トラウマ
ラケシス視点です
クライブの爽やかな笑顔とは裏腹に、私は表情を崩すことはなかった
「副隊長!こんなチビスケに隊長の座をとられて、悔しくないんすか!」
「ガイ、口をつつしめ」
ガイと呼ばれた男はクライブに近より言った
「副隊長が隊長になれば、俺が副隊長になれたかも知んないじゃないですか」
「なら、お前が、かかってこい…私に勝てたら私はただの新人騎士になってやる」
私の言葉にクライブが慌てる
「ら、ラケシス様、怪我しないでくださいよ」
「お前は私のお兄ちゃんか?」
「違います」
私がゆっくり構えると、ガイが叫んだ
「コイル、出番だ!」
ガイの叫び声とともにガイの腕に赤い蛇が巻き付く
その蛇が槍のような形を作り上げた
「行くぞ!」
ガイの掛け声とともに槍はグニャリと蛇に戻りガイの腕に巻き付いた
「勝負あり、勝者ラケシス様」
クライブは思い出したように、飽きれ顔で勝利を告げた
「なっ、何でだよ、コイル~」
ガイが呼び出したのは火の精霊
私に害を及ぼす訳がない
「ガイ、ラケシス様は精霊に愛されているから、精霊はラケシス様に敵意を向けない、むしろ向けられてしまうぞ」
クライブの言葉と同時にガイの目の前に真っ赤な塊が表れ、そこから腕が出てガイの首を掴んだ
「大事な大事なラケシスに、危害を加えようとしたな♪人間の首は柔らかいな~力いれたら千切れそうだ♪」
何だか楽しそうな声色でガイの首を掴んで居るのは、火の精霊、フェニックス、私と契約している精霊の一人だ
「フェニックス、止めろ、ソイツを殺せなんて言ってない」
私が冷たく言い放つとフェニックスはガイの首から手を放した
「なんだよ、ラケシス、こんなの要らないだろだろ?」
不服そうなフェニックスに口を開いたのは、クライブだった
「フェニックス、ガイは貴重な料理担当の一人だから殺されたら困る」
フェニックスはそこでクライブに初めて気がついた
「よー、兄弟!久しぶりだな♪ラケシスに挨拶なしに消えやがった落とし前は、今つければ良いのか?」
好戦的なフェニックスは口角を上げた
「俺じゃなく、エイラム様に言ってくれないか?俺は挨拶したかった」
フェニックスは高らかに笑った
「冗談だよ、エイラムにお前が拉致られたのだって知ってるって、俺様を誰だと思ってんの!火の精霊様だぞ!火のある所の記憶なんて簡単に見れるって、ラケシスに言わなかったのだって、ミスティがしゃべるなって言ったからだし!あれは、良い女だよな♪」
クライブが手をわなつかせて居る
クライブはフェニックスが火の精霊だと知る前に、私の部屋に居るフェニックスを侵入者だと勘違いして殴り付けてから、気に入られている
「何で、ミスティの言うこと聞いてんだよ!」
「ミスティが良い女だから、ラケシスが、俺様に聞かなかったから、その方が面白そうだったから!」
クライブはそのまま項垂れた
「良いじゃん、また、仲良くしようぜ!な!兄弟」
フェニックスがクライブの横に近づくとクライブの背中をバシバシと叩いたのだった
フェニックスのせいで自分の力を見せ付けられなかったが、表立って敵意を向ける者は居なくなった
案内されてたどり着いたのは、食堂だった
「もう、時期にお昼ですからね」
「副隊長!今日の昼はサイガが当番です」
「押さえつけて止めさせろ!」
クライブの顔色が悪い
「私が作ろうか?何人居るんだ?」
私の言葉にクライブの瞳が輝いたように見えた
「お願いします!寝てる奴は食わないだろうから、30人ぐらいですかね?」
「わかった、誰か手伝え」
私はテキパキと指示を出して40人分の食事を作り上げた
近くにいた手伝ってくれた騎士を一人捕まえ、味見をさせる
「うっま!なんだこれ!」
「旨いか?」
「はい!こんな旨い物食えるなら、俺はあんたについてきます!」
大げさだが、何だか嬉しくて、へにゃりと笑顔になった
「何だ、笑えるんだ」
そう聞こえて振り替えると、クライブが白バラを一輪持って立っていた
「隊の裏庭で育てるんです、よかたら部屋に飾りますか?」
クライブが私に初めて話しかけてくれた時も、白バラをくれた事を思い出した
「お前とそれは、ワンセットなのか?」
クライブから白バラを受け取りながら聞くと、クライブはキョトンとした
「初めて私に話しかけてくれた時も、白バラをくれただろ?」
クライブはかなり驚いた顔をした
「覚えてたんですか?」
「両親以外の人間に初めてもらったプレゼントだからな」
クライブはゆっくり笑顔を見せた
「味見するか?」
私がクライブに味見させようと厨房に目を向けると、さっきまで手伝ってくれた騎士達が味見していた
「旨すぎる」
「こっちも旨すぎる」
「ヤバイ」
私は騎士達に向かって言った
「それは、味見ではなく、つまみ食いだぞ、量減らされたくなければ、今すぐ料理から離れろ」
量を減すと言えば騎士達はおとなしく言うことをきいた
私は少しだけスープをよそると、クライブに渡した
クライブは嬉しそうにそれを口に流し込むと笑った
「旨いです」
昔、よく焼き菓子をミスティと一緒に作ってクライブにあげたのを思い出した
お昼ご飯は好評で、30人に対して40人分用意したのにスープ、一滴も残らなかった
「久しぶりに、幸せだ~!」
「旨かった~」
隊員達は、満足してくれたらしい
「…良かった」
小さく安堵の息がもれる
その時だった、食堂の窓から鴉が入ってきて食堂を一周すると、ラケシスの肩に止まった
「「嵐が来るぞ」」
私とクライブはハモって言った
「今すぐ、寝てる奴らをたたき起こせ!」
「村のみんなに、危険区域に居る者の避難要請」
クライブが隊員達を起すように指示したので、隊員達に指示を出す
「こんなに晴れてるのに村のみんなは信じてくれません」
「天気が悪くなってからじゃ遅いだろうが、死なせたくなかったら言うことをきかせろ!」
私が叫ぶとクライブが私の肩に手をおいた
「俺が行ってきます、村では信頼されてる方なので」
「わかった、たのむ」
クライブが村に行き、私が隊で指示を出した
半日が過ぎた頃、ようやく、嵐の対策が一段落し、空の雲行きが怪しくなってきた
「東側OKです」
「北と西も大丈夫です」
報告を受けている間に雨が降りだしたのが窓硝子ごしにわかった
心拍数が上がるのが分かって、近くにあった食器棚の食器を出し始めた
雷が鳴るまえに、狭くて暗い所に入りたかった
「あんた、なにしてんだ?」
報告の途中で突然食器を出し始めた私に、さっき、私とやり合おうとしたガイが怪訝そうに顔を除きこんだ
「あんた、顔色悪いぞ!」
心配したガイに腕を掴まれた
その時、ゴロゴロと音が鳴り響き、私は体をふるわせた
「もしかして、雷が怖いのか?」
ガイが、そう言った瞬間、辺りが光につつまれた
私は小さく息を吸ったきり、上手く呼吸が出来なくなった
それと同時にびしょ濡れのクライブが慌てて食堂に入ってきた
「ラケシス様!」
私の名前を呼んでいるが、上手く聞き取れない
私の所に来たクライブは私が上手く呼吸が出来ていないことに気付いた
「わー、息をしてください、吸って、吐いて、」
クライブは私の頬を挟むように手をそえる
私は首を横に降った
上手く吸うことが出来ない
「ちゃんと息、吸え」
クライブが怒っているのを初めて見た
大変な状況だと理解出来ているのに、冷静にクライブを見ている私がいる
「キスして無理やり呼吸調えられたくなかったら、息を吸ってくれ」
クライブの言葉が突然大きく聞こえて、思い出したように肺に空気を送り込んだ
突然の空気にむせる
クライブは私が呼吸を始めたのを見てから、抱き締めた
「俺が、側に居ますから」
クライブは私の肩に額をのせて、呟いた
それからすぐに、雷が鳴り、私はクライブにしがみついた
「副隊長、そいつ、大丈夫ですか?」
クライブはゆっくり頭を上げた
「お前ら、役立たずにもほどがあんだろ」
クライブがドスのきいた声で言うと、他の隊員達が後ずさった音がした
「雷が怖いからって、まさか、そこまでパニックおこすとは思わなかったんすもん」
ガイの言葉にクライブは私の髪を撫でながら言った
「怖いって、レベルじゃないんだよ、この人にとっては…雷イコール大事な人の死なんだ」
回りが息をのんだのがわかった
「雷の中、両親二人とも高波で目の前から消えた、自分は精霊に護られているから、一緒に流されることも許されなかった、雷が鳴ると二人を助けられなかった思いから、ラケシス様はこんな風に自分をせめるんだ」
クライブに頭を撫でられるのが、心地よくて掴んでいた手に力を込めた
クライブは優しく撫でながら私を落ち着かせる
「ラケシス様、俺が間に合わなかったら、ガイでも何でも近くに居る奴捕まえて、しがみついて良いですからね」
私はようやく呼吸を調えて言った
「…突然、しがみついたら、気持ち、悪い、だろ?」
私達を見ている隊員達が、引いた顔をしている
「うちの隊は、美女に抱きつかれて嫌がる奴なんて居ないですよ」
さも当然、と言うようにクライブが言った言葉に隊員達の顔色が変わった
「「「「び、美女~?」」」」
みんなの反応がきびしい
「美女は言い過ぎだ、私は美しくなんかない」
「お前ら、本当に失礼にも程があるぞ、ラケシス様は美人だ」
クライブからしたら親戚みたいなものだから、親の欲目ってやつじゃないだろうか?
「美人です、俺らは隊長に付いてきます!」
さっきまで料理の、手伝いをしてくれていた騎士の一人が言ってくれて嬉しかったが、雷のせいで顔を上げられない
「副隊長!何で言ってくれなかったんすか?俺なんて勝負挑んじゃったじゃないっすか!」
クライブは怪訝そうな顔をしている
「く、クライブ、みんなは私を男だと思ってたみたいだ」
クライブは私の背中をトントンしながら言った
「一目で分かるだろ、普通、こんな可愛いのに」
「親バカか?」
「えっ?」
クライブが少しだけ動揺している
「親って訳じゃないです」
クライブの言葉の後に隊員達が言った
「副隊長だけズルイ、俺も隊長抱き締めたい!」
料理を一緒にした騎士の一人がそう言うと、クライブが地をはいそうな声で言った
「殺すぞ」
私の知ってるクライブは爽やかな笑顔のチャラ男だったが、会わないうちに大分変わった様だと思いながら私はクライブにしがみつき続けた
クライブは自分が間に合わなかった時以外は、誰にもラケシスを触らせない気がします