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目指す高校は山の高台にあり、通学路の途中から急な坂道に切り替わったせいで周りの状況を楽しめなくなっていると、おそらく母校の近くまでいくであろうバスが横の道路を通る。
「しまったな・・・こんなことならバス通学にすればよかったな。」
俺が目の前を横ぎるバスを見ながらそう呟きながら歩いていると、
「よっ 神庭」
追いついてきた馬鹿そうな顔した馬鹿が二へラ笑いを浮かべながら俺の肩を叩いた。立ち止まるのは面倒なので振り返るだけにした。
「よう 星川」
と俺は返し、中学で同じクラスで仲の良かった星川と一緒に坂道を上る。
「お前と一緒の高校になるとはな、これで同じクラスなら最高だな。」
「そうだな」
と俺は適当に返事をする。
「高校生になったらまずは彼女だな、最初に青春の1ページを開くのは俺に決まりだな。、もちろんお前にも紹介してやるよ。俺の未来の彼女の友達をな。」
「ありがとよ、期待して待っててやるよ。」
その後も星川は道すがら可愛い女がいたとか、駅前のパン屋の店員が可愛いので明日から昼食はパンにするだとかで、目ざとくチェックをしていること明かしていたが、俺には興味が無かった。
星川が考える理想の彼女像の話の途中ぐらいで高校に到着した。
「おっ クラスの案内版があるぜ、見てこようぜ。」
新しい学校の新しいクラスが気になるのは俺も同じだが、案内版に群がる魑魅魍魎たちに突っ込むのは何度生まれ変われるとしても嫌だった。
「星川。」
「あん?」
その馬鹿ヅラした男は怪訝な表情で俺を見た。
「お前と同じクラスかどうか、俺の名前があるクラスも見てきてくれ。」
星川は見る目に上機嫌な顔になり、親指を立てるサインをした。
「おっしやぁ!!。まかせとけ!」
星川はそう言うと案内版に群がる肉の壁のごとき魑魅魍魎たちに突進していった。
「馬鹿とはさみは使いようなんだな。」
と俺は大昔に作られた格言が真実であったことを証明したことで満足に思いながら案内版の方に目をむけると、小柄な少女が肉の壁ごとき魑魅魍魎たちを前にウロウロしていた。
その少女はかなりの小柄で、案内版を見ているということは高校生なはずなのだが、遠くから見る限りでも全くそうは見えなくて、ヘタをすれば小学生の迷子が迷い込んだぐらいに見えなくもないぐらい小柄だった。
若干、興味が惹かれた俺は、案内版の方へと足を向けた。
少女と体2つ分ぐらいの距離まで近づいて見ると、その少女は俺の肩辺りに頭の天辺がくる背格好をしており、その少女の迷子説を有力なものになっていた。
「み、見えないぃぃ!!」
背伸びをし肉の壁ごとき魑魅魍魎たちを相手に案内版に書かれたクラスと名前を見ようとするが、残念ながらその小さな体では到底みることはできないだろう。
小さな娘のいる父親の気分を味わいながら手助けするかと思って声をかけようとすると、少女はすぐ後ろにいる俺の存在に気付いたのか、ゆくっりとこちらに振り向き、小柄な少女とは思えない大人っぽい声で俺に話しかけた。
「ねぇ? こんなに可愛い女子が困ってるのに手助けひとつできないの?」
先手を打たれた俺は、素直に手助けするのを緊急回避することに決め、ついでに嫌みのひとつでも言ってやろうと、その少女の脇をつかみ高々と空に掲げた。
「え? ちょ、ちょっと待ってよ!、ねぇってば!?」
俺は制止を促す声に完全無視を決め込み、初めて赤ん坊ができた父親のように高い高いをする。
「ほ~ら~ これで案内版が見えるだろ~、高い♪高い♪」
少女は羞恥で顔を真っ赤にし、手の指を俺に向けた。その目はまるでこれから銃を撃つ。降ろさないとひどい目にあうぞと警告しているようだった。
だが俺がなにか言う前に少女の指の先から力が集中しているのがわかった。
「泣いてもしらないんだから!!」
そう言った直後、少女の指の先から水から噴き出した。それはさながら高圧水流のごとき水圧で俺の顔面に恨みをぶつけるつもりなのだと瞬時に理解した。
俺の能力が発動する前兆はないことから、俺は顔面水流パンチを甘んじて受けることになった。
まるでプロのボクサーに殴られたごときの衝撃に耐えきれず、俺は後方にぶっ倒れた。少女が離された俺の手から解放されたことに安堵している姿を確認し、何事かと星川が俺の方に近寄るの見えたのを最後に、俺の意識はブラックアウトした。