二人の出逢い
俺の名前は、山森健一だ。山森財閥の御曹司だ。現在は、山戸川高校の生徒会会長だ。今回は、俺と白岩涼子が初めて会った日の事を話そうと思う。白岩涼子っていうのは、俺の彼女の名前だ。
白岩の家は、俺の家からは一キロ先にある。現在は、裕福な家庭だが昔は色々と悲しい過去があった。
さて、少し話が逸れてしまったのでそろそろ今回の話に戻ろう。えっと、確かあれは、中学の頃の話に遡る。あの頃の俺は、今と同じ様に生徒会会長をしていた。
俺の名前は、山森健一だ。山森財閥の御曹司だ。まぁ、財閥の御曹司ということを除けば普通の中学二年生だ。他に挙げるとすれば、学校内ではトップの成績だということぐらいだろう。彼女はいないかな。まぁ、実際中学の頃のカップルは、数えるくらいしかいなかった。俺は、彼女のいない普通の中学生だ。
キーンコーンカーンコーン
「やっと終わった。」
「おい、健一部活行くぞ。」
「分かったから待てよ。」
俺に、声を掛けて来たのは俺と同じクラスで俺と同じ野球部に所属している安西秀輝だ。足が速く、肩が良く、ミートが上手いので一番センターに適している。
「ところで、秀っち。確か今日は、レギュラーの発表だっけ?」
「そうだな…今年は選ばれたいな…お前は、昨年選ばれてたし、今年もレギュラー入り確定だろ。」
「いや、分からないって、今年は新入部員の中にも上手い奴がいたから今年はどうだか分からないよ。」
「まぁ、お互い選ばれてたらいいな。」
「ああ。発表って確か練習後に発表だっけ?」
「そうだな…今日の練習後に発表だな。」
「まぁ、とにかく練習頑張りますか。」
「おう。」
カーン
グラウンドでは、ノックを受けている野手組がいる。
「山森先輩、後三十球です。」
「はいよ。」
バシッ
俺は、後輩でキャッチャーの柳澤煌太を相手にピッチング練習をする。おれは、昨年は中1ながらエースだった。といっても、現在のピッチャーが俺と後輩の矢木澤秀治の2人だけなんだ。昨年は、俺一人だった。
「山森先輩、ラスト一球です。全力でお願いします。」
「本当に全力で良いのか?」
「ええ、思いっきり投げてください。」
「分かった。怪我しても知らないぞ。」
俺は、柳澤煌太のミット目掛けて振りかぶって投げる。
ズドン
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
柳澤を含めグラウンドで練習をしていた者はもちろんのこと他の部活をやっている者も何の音かと思い辺り一面が静かになっていた。
音の正体は、俺の投げたボールが柳澤のミットを掠めて、ネットを破壊した音だった。
「大丈夫か?」
「大丈夫です・・・・」
「そうか。お~い、崎川~ちょっと来てくれ。」
「へいへい、今行きま~す。」
そう言ってこちらに走ってくるのは、体型からしてキャッチャーに全く見えない崎川徳だ。体型は一言で言えば普通の体型だ。
「何の用だ?」
「ちょっとキャッチャー代わってくれ。」
「そんなことだと思ったよ……」
「まぁ、そう言うなって頼むぜ。」
「分かったよ。そういうわけでごめんね。」
「あ、いえいえ。すいません、僕じゃ力不足で。」
「気にすんなって、まだ一年生だ。最初は、みんなそんなもんだから。」
「は、はい!」
「崎川!早くしてくれ。」
「分かったから待て。」
「はいはい。」
俺がそう言うと、崎川はミットを構える。
「この辺で良いか?」
「もうちょっと後じゃね?」
「じゃあこの辺か?」
「おう、オッケーだ。」
俺がそう言うと、崎川はミットを構え直す。
「良し!二球全力で来い!」
「了解。」
一球目。俺は、振りかぶって投げる。
バシンッ
乾いた音がグラウンドに響く。
「去年より速くなったな。」
「そうか~、自分じゃよく分からねえけど、お前がそう言うならそうなのかな。」
「これなら、新人戦でも良い所まで行くんじゃないか?」
「そうだな。良い所まで行けたら良いな。」
「良し!ラスト一球だ。」
そう言って崎川はボールを投げ返す。
俺は、ボールをキャッチして、二球目を振りかぶって投げる。
ドンッ
銃声のような音がグラウンドに響く。
「お前、更に速くなってないか?」
「そりゃそうだろう。全力なんだから。」
「今のが全力だとっ!」
「ああ、今のが全力だけどそれが何か?」
「マジで、さっきのは?」
「7割ぐらいかな。」
「・・・・・・」
「どうした?」
「いや、7割であの速さって信じられないんだが。」
「ははは、まぁ試合の時は5割ぐらいで投げるから。」
「そりゃ、有難い。」
「ちょっと、集まって。」
そう言って、俺たちを集合させたのは顧問の霧山玲であり、我が二年一組の担任でもある。性別は、女性である。何でって思うだろうが、彼女は子供の頃から父親と一緒に野球観戦に行っていてその影響で、何とか野球部の顧問にこぎ着けたわけだ。まぁ、そんな話は置いといて本題に入ろうか。
「えっと、これから新人戦のレギュラーを発表しま~す。まずは、背番号1番投手山森君。」
「はい。」
「2番捕手崎川君。」
「はい。」
その後順々に発表されていき、
「8番中堅手安西君。」
「え?俺?」
「そうですよ。」
「はい!」
その後、20人のレギュラーが発表された。
1番投手山森健一。2番捕手崎川徳。3番一塁手加藤龍。4番二塁手風見駿。5番三塁手山内竜己。6番遊撃手風見翔。7番左翼手赤城浩一。8番中堅手安西秀輝。9番右翼手神山京介。
さて、いつになったら俺と涼子が出会ったことを話すかと思うだろ…実は、このレギュラーを発表した後の事だ。
「山森~、この後どうする?」
「遊びに行きたいが、今日はちょっと用事があるから悪い。」
「そうか。じゃあ、他の奴捕まえて遊んでくるか。」
「程々にしとけよ~。」
「わかってるって、じゃあな。」
「また、明日な。」
俺は、走って去っていく神山京介の背中に向かってそう言っていた。
「さて、俺もそろそろ帰るかな。でも、その前に一応玲ちゃんの許可を取ってあるからな、軽く練習していくか。」
俺は、整備し終わったグラウンドではなく、投球練習をしていた所で再び投球練習を始める。俺は、その後百球程投げた後左に視線を感じたので、見てみると制服姿の女の子が立っていた。
「どうしたの?俺に何か用?」
「いや、用というわけじゃないんだけど、音が聞こえたから来てみたら、山森君が居たからちょっと見てただけ何だけど邪魔だったかな?」
「いや、邪魔じゃないよ。それより、大丈夫なの帰りに一人で?」
「大丈夫だよ。いつもの事だから。」
「そっか、とにかく気をつけて帰れよ。」
「わかってる。」
「ちょっと待って、君の名前は?」
「私。私は、白岩涼子。よろしくね。」
「俺は、山森健一。よろしくな。」
「またね。」
そう言って、彼女─白岩涼子─は、帰っていった。辺りは暗くなり始めていた。時刻は、7時15分を回っている。
「もう、こんな時間か。帰るかな。」
俺は、練習をやめてグラウンドを整備して、ボールを片付けて制服に着替える。その後俺は、グラウンドの扉に鍵を閉めて家に帰宅することにした。俺は、グラウンドからの帰り道で、路地裏から言い争っている声が聞こえた。
「お嬢ちゃん、可愛いねぇ。よかったら、これから一緒にお兄さんたちと遊ばないかい?」
「退いてください。急いでるんで。」
どうやら、男女が言い争っているようだ。健一は、女の声に聞き覚えがあった。健一は、そっと見てみると先程の女の子─白岩涼子─だった。
「おいおい、ちょっとだけだから。」
「嫌です!」
「あのねぇ、お兄さんたちもことを荒立てたくないわけ、だからちょっと言う通りにしてくれれば良いわけ、どう?」
「嫌です!」
「そうかい、手荒なことはしたくなかったが仕方ないね。」
男が、そう言うと周りに居た男たちが白岩を後から押さえつけた。
「ちょっと、離しなさいよ!」
「チッ。おい、黙らせろ。」
「な、何する──んぐっ!」
周りに居た男が白岩の口を塞ぐ。白岩は口を塞がれ、声も出せない。そして、白岩涼子は地面に叩きつけられ、口を塞がれたまま腕まで押さえ込まれる。
(このままじゃ、私犯される。どうにかしないと…)
「んぐ!んっ!」ガブッ
白岩涼子は、口を塞いでいた男の、腕に噛みついた。咄嗟に白岩は、
「助けて!誰でも良いから助けて!」
そう叫んだ。
(暴力は使いたくないけど、女の子が助けを求めてるなら!)
「誰か、助け……て。」
俺は、その言葉を聞いて物陰から飛び出した。
「おやおや、大人が中学生の女の子を押さえ付けて、何をしようとしてるのかな?」
「テメエには、関係ないだろうが!」
「確かに関係ないね…でもねえ、俺はお前たちみたいなのが一番大嫌いでね!」
「どうやら、血を見たいようだな…お前ら、殺っちまいな!」
リーダー格の男がそう言うと、先程まで白岩を押さえ付けて居た男たちが、健一の方に向かってくる。手には、釘バットやメリケンサック、ナイフを持って向かってくる。
「山森君、私のことは良いから、逃げて!」
「逃げるねえ、俺逃げるの嫌いなんだよね。」
「駄目ぇ、逃げてー!」
「死ねえ!」
男が釘バットを持って振り上げて、健一に振り下ろす。
ドカッ!っと釘バットを叩き付けた音が周囲に響き渡る。男は、感触に笑みを溢す。しかし、
「その程度の腕で、喧嘩売ってるんじゃねえよ。」
健一は釘バットを持っていた鞄で受け止めていた。
「このガキなめやがって!」
メリケンサックを嵌めた男が、健一に殴りかかった。
ドゴッ!っとメリケンサックで殴った音が周囲に響き渡る。男は、不思議な感触に違和感を感じた。男が、目を開くとそこには先程まで釘バットを受け止められていた男が、倒れていた。
「うわー、派手にやられてるね。」
「いつの間に入れ替わったんだ…」
「やれやれ、困ったもんだ。」
「このガキが、死ねえぇぇぇぇ!」
奇声を上げて、ナイフを振り回して男が、健一に向かっていく。
ザクッ!っと、ナイフが刺さる音が、微かに響いた。男は、感触に笑みを溢した。しかし、
「危ないねぇ。」
健一は、ナイフを自分の鞄で受け止めていた。
「さて、今度はこちらの番かな。」
健一は、笑みを浮かべて、三人の男を倒した。
釘バットを持っていた男は、瀕死だったので軽く殴られていた。
メリケンサックを嵌めていた男は、背負い投げを掛けられて、地面に倒されていた。
ナイフを振り回していた男は、間接を外されて地面に倒れていた。
「こんなもんか。」
「このガキ、よくも仲間に手を出してくれたな!許さんぞ!!殺してやる!!!」
リーダー格の男は、拳を握り締めて健一に殴りかかる。
「死ねぇ!!ガキが!!!」
男は、奇声を上げて殴りかかった。
ガシッ!
健一は、男の拳を掴み足払いをかけて、顔面を押さえ付けて地面に叩き付けた。その後四人の男を拘束すると、直ぐに警察に電話をした。四人の男を警察に引き渡した後、俺は白岩を家まで送っていくことにした。
「大丈夫だった?」
「う、うん。」
「そう、怪我してない?」
「う、うん。大丈夫。」
「ちょっと、手出してみて。」
「え、うん。」
そう言って白岩は両手を出した。俺は、白岩の両手を包み込むようにしてそっと手を重ねる。
「山森君!?」
白岩は驚いていたが
「大丈夫だ、白岩は一人なんかじゃない。俺は、白岩の味方だからな。」
俺は、そう言った。
「えっ?どういうこと?」
「白岩は、いつも一人でいるだろ。お前のクラスの前通るときに一人でいるのを見かけたから。」
「あ………」
「お前の家ってここか?」
「う、うん。」
「そっか。」
「あの、変だよね…こんなにボロい家に住んでるなんて…」
「変じゃないと思うけどな。」
「えっ?どうして?」
「人にはそれぞれの家があるわけだから、それを悪く言う理由にはならないよ。俺は、こういう家の方が好きだけどね。」
「そ、そうなんだ。」
「じゃあ、またな。」
「うん、またね。」
そう言って俺と白岩は、家へと帰宅した。
さて、今回は俺と涼子が初めて出会った時について語ったがその後のことは、また次の機会に話しをするとしよう。
じゃあ、またな!