ポーカーフェイスとはじめまして
「ねー。ちょっと聞いてんの?おーい。」
「何言っても無駄だよー。だってあのポーカーフェイスだもん。」
「だよねー!ははは!」
ふたりの女子がポーカーフェイスに話しかけたが失敗。
入学してすぐ、友達をつくりたい一心で色々な人に話しかけるやつは多い。
ポーカーフェイスを知らないやつが話しかけ、ガン無視される、そんなのしょっちゅうだった。
入学から1年経った今、無視されるのは分かっていて面白半分でなんの暇つぶしなのか話しかけるやつは多い。
しかし、僕はその度にポーカーフェイスのことを尊敬している。
眉ひとつ動かすことなく読書に勤しんでいるからだ。
何言われようと無視を貫き、無表情なのだ。
僕だったら絶対嫌な顔するだろう。
そこだけは尊敬している。
ただ前もいったとおり苦手なのだ。
今日も授業が終わり、クラスメイト達が帰っていく中、僕も帰り支度をし、教室を出ようとした。
そしてまだ読書に勤しんでいるポーカーフェイスの横を通った時だった。
僕は見てはいけないものを見てしまった。
それはポーカーフェイスの読む本の中身。
18禁ワードで埋め尽くされたページとカギカッコの中は、やたら「あん」的な台詞が‥。
(ええぇーー!?そんなの読んでるんっすか!?しかもここ学校ですよー?)
僕は唖然とした。
まあ、読むのは悪いこととは言わない。
僕は持ってないですけど。
うん。今のも嘘。持ってます。
でもここ学校だし!普通隠して家で読むもんだし!
親に見つかるとまずいからベッドの下とかに‥
「何か用ですか。」
「えっ!?はっ‥はひっ!?」
長い間、僕はポーカーフェイス(の本)に見惚れてたらしい。
ポーカーフェイスは僕を見透かすような目でこちらを見てくる。
仲間にしますか?
いや、しません。
断固拒否。
「何か用かと聞いてるんだけど」
「いやいや!用とかではなくてっ!その、読んでる本がね!はは‥」
やっちまった。
言ってはいけないことを言ってしまった。
気まずいではないか!
「これはね‥」
「えっ?」
「ポーカーフェイスの練習なのよ。学校で表紙を見るのも恥ずかしい本を読み、冷静でポーカーフェイスを保てるかっていう練習」
「あっ、そうですか‥」
「別にね、私にこういう趣味があるとかではないのよ。あなたにはあると思いますけど。別に軽蔑してるとかではないわ。好きで読んでるあなたと、練習で仕方なく読んでるあなたとは訳が違うのよ。わかる?」
「は、はいっ!」
「なに?それともこのいかがわしい本が欲しいのかしら?新たなジャンルでも開拓しよう、って感じなの?あ、ちなみにこの本の内容はある国の小さなお姫様が冒険をするっていう話なの。その途中で森で迷ってしまうんだけどその森には野獣がいてその野獣にお姫様が‥」
「もういいです!やめてください!そこから先は地上波では流せない感じになってしまう!それに、その本はいりません!間に合ってますから!」
「あらそう。てっきりこの本をみつめてるものだから内容が気になって欲しくなったのかと思ったわ。」
「そんなわけあるか!ポーカーフェイスも大概にしろ」
「え?なにかしら?ポーカーフェイスって言ったわよね。」
いや、口が滑った。
きっと僕は動揺していたのだろう。
ポーカーフェイスは立ち上がり僕の目を真正面から見た。
「あのね、私にはちゃんと名前があるの。みんなポーカーフェイスって呼びますけど。本橋実花。これが私の名前。」
「すすすいません!本橋実花さん!わかりました!わかりましたから勘弁してください!今日のとこは失礼いたしました!」
僕はダッシュで教室から逃げた。
校舎の中はどこもかしこも静まり返っていた。
誰もいなかったのが幸いだろう。
僕のためにもポーカーフェイスのためにも。
これが僕とポーカーフェイスの最初のやりとりだった。