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第51話 旧帝国の壊滅


リクスヘルデンは難しい表情をしながらも、話し始めた。


「魔導協会の歴史は古い。ご存知の通りかつては協会だけが魔法を扱えた…… そして、我々や御三家はその協会の魔導師をルーツに持つ家系だ」


「あぁ、だが協会だけが魔法を扱えるってのは俺が山へ籠る前の時代の話だ」


「ですが今は違う。協会は既に解体されている。それは私が生まれた何百年も前からそうだった」


「なら、帝国直下の協会によって管理されていた魔法が解放されたのも、それが関係しているのか?」


ジュラフォードが食い入るように真剣な面持ちで投げかける。


「私は62年しか生きていない。それゆえに自分で見たことは数少ない。だが歴史書によると、ちょうど貴方が山に籠ってすぐのことだ。世界が傾く事件があったのは……」


眉をピクリと動かして反応したジュラフォードに、リクスヘルデンは慎重に続けていく。


「帝国を治めていた王の崩御。それと同時に旧帝国の解体と、新生王国の誕生。全てはこれらを発端に始まっておる」


「つまり、裏で誰かが糸を引いていたわけだな?」


「えぇ、ですが表向きにはその事実は認められていない。ゆえにその本当の歴史の真実を知る者は少ない……」


ジュラフォードは顎に手を添えて、考え込むように静まった。


「そして新たに王となったのはシュラウゼントという人物だ…… どうにも不思議なことに、彼もまた貴方と同じ不老のようだ」


「なに……!?」


驚きを抑えられず、ジュラフォードからは思わず声が漏れた。


「シュラウゼントは、烙印同盟という組織の団長でもある。王でありながら私兵団の長…… 私はどうもこの構造が不可解なのだ。もっとも、貴方の知る烙印同盟は形骸化しておるがね」


以前、ベウニルから聞かされた名前──


シュラウゼントとは一体何者なのか、ジュラフォードの脳内にはその疑問が強く渦巻いていた。


「そのシュラウゼントってのは何者だ? 以前立ち寄った村で名前だけは聞かされた」


「これが私にも正体が分からぬのです。なにせ奴は〝素顔を見せない〟と言われている」


「素顔を見せないだと?」


「えぇ。だが問題は団長でありながら王という構造だ。こればかりは私にも…… なにより父から強く言われたのです。〝あまり詮索をするな〟とね」


ジュラフォードはまるで放心したかのように黙り込んでいた。


魔法の解放は、旧帝国の王の死去から始まったということ。


そして団長でありながら王であるシュラウゼントの存在──


この繋がりが、新たな手掛かりとなった。


「私が知ることはそのくらいのものです。歴史書も今や持っているだけで危険。何年も前に全て廃棄しました。それに私が生きてきた年数など、歴史からすればあまりにも短い。力になれず申し訳ない……」


「いや、いいんだ。これで一歩近付いた気がする。そのシュラウゼントってやつに辿り着けば答えは見えてきそうだ」


「もちろんおっしゃる通りだ。だがシュラウゼントはどこにいるのかさえ分からぬ…… 素顔も知らないとなれば見つけようが……」


そこでふと、話を脳内で整理していたジュラフォードはある疑問を抱いた。


「待てよ? そもそも魔法を解禁させた理由はなんだ?」


その鋭い問いに、リクスヘルデンは尻込みしながらも言葉を捻り出した。


「そ、それは…… 私にも詳しいことは分からない…… だが一つだけ仮説がある。それは神具だ」


「神具? それがどう関係すると言うんだ?」


「ジュラフォードさんは知っていますか? 〝究極の神具〟を」


リクスヘルデンの問いに、ジュラフォードは首を傾げ聞き返した。


「そうか、ご存知でないか。究極の神具と呼ばれるそれを起動するのに膨大な魔力が必要とされているんです。もしかすれば、それが関係しているのではないかと……」


「それもお前の一族が持っていた文献で知ったのか?」


「これは父から聞かされた話です。貴方に会うまではずっと与太話と思っていたが……」


「なるほど。どちらにせよこれ以上はお前に聞いても答えは出ないってところか」


「申し訳ない……」


リクスヘルデンが力なくそう答えると、ジュラフォードは懐から一冊の手記を取り出し、それをリクスヘルデンに手渡した。


「これは書庫にあったものだ。少し拝借させてもらった。お前なら中身を読めるんじゃないのか?」


「こんなものが書庫に? ほぅ、随分と年季がある……」


渡された手記を凝視するようにぺらぺらとページをめくっていくリクスヘルデン。


「これは魔法で文字が暗号化されているが、間違いなく我がティダンベルグ家の暗号魔法だ。しばし待たれよ」


リクスヘルデンは手記に魔力を込めると、記されていた文字が踊るように動き出し形を変えていった。


「ふむ…… これは……」


改めて中身に目を通したリクスヘルデンはジュラフォードにその内容を告げる。


「私のご先祖が、ジルディータとヨテルという方とともに〝桃源郷〟を作ったと書かれておる」


「ご先祖ってのは、アインフォーデンのことだな? その古ぼけたサインは俺にも読めた。だがウリスゼラは知らないと言っていたぞ?」


「それは無理もないでしょうな。アインフォーデンは私の曾祖父だ。名前しか聞いたことがない。それも昔の家系図でだ」


「ウリスゼラから見れば、四代前の先祖か…… なら知らないのも頷けるな」


「アインフォーデンお爺さんは、どうやら面白いことを考えていたようですな」


リクスヘルデンは微笑みながらそう言うと、ページをめくる手を止めず、書かれている桃源郷の詳細を語った。


「なんでも…… 種族の隔たりがなく、苦しみも悲しみもない、平和と安寧の安住地だそうだ。私も一度は行ってみたいものだ」


「その風景画の孤島のことか?」


「どうやらそのようですね。文章を暗号化していた理由も分かりました。座標がしっかり記されている」


ジュラフォードは思い付いたようにリクスヘルデンに一つの質問をした。


「その桃源郷に、寿命の長い種族はいると思うか?」


リクスヘルデンは再び手記に視線を落としながら返した。


「ドワーフ族がいると書かれている。彼らは貴方が生きている年数とほぼ同じくらいが寿命だ。まだ生きているなら老年だと思うが、当時の話を聞けるかもしれませんな」


「せめてジルとヨテルのことが分かれば、王の死の真相にも迫れるかもしれない…… あいつらのことだ、必ず何かに書き残すはずだ」


「よほど信頼しておられるのですな」


「あぁ、遥か昔に同じ釜の飯を食った仲だ」


リクスヘルデンは目尻に深々と皺を作りながら微笑むと、そっと手記をジュラフォードへ渡し返した。


「なんだ? これは俺が勝手に持ち出したものだぞ?」


「いいんです。持って行ってください。ご先祖様もその手記の中でまた冒険が出来ると喜ばれるはずだ。それに所在地も記されているのでね」


「そうか、恩に着る。では遠慮なく貰うぞ」


再び手記を懐に仕舞うと、ジュラフォードは「そうそう」と切り出しながら、リクスヘルデンに書庫荒らしについて話した。


「なんですと…… 隠し部屋が……!?」


「あそこに眠らせていたのは、やはり禁忌魔法の魔導書か?」


「えぇ…… それもとんでもない魔法です。生者の命と引き換えにする死者蘇生の禁忌魔法だ」


ジュラフォードはそれ以上、深く追求することはしなかった。


ただ一言「ベヒーモスじゃ門番にならない」と冗談で締め括った。


『帝王の死が発端となった魔法の解放…… 闇雲にシュラウゼントとやらを追うよりは、当時を知るジルやヨテルに繋がる桃源郷を目指す方が良いだろうな……』


ジュラフォードの中で次の目的地が決まった瞬間だった。


すると、リクスヘルデンが和んだ表情でジュラフォードに語りかける。


「船は私の方で手配しよう。港に預けたのが一隻あるが随分と乗ってないのでね。少し確認を取ってみるよ」


「色々とすまないな」


「なにをおっしゃる、貴方は恩人だ。今晩は祝賀会といきましょう! 先程よりも贅沢な食事を用意させます。それまでお部屋でくつろがれるといい」


「あぁ、そうさせてもらうよ」


ジュラフォードは少し晴れた様子で、リクスヘルデンの私室を後にし、用意された客間へと向かっていった。





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