外へ
深夜。
私は、深海のように暗い廊下を手探りで進む。
手すりにつかまり、そろそろと階段を下りる。
音をたてないように、極力静かに動こうとしているのに、重いリュックのせいで
床が軋んだ音をたてる。
そのたび、私は冷や汗をかいて立ち止まってしまう。
ぐずぐずするな!
早くしないと、親が起きてしまうかもしれないぞ!
私は自分を叱咤して、残りの階段を降り切った。
難関は2つ。
ものを取りだしたときに音をたててしまう台所と、
錆付きかけた玄関の扉。
でも、食料はこの先どうしても必要だし、
玄関よりほかに出入り口なんかない。
やるしかなかった。
台所に一歩踏み出すと、後は夢中だった。
棚を、冷蔵庫を、僅か2,3分で漁り終えて、身を翻して玄関へ。
履きなれたスニーカーをつっかけた。
冷たいとっ手を握って。
吐き気がするほどの恐怖に襲われて、動きを止めた。
__今にも、あいつが、親が起きてくるんじゃないか。
そんなイメージに捕えられ、体は動かない。
できたら息さえ止めてしまいたいほど、
存在感を消したかった。
取っ手をつかんだままの腕に顔をうずめた。
今朝頬に作った切り傷が、服の布地に擦れて痛んだ。
服は、制服だとまずいから、ごみ捨て場から拾ってきたもの。
__ジッコウシナイナラ、イママデノクロウハ、ナンダッタノカ
取っ手を握りしめる指には、物差しで殴られた時の血豆が疼いている。
__ココニイレバ、
このまま、終わる。
そっと、私はドアを開けた。
そのまま、もう決して戻らない場所から、深夜の街中へ走り去った。