私、流れちゃいました
「昔は昔、今を見て生きなさい」
時は平成、あるところにそんな言葉を何度も言うおとうさんとおかあさんに嫌気がさし、家出した一人の少女がいました。名をモモコと言いました。
おとうさんは山の所有権を持つ大きな会社の社長で、おかあさんは「時短テクニック」のプロで、よくテレビに出演していました。そのため、モモコの家はとても裕福だったのですが、モモコの両親は「モモコは偉大な人物になるべきだ」という期待を彼女に寄せていたため、彼女はいつもお嬢様のように育てられました。
しかし、モモコは両親が期待するほどの優等生ではありませんでした。成績はイマイチ、性格はおてんば、授業中も友達と話してばかり。体育だけは得意でしたが、性格からかいつもミスをしていました。
そんなとき、決まって両親は「今を見て生きろ」と言いました。
モモコはそんな両親が嫌いでした。
そしてある日、彼女は家出して、昼間の街をさ迷っていたのでした。
彼女は学校以外で外に出たことがあまり無かったので、道も分かりませんでした。
しばらく歩いていると、大きな川の流れる河川敷を見つけました。
「綺麗・・・」彼女はそう思いました。
そして入ってみたいと思ってしまいました。
川の端に近づくと、そこには透き通った水が。
「少し流れが急だけど、ちょっとくらい大丈夫よね」
そう思って川に2,3歩足を踏み入れたとき、運悪く足を滑らせてしまいました。
「うわっ!?」
必死に手足をかいてもがきますが、流れに逆らうことは出来ません。
「あぷ・・・たす・・・け、て・・・」
彼女はそのまま流されてしまうのでした。
「・・・かい、大丈夫かい!?」声が聞こえる。
ああ、溺れてしまったのか・・・。
「大丈夫かい!?」目を開くと、目の前にはおばあさんが一人。
「ああよかった!あたしゃてっきり死んだもんだと思ったよ!」
「ここは・・・?」
「ここかい?まぁ知らないのも無理はないね、なんせ田舎だもの」
かなり流されてしまったのか。自分の体が丈夫でよかった、と思う。
「お前さん、この川を流れて来たってことは江戸のもんだろ?着物も西洋のもんさ着とるしの」
ということは、あの川は江戸の主要の川だったのだろう。
・・・江戸?
「おばあさん、ここは江戸町っていうの?」
「何言ってるのさ、お前さん江戸のもんじゃないのかい?」
え?
「今西暦何年か分かる?」
「セイレキ?何さそれ。西洋の言葉かい?」
「そ、それじゃあ年号、年号って分かる?」
「それなら確か将軍様が[江戸]と言ってたのぅ」
江戸時代。
ひょんな事からモモコがたどり着いたこの時代は、約260年続く江戸幕府が支配していた頃である。
野宿するわけにもいかないので、モモコはおばあさんの家に泊めて貰うことに。
「じいさん、帰ったよ」
「おおばあさん、おかえり。おや?そちらの娘さんは?」
「こんにちは、モモコと言います」
「じいさん、この子川から流されて来たんだと。泊めてやって貰えんかということじゃ」
「おおそりゃかわいそうな。ぜひ、泊まっていきなさい」
「あ、ありがとうございます!」
おじいさんとおばあさんの優しさに感謝しながら、彼女は泊めてもらうのでした。
翌日。
起きて居間に行くと、何やら外が騒がしい事に気づく。
外に行ってみると、
「桃太郎様のお帰りだー!」
「あの鬼を倒してきたぞー!」
と大声で叫ぶ人だかりが。桃太郎?
しかもなんでここで?
するとこちらに、財宝を持って向かって来る四人、いや一人以外は動物か?
それを見たとたん、横にいたおじいさんとおばあさんが、
「桃太郎ー!お帰りー!」と大きな声で言う。
あれ、これってまさか・・・。
私たちの前まで来た三匹を引き連れた一人はこう言った。
「桃太郎、只今戻りました!!」
「それで、あなたはモモコさんと言うのですね?」
「は、はい!はじめまして!」
まさか、私を泊めてくれた二人の家が桃太郎の出身地だったなんて・・・。
というか桃太郎さん、マジカッコいいです。
「私は桃から生まれたため、[桃太郎]と名付けられましたが、君も桃から生まれたのですか?」
「あ、いえ、私は違います」
「そうですか、しかし私は自分の名に誇りをもっています。君も、自分の名と両親は大切にしてくださいね」
「はい!」
自分の名前を誉めてもらったようで嬉しかった。その時、ふと頭に両親の顔が浮かび、自分の家が恋しくなった。
「桃太郎さん、あなたはどうやって生まれたか覚えていますか?」
「いや、生まれてからしばらくは無いですね、しかし生まれる前の記憶はあるのです」
「前、ですか・・・?」
「ああ、誰かが私に呟いたのです。[どうかこの先にある村の人々を助けてやってくれ]とね」
私は唖然とした。それは神様では、と言おうとしたが、馬鹿にされるだけだと思い止めた。
「ああ、後こんなことも言っていましたよ。[大丈夫、この乗り物は沈まないように出来ている。時限を越えるための装置だ。簡単に壊れては困る]これはどういう意味なのでしょう」
時限?ということは声の主は過去か未来の人?
話をもっと聞こうとしたのだが、頭が痛くなったので止めた。
そしてしばらく三人と暮らしていたある日。
「モモコ、お前さんに親はいるのかい?」おばあさんが言った。
「はい、両親がいます」
「なら、いずれは帰らなきゃいけないねぇ」
「しかし、モモコの家はここから遠いんじゃろぅ?一人で帰らせるのは無理じゃ」とおじいさん。
「私が案内出来ればいいのですが、あいにくここの外の土地には詳しくありません」と桃太郎。
「うーん、何かいい方法は無いのかな・・・」と、そこまで考えて。
「あっ!桃!桃太郎さん、桃は今どこにあるの?」
「桃ですか?ああ、それなら外の川の縁に停めてありますよ」
急いで見に行く。そこには、直径3メートル位の桃があった。
真っ二つになっていないといいが、と思ったのだが、桃太郎が生まれた時は桃が自動で開いたので桃には一切傷をつけていないそうだ。
あとはこれに乗って行けばいいと思うのだが、私はいまいち帰れるという確証が持てなかった。
その夜。外で月を見ていると、桃太郎がやってきた。
「あ、桃太郎さん」
「先程のあなたの表情、何か帰れる方法を見つけましたね?しかし迷っている」
「分かるんですか?」
「ええ。良かったら私に話してくれませんか?」
「成る程。信じがたい話ですが、あなたの目を見れば分かります」
「信じてくれるんですか?」
「もちろんです。私は時空を越える事に関しては助言出来ませんが、あなたの言っていることが本当なら、私の送り主は時空を越える手段を施した。そういうことになりますね」
「はい、私、やっぱり勇気が無いんですよね・・・」
「いえ、臆病なのは良いことです。あなたは長く生きたい、家族に会いたいと思っている、それだけです。一歩を踏み出してみれば、案外世界は変わるかも知れませんよ?」
私はその言葉に押され、同時にその言葉を待っていたような気がした。
そして翌日。
「それではおじいさん、おばあさん、そして桃太郎さん。大変お世話になりました!」
「気を付けるんだよ、モモコ」
「何かあったら、また帰って来るんだよ」
「頑張って下さいね、モモコさん」
三人に見送られ、桃に乗った私はまた流されていくのであった。
「・・・コ、モモコ!?」声がする。
目をひらくと、そこには警察官の格好をした人と、私の両親が。
「モモコ!よかった、無事でよかった!」
おかあさんが泣きながら言う。おとうさんは私を抱いて無言で泣いている。
・・・夢だったのかな。私は溺れて助けられた。それだけか。
おとうさんが言う。
「ごめんな、辛い思いをさせて。これからはお前の意見もちゃんと聞いていくから、許しておくれ」
「ううん、私こそ、家出なんかしてごめんなさい」
私はその後病院に運ばれたが、特に怪我もしていなかった。改めて、自分の体が丈夫でよかった、と思う。
夢かもしれないが、私は桃太郎さんに勇気をもらった。それは私たちを変えてくれた。
桃太郎さんに感謝しながら、私は今日を生きていくのであった。
「ねぇおかあさん、私の名前って何で[モモコ]なの?」
「何でかしらねぇ、先祖が桃太郎だったりして!」
「そんなぁ。・・・訳、無いよねぇ?」