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第6話 魔法がありふれた世界


「というかアレ見ろよあれ!!」


盗賊の一人が仲間に向かってリリアフィルを指しつつ言った。


すると男たちは、瞬く間に品の無い笑みを浮かべた。


「こりゃたまげた! よく見りゃバニーガールじゃねえか!」


「しかも見てみろ、エルフの耳まで付けてやがる」


「おまけにスタイルも極上じゃねぇか!」


「たわわなエルフのバニーって最高じゃねぇかよォ!!」


ジロジロと、舐めまわすかのようにしてリリアフィルを下から上へと見つめる盗賊の男たち。


恥じらいよりも恐怖が勝ったリリアフィルは、ジュラフォードの背に隠れ小さく縮こまった。


「そりゃあ、お前の趣味か? 俺たちにも、ちっと味見させてくれよ」


「なぜ魔法が使えるのかは知らんが、俺が戦うまでもないというのは確かなようだな」


「ナメてんのか!? テメェ!」


ジュラフォードの余裕の一言に怒りを露わにした盗賊の一人が、先ほどとは打って変わって水の魔法を展開した。


「死にやがれ!!!」


男の両手からは、高圧力の激流が一直線にジュラフォードを目掛けて放たれた。


しかし、ジュラフォードの余裕は崩れることなく、堂々と構えていた。


「え、ちょっと! このままじゃ……!」


リリアフィルが狼狽していると、既の所で、短剣を手にしたユバが割って入った。


勢いよく押し寄せる水流を、たった一本の短剣ではじき返すと、盗賊たちの顔色が変わった。


「嘘だろ…… あんなガキが俺の魔法を!?」


「ユバ、少し大人しくさせてこい」


「よぉーし! やっちゃうぞぉー!」


「殺さない程度にだぞー!!」


ユバはその忠告を背中で聞きながら「おぉー!」と応え、勇猛果敢に攻め込んだ。


「あの、大丈夫なんですか? ユバちゃん一人で……」


「心配か? それならアイツらにくれてやれ」


ニタリと笑みを浮かべるジュラフォード。


リリアフィルは恐る恐る、ひょこっと顔を覗かせて視線の先を見つめる。


「えいっ! とりゃー! うぉぉぉー!」


目に映ったのは、魔法を駆使する大人が寄って集っても、一人の子供に手も足も出せない無様な有様だった。


振りかぶった剣はくるりと躱し、背後からの攻撃は上手く誘導し別の盗賊へぶつけさせる。


すばしっこいユバに、盗賊たちはあえなく敗北を喫した。


「やい! 降参かっ!」


「は、ひぃ…… 降参です……」


「お~~~~い!! 二人ともぉ!! 終わったぞぉ~~!!」


元気よく呼びかける声には、微塵の疲労も感じさせなかった。


「す、すごい……!」


「俺が一通りのことは仕込んだ。大人の男だろうが並みの相手ならあの有り様だ」


自慢気な顔を浮かべ、ジュラフォードはユバの捕らえた盗賊たちの元へと向かった。


「ところでお前ら、なぜ魔法を使える? 魔法はグランヴァーエが管理しているはずだ。それともなにか、非合法で使っているのか?」


畳み掛けるように問い質された盗賊たちは、怪訝そうな表情で返した。


「グランヴァーエ……? さっきからなにを言ってんだ? マジで何も知らねぇよ!」


必死な顔を見て、それが嘘ではないと瞬時に理解したジュラフォードは、さらに質問を変えた。


「世界は全てグランヴァーエが統治してる。魔法もだ、そうだろう?」


「はぁ……? だから何を言ってんのかわかんねぇよ!!」


「一体どういうことだ……? ならば、お前らが魔法を使える理由は!?」


「あのよぉ、頭とか軽くイカレちゃってんのか? 魔法が使えることのどこが不思議なんだよ!? このくらいお前だって使えるだろ!」


ジュラフォードは目を点にし、頭を抱えた。


かつては、魔法という代物は全て、帝国に管理されていた。


そして、帝国が設立した〝王立魔導協会〟と呼ばれる組織のみが、魔法の使用とその研究を許可されていた。


それ以外の全ては違法であり、帝国に見つかれば粛清されるのが決まった未来であった。


ゆえに人々はその力を恐れ、そして敬遠していた。


だがしかし──


目の前には魔法をありふれたものとして認識し、それを自由に使いこなす盗賊。


おまけに、その盗賊は王立魔導協会もグランヴァーエ帝国も知らないと答える始末。


それらは決して嘘やハッタリの類ではない。その事実がジュラフォードの脳内を、不可解という言葉で埋め尽くしていた。


「俺が山に籠ってた間…… なにがどうなったと言うんだ……?」


ここでは答えの出ない疑問が何度も脳内を駆け回り、思わずその場に立ち尽くす。


ニタリ……


ジュラフォードが考え込んだその一瞬の隙を突き、生じた油断を利用して男の一人がナイフを持って立ち上がった。


その凶器は、吸い込まれるようにリリアフィルへと向かっていく。


「もらったッ!!!」


その目的はただひとつ、人質を取って戦況を逆転させること。


自分に向かうナイフの切っ先に狼狽したリリアフィルは咄嗟に構えた。


ナイフの男は、凶器をちらつかせながらジュラフォードを脅した。


「おい、テメェ!! そこのガキもだ! いいか、大人しく言うことを聞け!! さもなきゃこの女は痛い目を見るぞ!」


手入れが行き届いていない切れ味の劣ったナイフをリリアフィルへと向ける。


「そうか。では好きにしろ」


「そんな…… ジュラフォード様……」


予想外の反応に思わず尻込みするナイフの男。


そして期待していた反応とは違ったばかりに、わずかに憂えるリリアフィル。


「おい! もうやっちまえ!!」


仲間の盗賊の煽りを受けると、男はナイフを強く握り締めて勢い任せに力を込めた。


「えぇぇぇい!! どうなってもしらねえぞ!!」


リリアフィルは思わず目を瞑り、恐怖のあまり小さく身を縮めた。


その肩は小刻みに震え、身に染みた恐怖が窺い知れる。



ドゴン………ッ!!



「うぁぁぁ!!!」



リリアフィルの体に凶器が迫ろうとした、その瞬間のことだった。


男が弾き飛ばされたかと思うと、ナイフと共に弧を描くように見上げるほどの高さまで打ち上がった。


やがて空から聞こえる悲鳴は、ズゴンという地面を叩き付ける重たい衝撃音へと変わる。


「あの小娘…… なんて強さだ……」


自分に一体なにがあったのか分からぬまま、肘や背中まで体の隅々を確認するリリアフィル。


その無傷の体からは、ほんのりとキラキラ輝く黄色いオーラのようなものが放出されていた。


「それが聖装の持つ力だ。降りかかるあらゆる災いを跳ね除ける。それを着ている限り君は《《無敵》》だ」


ジュラフォードが得意げにその力の正体を明かす。


「これが……?」


改めて体をなぞって確認するも、かすり傷の一つさえもなかった。


盗賊たちはすぐに悟った。このままではどう足掻いても勝ち目はないのだと。


「すみません…… 命だけはお助けを……!」


一人が命乞いをすると、他の盗賊たちも一斉に命乞いを始めた。


ほとほと呆れるものの、ジュラフォードにとっては殺す理由まではない。


ジュラフォードは見逃す代わりにと、ずっと引っかかっている疑問の答えを求めた。


「改めてもう一度問う。お前らはなぜ魔法が使える?」


至ってシンプルな質問に、盗賊は肩透かしを食らったような反応を見せる。


「なぜって…… 本当におかしな事を言うぜ。魔導書さえ読めば魔法は誰だって使えるだろう? それにこんな下級魔法なら口頭で伝授レクチャーされれば誰でも……」


「魔導書だと……? 協会が厳重に管理していたはずだ。なぜそんなものまで出回ってる!?」


「その協会ってのも、さっき言ってたナントカってのも俺たちは本当に知らねぇ! もうこの通りだ! 見逃してくれ!」


「チッ……」


少しの苛立ち混じりに舌打ちを鳴らすと、ジュラフォードは「早く失せろ」と鋭く響く低音で言い放った。


すると、我先にと一目散に盗賊は森の中を逃げ惑うようにして駆けて行った。


「一体、なにがなんなんだ……」


「ジュラフォード様が山に篭る前は、今みたいじゃなかったんですか?」


「あぁ…… そうだ、お前は何か知らないか?」


「いえ、すみません…… エルフ族以外の人を見たのもジュラフォード様で初めてですし。それに私は魔法なんて知りもしませんでした……」



スンスンスン……



すると、ユバは鼻を鳴らして嗅覚を研ぎ澄ませていた。


「こっち! 人の匂いがいっぱいだ!」


盗賊たちが逃げた方角から右に45度逸れた北東を指した。


「そうか…… 奴らでは情報収集がままならなかった訳だ、少しでも人の多いところを目指すか」


ユバの超人的な嗅覚を頼りに、三人はここより北東に位置する人のいる場所へと進んでいった。


しばらく歩き続けたその道すがら──


次に行く手を阻んだのは、ユバと体格差のない魔獣・ゴブリンの群れだった。


「ギィィィィアアア!!!」


「こいつら…… 魔獣か? なぜこんなのが野放しになってやがる……」


「ジュラフォード様……!」


「あぁ、任せろ。すぐに終わらせる」


十数の群れが、石造りの短剣を振りかぶり唸り声を上げながら突撃を始めた。


カチャン……


「失せろ!」


ジュラフォードは背から得物を抜くと、右腕のみを一杯に使って、横振りの一閃を放つ。


ブォォンと、耳をつんざく轟音を伴った衝撃波がゴブリンの群れを纏めて切り裂く。


「す、すごい!!」


リリアフィルが驚きを滲ませつつ見つめるのは、体が真っ二つに引き裂かれたゴブリンの死体だった。


何事もなかったかのように平然と得物を納めると、ジュラフォードはゴブリンの亡骸を跨いで先を進んだ。


その隣をユバが続き、リリアフィルはというと、思わずその場に立ち止まり考え込んでいた。


『ジュラフォード様の知ってる世の中となにが変わっちゃったんだろ……』


「おーい!! リリアっー!! どったのー! 早く行くぞーっ!」


ユバが頭の上で小さく手招きすると、リリアフィルは小走りで後を追った。


「ううっ……」


ジュラフォードやユバと違い、リリアフィルはゴブリンの亡骸に目をそむけ、背筋を震わせた。


追いつく頃には息も上がりきっていたリリアフィルは、道すがらに訊ねた。


「あの…… ひとつ、いいですか?」


「どうした?」


歩幅を小さくし、歩調を合わせながらジュラフォードが答える。


「えっと、先ほどの盗賊たちとのやり取りですけど…… 魔法は協会がどうとかって」


「そのことか、いいだろう教えてやる」


そう切り出すと、ジュラフォードは在りし日の世界について話し始めた。



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