本当に男か?
「で、僕に何の用だ?睡眠妨害だぞ。それにお前誰だよ?」
「失礼な!君と僕は同じクラスじゃないか!まあいいよ。僕は山河羊助〔 やまかわ ようすけ〕だよ。」
「名前まで羊ちゃんなのか。」
「ばかにしたねー?もう!怒るよ?…それで用事だけど、僕と友達になってよ」
「は?」
「一目見た時から気になってたんだー。磯谷くんが。」
「ちょっ!どういう意味だよ!」
コイツに狙われてるのか!
もしかして今流行りのBLとかいうやつなのか!
「んー。どういう意味に捉えるかは君次第かなー。まあ、仲良くして!じゃ!」
「…。」
小悪魔な笑みを浮かべ去っていった。
嵐のように去って行ってなにが目的なんだ。
勝手に友達申請してくるな。
僕は人と馴れ合う気はない。
だって深く関わればこの前の本橋さんみたいに傷つけてしまうだろう。
もうそんなことはしたくない。
今までも1人だったわけだし今更友達とかいらない。
それがいくら可愛い子羊ちゃんでも。
終業のチャイムが鳴り、クラスメイト達はぞろぞろと教室から出ていく。
僕には教室に残ってはいけない理由があるのですぐ帰る。
もう関わりを絶つんだ。
教室を出ようとしたその時。
「磯谷くーん!待って!僕と一緒に帰ろ?」
出た。山河羊助だ。
僕の右袖をつまんで子羊のような目で見つめてくる。
コイツ、男を喜ばす方法をわきまえてやがる!
我ながらドキドキしちまったぜ。
でもここはー。
「悪い。僕、ひとりが好きなんだ。ひとりで帰らせてくれ。」
「えぇー。なんで~?僕と一緒に帰ってくれないの…?うぅ…っ。」
「あー!分かった!分かったから泣くな!」
コイツ、男がほっとかない術もわきまえてやがる!
本当にコイツ男か?
男と分かっていながらドキドキしてしまう自分が悔しいです!
「わぁーい♡ありがとう磯谷くん!」
「お…おう。」
天使のような笑みを浮かべ僕の手を握ってくる。
「おいおい。そんなベタベタすんなよ。」
「なんでー?」
僕は山河羊助を全力で振り払う。
しかし以外にも力が強い!
コイツこういうとこだけは男なんだな…。
ガターンっ!
「っ!?」
突然後ろの方で椅子が倒れたような音がした。
そこには本橋さんが立ち上がり、こちらを睨んでいた。
「ちょっとそこのおふたり。ここは神聖なる学校ですよ。いちゃつくのも大概にしてもらえますか。」
「待てよ!コイツが勝手に…!」
本橋さん勘違いしないでください。
僕は無実です。
「ふーん。そんなに磯谷くん取られるのが嫌なんだー。ヤキモチやいてるのかな~?」
「はっ?」
僕の隣にいた山河羊助が何故か本橋さんに敵意を向けた。
「そりゃそうだよねー。好きって言われたのに二週間と何も無いんだもんねー。それにほかの子と慣れ親しんでたら妬いちゃうよねー。僕にも分かるー。」
「なっ…!何を言っているのかしら!やいてなんかないわ!だってあなた男の子じゃない!」
「だったらほっといてよー。僕と本橋くんが仲良さげにしてたって関係ないでしょー?僕、男の子だ・か・ら。」
「本当にムカつく!言いたいことあるなら言いなさいよ!」
まずい!
なんでこんなことに?
バトルを繰り広げるふたりをよそに僕はただどうしたらいいか分からずアタフタするだけだ。
でもどうにかしなきゃ!
「お前らそこまでだ!」
僕は今まで出したことのない大きな声で二人の静寂を取り戻した。
「ゴホン。なんでお前らそんなに言い争ってるんだ?僕、話についていけないんだけど…。」
すると二人してこちらを睨んできた。
こ…怖い…!
「「君のせいだよ!
あなたのせいだし!」」
ふたりは声を揃え、怒鳴った。
「え?意味分かんないんだけど…。」
「でしょうね!」
本橋はそう言い捨てるとすごい勢いで教室を出ていった。
「おい山河。助けてくれよ。」
「君のせいだって言ってるでしょ!僕も怒ってるんだからね!」
山河まで教室から出ていってしまった。
僕へ一体何をしたというんだ。
ただひとつ確かなのは僕はこのふたりと深く関わりすぎた、ということだろう。
ほら、ろくなことにならないんだ。
ため息をひとつつき、僕も教室をあとにした。