三夜
私は息を荒げ、激しい嘔吐感に苦しんでいた。
だが、ふと気が付くと目隠しが緩くなっていた事に気が付いた。このチャンスを逃すまいと私は必死に頭を大きく揺らした。開口具は運よくあの豚男が外していたので邪魔にはならなかったが口が少し痛かった。
そうしてようやく目隠しは取れた。後は椅子の後ろに結ばれた縄だけだ。
これも偶然か罠か、緩んでいたので腕を激しく揺らせばどうにかなりそうだ。そして私の考えは当たり、縄もほどけた。周りを見渡すと椅子とテーブル、ベットとシンクそして冷蔵庫と、シンプルな部屋だった。そんな事はいい。私は椅子から勢いよく立ち上がりドアへと向かう。様々な不安が頭をよぎっていたがこれで何とかこの狂気の館から脱出できる。そんな希望を持っていた。だがそれとは裏腹にドアノブを掴もうとしている腕は空を掴む。
「ドアノブが……無い……」
そしてドタドタという足音。これは豚男が戻ってきているのではないか。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい
頭はパニック寸前だった。
一先ず
一先ず
元に戻らねば
その時だった、シンクに豚男が飲んでいたジュースが目に入った。そしてシンクの中のスポンジとオレンジの洗剤。
※ ※ ※
「忘れ物忘れ物、危ない危ない、気づいてよかった」
豚男が部屋に入って来た。
「少し待ってね」
そしてジュースに口をつけ、飲み始めた。
「おぅええええええええええええ」
豚男は嘔吐した。
「おぅえ……なん……これ……糞……餓鬼……細工しやがったな……そこ……動くんじゃ……ねぇ……」
そう、豚男のジュースに洗剤を混ぜたのだ。
痙攣と嘔吐を繰り返している豚男を横目に私はこのチャンスを逃さなかった。すかさず椅子から立ち上がりドアへ走る。ドアノブはちゃんとついていた。
迷路のような屋敷をなんとか逃げ出した。
外には見慣れた風景が広がっていた。ここは近場の山だ。こんな所に屋敷があるとは思わなかった。
そして、私は何度かこの山へ遊びに来ていたので山を降りる道を知っている。後は街へと走るだけだ。
でこぼことした山の道を全力で走り抜ける。だが
「クソガキャあああああ!!逃げるんじゃねぇえええ!!」
「ッ!!うああああああ!!」
あの豚男が私を追ってきた。
だが、もうすぐ町だ。ここの坂を超えさえすれば人通りの多い場所へと逃げ切れる。だが豚男の足も早く私の背中に手を伸ばそうとした時だった。
人だ!女の人が目の前を横切ろうとしていた。
「たたたたた、助けてください!!」
私はどもりながら声を張り上げて助けを求めた。
しかし、そんな私の後ろに豚男は迫っていた。驚く女性。
私の叫び声の中、豚男は吐血し倒れた。
「た、助かった……」
※ ※ ※
その後、私はその女性に病院へと連れ行かれ検査を受けましたが何も異常はなく、頬の傷を手当てして終わりました。豚男は女性が警察へと連れて行ったらしいけど、未だにニュースにはなりません。何だかこの事は言ってはいけないような気がして、私は誰にもその事は話しませんでした。そして数日経ちました。
「めーのちゃん」
「なに?りっちゃん」
「あのさ、前に話したサライの話なんだけど」
「ま、またその話?」
「サライについての新情報だよ、教えてあげないと悪いかなーって思って、親切心だよ」
律は続ける。
「さらった子供を料理して食べちゃうとか!そして次にさらってきた子にその料理を食べさせて、食べたその子も料理して……ずっとそれを繰り返すんだって!」
「……」
時間がかかりまくりましたがようやく完結しました。少しでもゾッとしていただければ幸いです。