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第49話 異界の契約竜




──リクスヘルデンの私室



肩で呼吸をし、ぴくぴくと腕を振るわせるメルマドゥナは、リクスヘルデンが放った言葉に息を呑んだ。


「あれは…… 契約竜だ……」


絶望に満ちたリクスヘルデンの一言は、それだけでメルマドゥナが込める魔力の勢いを削ぐのに十分だった。


「異界から召喚された竜のことね? でもそんなの、禁忌魔法でしか……」


「相手も手段は選ばぬということか……」


メルマドゥナは表情を曇らせたが、すぐに気を取り直して状況確認を迫った。


「ほ、ほかは!! ジュラ様が到着しているんじゃないの!?」


「ここからでは何者かは分からぬが、先程起こった衝撃波で敵の数が大幅に減った……」


メルマドゥナはそれがジュラフォードと確信したのか、表情が和らぐ。


だが、リクスヘルデンはそれ以上に気がかりな存在に気付いていた。


『あれは間違いなくウリスゼラだった…… また魔法を暴走させたのか……!』


魔法を発動させたウリスゼラにリクスヘルデンが暗い顔をして憂慮していると、メルマドゥナが契約竜について触れた。


「だけど…… そんな規格外の召喚魔法は結晶を使っててもそう易々と使えるはずもないわ! 一体誰が……」


その疑問の一言に、リクスヘルデンの脳裏をエルグリア家の存在が過った。


「このレベルなら、召喚魔法が得意なエルグリア家なら…… だがしかし……」


「へぇ、なるほどね。御三家なら使えても不思議じゃないわね。それなら納得だわ」


リクスヘルデンはそのとき、胸中でウリスゼラとジュラフォードのエルグリアに関わる言葉も蘇った。


『もしや…… 本当にエルグリアが…… ならばウリスゼラは……』


冷たい汗がリクスヘルデンから流れ出す。


そして、契約竜の存在に気付いていたのは、リクスヘルデンとメルマドゥナだけではなかった。







──シフルリアの私室



リリアフィルは耳に響く地鳴りから、なにやら異変が起こっていると察する。


『もしかして、ジュラフォード様……!?』


期待に表情を明るくしたリリアフィルは、ユバの目に悟られぬようカーテンを掻き分け窓の外を覗いた。


『な、なんなのあの竜……!!』


真っ先に視界に飛び込んだのは、異質な存在感を放つ異界の竜。


しかしリリアフィルはすぐに、視線を走らせジュラフォードの姿を探した。


『いた……!! ジュラフォード様……!!』


ジュラフォードが到着し、既に交戦していることに気付いたリリアフィル。


喜びで笑みが溢れかけていたが、近くにいたウリスゼラを一瞥した途端、その表情は曇った。


『あれはウリスゼラちゃん……? でも様子が……』


ドクドクと胸を打つ鼓動は押さえられず、居ても立ってもいられなくなったリリアフィルは慌てて部屋を出ていった。


『帝剣を使うなら、私が傍にいないと!』


血相を変えたリリアフィルを、シフルリアと遊んでいたユバが気付く。


「わ! リリアだけズルい!! ユバたちも行く~!」


そういうと、ユバはシフルリアの手を半ば強引に引いてその後を追いかけた。


「あ、ちょっと! ここにいなきゃダメですよ! もう……!」


子守り役を買ってでていたパルメリーヌも、釣られるように部屋を抜け出ていった。







──屋敷外 周辺




「うぁぁぁぁあああ!!!!!」


暴発するウリスゼラの魔法が周囲の残存していた魔獣を悉く滅ぼしていく。


ニハイルドは乗っていたドラゴンを捨て、契約竜に乗り移る。


「抑えろ!! ウリスゼラ!!」


しかし、ジュラフォードの声は届くことはなかった。


猛る火焔、吹き荒れる暴風、乱れ舞う岩石、唸りを上げる激流。


あらゆる属性の魔法を、ウリスゼラは解き放っていた。


「ウリスゼラァ……!! 僕の邪魔しやがって……!! やれ、竜!!」


ニハイルドが標的をウリスゼラへ切り替える。


「ヴァァァァァアルルル……!!!」


契約竜はニハイルドの言葉に呼応し、巨大な口を最大まで開き、魔力を高め始める。


「うぁぁあああ!!!」


ウリスゼラの魔法乱射は留まらず、契約竜へ雪崩のように押し寄せる。


「無駄だよ…… いくら君の魔法が優れててもこの竜には効かない」


契約竜はウリスゼラの激しい魔法を受けても一切の衰えを見せていなかった。



「リリアフィルを当てにする訳にもいかない…… このままでは……」


圧倒的な契約竜の力を前に、ジュラフォードは帝剣を使う覚悟を決める。


ジュラフォードが左手に触れかけたそのとき、背後から息を切らしたリリアフィルの声が聞こえた。


「はぁはぁ……! ジュラフォード様!! 迷わず使ってください!!」


「リリアフィル……!!」


振り向いた先にいたリリアフィルの強い意思を秘めた顔を見つめると、ジュラフォードはこくりと頷いた。



シュルル……



左手の封印が解かれると、左手を覆う漆黒が雲のような形状、次に剣の姿へ変わっていく。


ジュラフォードは全速力で地上を駆け巡り、瓦礫を踏み台にして天高く舞う契約竜の前へと躍り出た。



そして──



けろ───ッ!!!」



その言葉とともに、審判の閃光が振り下ろされた。


「ヴァァァアル……!!」


漆黒から神々しき光を放つ剣へと変容していく帝剣──


契約竜は、粒子状の光となり消えていった。


「ひっ、ひっ、ひぃぃぃ……!!!」


ニハイルドは激しく怯えた表情でジュラフォードを見つめながら落下していった。


「言ったろう、お前を引きずり下ろすと……」


ジュラフォードはそう言うと、すーっと地面へ着地する。


それと同時に、左手に戻った帝剣のもたらす激痛がジュラフォードを襲う。


「ジュラフォード様!!!」


すぐさま駆け寄ったリリアフィルが、ジュラフォードの左手に触れる。


「手を煩わせてすまんな……」


「いいんです。これが私の役目だから」


辺りから魔獣は消え、契約竜も殲滅された。


全てが終わった。


リリアフィルが安堵して胸を撫で下ろした、その矢先──



「うぁぁぁぁぁああ!!!!」



戦いは終わったと言うのに、ウリスゼラは溢れる魔法を抑えられないでいた。


するとそこへ、リリアフィルの後を追って来たユバとシフルリアが現れる。


「わ!! どーしたの!!」


ユバは暴走するウリスゼラに問いかける。


シフルリアは、悲しそうな目で繋いでいるユバの手をぎゅっと握った。


「うぁぁぁぁあ!!!」


なんとウリスゼラは、魔弾を溜めている両手をシフルリアとユバへ向けた。


それを見ていたジュラフォードが、険しい表情で声を漏らす。


「まずいっ……!!」


リリアフィルに痛みを鎮められている最中であるのに、ジュラフォードはウリスゼラの元へと向かおうとした。


「ウリスゼラ!! お前が狙っているのは妹だぞ!!」


「ちょっと、いま動くのは無茶ですよ!」


引き留めようとするリリアフィルに、ジュラフォードはウリスゼラを見つめたまま小さく返した。


「俺はあいつの命を全部預かってる……」


「そんなことって……」


それでもジュラフォードの体は痛みには逆らえず、リリアフィルの元から離れることは出来なかった。



一方のウリスゼラは、ユバや後を追って来たパルメリーヌの問いかけにも応じず魔弾を放とうとしていた。


「うぅ……」


ユバは涙目になりながら表情を曇らせる。


遠くで見つめるジュラフォードとリリアフィルも、そして傍にいるパルメリーヌも、そこにいる誰もが諦めかけたそのとき──



「……お……… お姉様……!! やめて!!」



声を失っていたはずのシフルリアが、振り絞りながら叫んだ。



「あぁぁ…… オレはァ……!!!」



ブゥゥォン……!!



ついにウリスゼラから魔弾が放たれた。


「くそっ…… 間に合わなかったか……!」


ジュラフォードの視界の先では、強烈な魔弾がシフルリアやユバたちの方へと向かっていく。



すると、そのとき──



魔弾の軌道がぐっと左に逸れ、シフルリアたちの真横を通り抜けた。


「どういうことだ!?」


ジュラフォードは軌道の先へ視線を向ける。


「ガァァァア!!!」


そこには、一匹のサイクロプスがけたたましい足音を立てながらシフルリアを目掛け襲い掛かっていた。


さらにその背後には、最後に召喚魔法を使い事切れたニハイルドが力なく転がっていた。


ジュラフォードは一目見て、僅かに残った生命力を使って召喚したものだと理解する。



轟音を響かせ軌道を変えた魔弾は、シフルリアではなく背後のサイクロプスに直撃した。


「まさか、あのサイクロプスを狙っていたのか……!!」


目を丸くしながらウリスゼラを凝視するジュラフォード。


そこには──


「シフルリア……!!」


「お、お姉様……!!」


涙を流しながら、妹と抱き合うウリスゼラの姿があった。



「ふっ…… 心配かけさせやがって……」


ジュラフォードは、ついに魔法を制御したウリスゼラを見て安堵の笑みを浮かべた。


「よかった…… よかったですね……」


リリアフィルの頬を伝う涙が、ぽつりとジュラフォードの左手に落ちる。


「これで終わった。リリアフィルも、ありがとうな」


「はい……!!」


表情こそ穏やかなジュラフォードだったが、その胸の内ではひとつだけ残った疑問が引っ掛かっていた。


『あの召喚された竜…… 腹に刻まれていた紋様は間違いなく烙印同盟と同じ紋様だった…… 聖戦あのときと同じ……』


未だ解けない謎を残したまま、ジュラフォードはリリアフィルと共にウリスゼラたちの元へ向かう。


「さあ、ウリスゼラ。とりあえず屋敷へ戻るぞ」


「あぁ!」


ジュラフォードたちは、リクスヘルデンとメルマドゥナの待つ屋敷へと帰っていった。




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