二年三組
教壇に立っているのは、ボサボサの髪に無精髭を生やした長身の男。
「えー、お前らの担任になった大林だ。特技は…そらッ」
彼の投げたチョークは見事、早速爆睡していた稲葉君の額に命中した。
「チョーク投げだ。当たると結構痛いと評判だから、お前ら俺の授業で寝んな」
「いてぇ…」
稲葉君は額を擦って呟いていた。そして、再び寝た。
「こら、寝んなって」
再びチョークが投げられる。
「いてっ」
更に一本、もう一本と次々チョークが飛んでいく。
「起きろ」
「いてっ」
「稲葉」
「いてっ!」
「いーなーば」
「いてぇよ!つーか起きてるよ!」
「あぁ、起きてたか。よし、じゃあ次お前ら自己紹介しろ。名前と特技な。特技はその場でやれ」
なんという無茶振りをしやがるんだコイツは。早速担任が嫌いになった。
「じゃあ最初、稲葉」
反応がない。
「稲葉?」
やはり、彼は寝ていた。
「じゃあ、稲葉が寝てしまったので、俺が代わりにしておこう」
大林は稲葉君の正面に立つと、一度咳払いをして喋り出した。
「稲葉弘人、特技は寝ることと、チョークをぶつけられることです」
大林は棒読みで稲葉君の自己紹介を済ませ、再び彼の額目掛けてチョークを投げ始めた。
「ふふっ、コイツ当て甲斐あるな。次々自己紹介しとけ」
完全にチョーク投げにハマっている様子。
そして自己紹介は進んでいくのだった。
今井、上田、小笠原、風間、加藤、加藤、加藤。とまさかの加藤が三連続。
鎌田、木暮。とうとう僕の番。
教壇に上がり、クラス全体を見ると目眩がした。
「あ、えっと…さ、佐伯悠祐です。特技は…」
しまった。緊張しててまったく考えてなかった。担任を心底怨みを込めて睨んだが、大林はまだ稲葉君にチョークを投げていて気づいていない。仕方ない。
「特技は特に」
「おっと、一人一つ必ずやれよ」
特にない、と言おうとした僕の声を遮り、大林が退路を塞いだ。なんてことを。
視線を元に戻すと、クラスメイト達の目が僕を見ていた。再び目眩。
何かないかとポケットに手を入れると、どういう訳か金属製の何かが当たった。
「え?」
今朝、手にした忌まわしき物体。なぜそれがポケットに?疑問は残るが、最優先はこの場を抜けることだ。
「特技は…」
ポケットからそれを出す。銀色のそれは太陽光を浴びてキラリと光った。
「スプーン曲げ…です」
そう言うと、スプーンは見事90度に曲がり、教室内は拍手喝采。
その後どうなったかはわからない。僕はそこで気絶したからだ。