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朱雀の羽

祇園の南。


細い石畳の通りを抜けると、

古い町屋が並ぶ一角がある。


格子戸。

赤い提灯。


その中の一軒に、小さな木札が掛かっていた。


神選組 朱雀隊舎


昼の光が中庭に落ちている。


ヒュッ。


空気を裂く音。


一本のナイフが飛ぶ。


次の瞬間。


その軌道がふっと歪んだ。


二本。


四本。


十本。


空中で刃が増え、羽のように広がる。


ドン、と音がして、木の的が砕けた。


中心には二十本以上のナイフが突き刺さっている。


「……うん。今日もいい感じ。」


女が軽く手を払った。


黒髪を後ろで高く結んだ女。


袖をまくった腕には、赤い紋様が刻まれている。


肘から手のひらまで伸びる神紋。


朱雀の紋だ。


赤峯椿。


神選組朱雀隊、副隊長。


縁側に座っていた隊士が口笛を吹く。


「相変わらず派手ですね、副隊長」


椿は振り向いて笑った。


「朱雀だからね。」


地面に刺さったナイフを一本抜く。


「地味じゃ似合わないでしょ?」


ナイフを指先で回す。


「それに――」


軽く肩をすくめた。


「当たるし。」


隊士たちが苦笑する。


そのとき。


格子戸が、カランと鳴った。


椿が顔を上げる。


入口に、一人の男が立っていた。


長い赤髪。


後ろで束ねている。


細身の体。


黒い羽織。


そして――


右目の眼帯。


左目だけが静かに庭を見ている。


赤羽和也。


神選組朱雀隊隊長。


椿は手を振った。


「おかえり、隊長。」


赤羽はゆっくり庭へ降りてくる。


その歩き方は静かだった。


足音がほとんどしない。


椿は首を傾げる。


「また祓い?」


「……ああ。」


低い声だった。


「嵐山まで遠征だった。」


椿はため息をつく。


「最近多いね。」


赤羽は空を見上げた。


祇園の空は青い。


「人が多い場所だ。」


静かな声。


「感情も多い。」


椿は腕を組む。


「妬みとか?」


赤羽は頷く。


「恨み。」


「僻み。」


「後悔。」


少し間を置いて言う。


「そういうものが溜まる。」


椿は笑った。


「人間ってめんどくさいね。」


赤羽は答えない。


ただ言った。


「それが神禍になる。」


神禍。


黒い影の身体。


白い穴のような目。


人の負の感情が溜まり、形になったもの。


神ではない。


祟りでもない。


ただの――


人間の残骸だ。


椿はナイフを回した。


「それ祓うのがわたしたち。」


赤羽の視線が、椿の腕に落ちる。


神紋。


肘から手のひらまで伸びる赤い紋。


「調子は。」


椿は笑う。


「絶好調。」


ナイフを一本投げる。


刃が空中で広がる。


羽のように。


木の的が砕ける。


椿が振り返る。


「どう?」


赤羽は短く言った。


「羽みたいだな。」


椿は得意げに笑う。


「でしょ?」


赤羽は少しだけ目を細めた。


椿はふと聞く。


「隊長。」


「なんだ。」


「眠ってる?」


赤羽は少しだけ眉を動かした。


「なぜだ。」


椿は肩をすくめる。


「顔。」


「死んだみたいだから。」


隊士たちが吹き出す。


赤羽は黙ったまま椿を見る。


椿は笑った。


「冗談冗談。」


ナイフを腰に戻す。


「でもさ。」


少し真面目な声。


「一人で祓いすぎ。」


赤羽は静かに言った。


「隊長だからな。」


椿は首を振る。


「違う。」


赤羽を見る。


「隊長だからじゃない。」


「隊長がそういう人だから。」


赤羽は何も言わない。


風が庭を通る。


赤い提灯が揺れる。


椿は空を見上げた。


「まあいいけど。」


笑う。


「でもさ。」


赤羽を見る。


「次の神禍は一緒に行く。」


赤羽は少し黙った。


そして頷いた。


「……ああ。」


椿は満足そうに笑う。


その笑顔を見て、赤羽はほんのわずかだけ目を細めた。


朱雀隊舎の赤い提灯が揺れる。


炎の色。


その炎は、まだ小さい。


けれど確かに――


動き始めていた。

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