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第1話 「日本終了のお知らせ」を見ていたら、神様に国作りを押し付けられた件

日本神話×現代社会

神社で祀られてる神様が続々登場し主人公ヤマトと日本を取り戻す物語。


スマホの画面をスクロールする指が、怒りで震えていた。

 まただ。また、訳のわからない法案が可決されようとしている。

「……こんなことしてたら、日本がなくなるぞ」

 俺、草薙ヤマトは、駅前のファーストフード店で冷めたコーヒーをすすりながら独りごちた。

 ニュースアプリのコメント欄は荒れに荒れている。だが、現実の世界では誰も声を上げない。外国資本による水源地の買収、行き過ぎた多様性の強要による伝統の破壊、そして国民を貧困化させる増税の嵐。

 陰謀論と言われるかもしれないが、俺にはどうしても、この国を裏から操る『大きな意思』が存在しているように思えてならなかった。顔の見えないエリートたちが、地図の上から「日本」という国境を消しゴムで消そうとしているような、そんな薄気味悪さ。

 だが、しがないフリーランスのシステムエンジニアである俺に何ができる?

 せいぜい、SNSで愚痴を吐き捨てることくらいだ。

 店を出ると、空はどんよりと曇っていた。梅雨の走りか、湿気が肌にまとわりつく。

 帰路の途中、ふと足が止まった。

 ビルの隙間に、小さな鳥居がある。

 毎日通っている道なのに、今まで気づかなかった。いや、気づいていたけれど意識に入ってこなかったと言うべきか。

 古びた石造りの鳥居。その奥には、小さな祠がポツンと鎮座している。

「……神頼み、か」

 今の日本に必要なのは政治家じゃない。もっと根源的な何かだ。

 俺は吸い寄せられるように鳥居をくぐった。

 賽銭箱に百円玉を投げ入れる。乾いた音が響いた。

 二礼、二拍手。

(どうか、この国をお守りください。俺たちの日本を、壊さないでください)

 一礼。

 顔を上げた、その時だった。


『――マジで? まだこの国、残ってたの?』

「え?」

 不意に、頭の中に直接響くような軽い声がした。

 周囲を見渡すが誰もいない。

『ちょ、ナギくん! 失礼でしょ。せっかく二千年ぶりにアクセスがあったんだから』

 今度は女性の声だ。艶やかだが、どこか棘のある響き。

 視界が歪む。

 ビルの谷間の風景が、ノイズの走ったテレビ画面のようにザザッとかすみ、次の瞬間、世界が反転した。

 そこは、雲の上だった。

 いや、比喩ではない。足元には乳白色の霧が広がり、頭上には突き抜けるような青空。そして俺の目の前には、二人の男女が浮いていた。

 一人は、アロハシャツに短パン、サングラスを頭に乗せたチャラそうな青年。

 もう一人は、黒髪のロングヘアにゴスロリファッション、そして眼帯をした妖艶な美女。

「……は?」

 俺の思考回路がショートする。

「よう。俺たちの声、届いた? 最近の日本人、Wi-Fiばっか繋いで俺たちへの回線(祈り)切ってるからさあ」

 アロハの青年がニカっと笑う。

「誰……ですか?」

「俺? 俺はイザナギ。長いから『ナギ』でいいよ。こっちは元嫁であり妹のイザナミ。『ナミ』ちゃんだ」

「ちょっとナギくん、元嫁って紹介やめてくれる? まだ籍(神話)は抜けてないつもりなんだけど?」

 ナミと呼ばれた美女の背後から、ドス黒いオーラが立ち上る。

 イザナギとイザナミ。

 日本神話における、国生みの夫婦神。

「え、あ、神様……ですか?」

「そ。正確には、その現身アバターだけどね。本体は高天原サーバーにあるから」

 ナギが軽く手を振ると、空中にホログラムのようなウィンドウが出現した。そこには、俺が先ほどまで見ていた日本のニュース映像が高速で流れている。

「ヤマトくん、だったね。君の嘆き、ログで読ませてもらったよ。日本、ヤバいねー。OSがウイルスだらけじゃん」

「ウイルス……?」

「そう。君たちが『ディープステート』とか『グローバリズム』とか呼んでる連中のこと。あいつら、ただの人間じゃないよ。古来よりこの国を狙う『虚無カオス』の眷属さ」

 ナギの表情から笑みが消える。サングラスを外したその瞳は、星空のように深かった。

「奴らの目的は『均質化』だ。国境をなくし、文化をなくし、性別さえも曖昧にして、すべてをドロドロのスープに戻そうとしている。俺たちが最初に『国生み』をする前の、混沌とした世界にね」

 俺は息を呑んだ。

 漠然と感じていた恐怖の正体が、神の言葉で言語化される。

「そんな……じゃあ、どうすれば」

「簡単よ」

 ナミが口を開いた。その手には、いつの間にか巨大なほこが握られている。

 七色に輝く、装飾過多な槍。

「もう一回、かき混ぜればいいのよ。この腐りかけた世界を」

「それが『天沼矛アメノヌボコ』。国作りの最強ツールだ」

 ナギが指を鳴らすと、その矛が俺の目の前に飛んできた。

「え、俺に?」

「神様は直接手出しできないルール(条約)があるんだわ。だから、現地のエージェントが必要なの。君、適性Sランクだし」

 俺が恐る恐るその柄を握った瞬間。

 ドクンッ!

 心臓が早鐘を打つ。血管の中に、マグマが流れ込んだような熱さが走った。

「う、おおおおおおっ!?」

「いいねえ、適合した。これで君は今日から『国生み実行委員長』だ」

 ナギがパチパチと拍手をする。

 その時、霧の下――下界から、不快な振動が伝わってきた。

「おっと、早速のお出ましだね」

 ナミが冷ややかな目線を下に向ける。

 霧が晴れ、新宿の街並みが見えた。だが、そこには異様な光景が広がっている。

 高層ビルの影から、灰色のスライムのようなものが湧き出していたのだ。

 それは不定形で、アスファルトを溶かし、看板の文字を消し、歩く人々の顔を「のっぺらぼう」に変えていく。

「な、なんだあれは!?」

「『均質化のスライム(グレイ・グー)』。レベル1の雑魚敵モブよ。個性を奪い、思考を停止させる概念兵器」

「あいつらに飲み込まれると、自分が何者かわからなくなって、ただ命令を聞くだけの家畜になっちゃうんだ。最近の若者が無気力なのは、あいつらのせいもあるね」

 ナギが軽い口調で恐ろしいことを言う。

 灰色のスライムは増殖し、俺がいる上空へ向かって触手を伸ばしてきた。

「ひっ!」

「ビビんなよヤマト。その矛で突けばイチコロだ」

「で、でも、戦ったことなんて!」

「戦い方は遺伝子コードに刻まれてる。君は日本人の末裔でしょ? 思い出して。理不尽に立ち向かい、調和を乱す者を討ち払う、その魂を!」

 ナギの言葉が、腹の底に落ちた。

 そうだ。俺はずっと怒っていた。

 大切なものが奪われていくことに。何もできない自分に。

 もう、我慢しなくていいのか。

 このふざけた侵略者どもを、叩き潰してもいいのか。

「――ああ、やってやるよ!」

 俺は矛を構えた。

 重いはずの矛が、羽のように軽い。

「その意気よ、少年。さあ、『塩』にしておしまいなさい」

 ナミが嗤う。

 俺は眼下に迫る灰色の触手に向かって、天沼矛を一閃させた。

「消えろぉぉぉッ!!」

 矛の先から、黄金の光が奔流となってほとばしる。

 それは物理的な衝撃ではなく、清浄な波動だった。光が触れた瞬間、灰色のスライムは「ジュッ」という音と共に蒸発していく。

『ギャアアアアア……サベツダ……ヘイトダ……』

 スライムたちが断末魔のようなノイズを上げるが、光は止まらない。

 一振りで、新宿エリアを覆っていた灰色の澱みが消え失せた。

 空気が澄み渡り、街に色彩が戻る。

「す、すげえ……」

「やるじゃん。それが『みそぎ』の力だよ」

 ナギが親指を立てる。

「でも、これはまだ序の口。敵の組織ヒエラルキーはピラミッド構造になってる。上に行けば行くほど、厄介な『思想』を持った魔物が出てくるわよ」

「メディアを操る『情報操作のキメラ』、教育を歪める『自虐のスペクター』、そしてその頂点にいる『国際金融のダーク・バンク』……。道のりは長いぜ?」

 ナギとナミが、俺の両脇に立つ。

 絶望的な状況のはずなのに、不思議と不安はなかった。

 手の中には、世界を書き換える力がある。

 背中には、最強の(そして少々キャラの濃い)神々がついている。

「上等だ。全部ひっくり返してやるよ」

 俺は矛を握り直した。

 こうして、平凡なSEだった俺と、チャラ男な男神、ヤンデレな女神による、現代日本の再構築リブートが始まった。

 まずは手始めに、来週可決されそうな売国法案を、霊的に廃案に追い込むとしますか。


「あ、ヤマトくん。ちなみに矛の使用料、一回につき寿命一日分ね」

「はあぁぁぁぁ!?」

「冗談よ(笑)。君の寿命なんていらないわ。その代わり、日本が平和になったら……私と結婚してね?」

「ちょ、ナミちゃん!? 抜け駆け禁止!」


 ……前途多難かもしれない。


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