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第48話 ジュラフォードVS魔獣の軍勢


ティダインベルグ領 屋敷・リクスヘルデンの私室──



「私がバリケード全体にバリアを張るわ。貴方は陣頭指揮を取りなさい」


メルマドゥナは眉間に皺を寄せ、足元に浮かぶ魔法陣の上で、魔力を高めながらリクスヘルデンへ言った。


「ど、ど、どうしましょう!? 私は、私は何を手伝えば!?」


メルマドゥナと窓の外とを交互に見つめながら、困惑した表情を浮かべるリリアフィル。


「リリちゃん、落ち着きなさい。こういう時は冷静になるのよ。ジュラ様みたいにね」


「そ、そっか…… ジュラフォード様みたいに……!」


リリアフィルは静かに深呼吸を始めた。


ドシンっと地響きが轟く。強襲する魔獣の衝撃に怯むことなく考え始めた。


『こんなとき、ジュラフォード様だったら…… 一瞬で倒しちゃう…… じゃなくて! 私が出来る範囲で……』


なにか答えが出たのか、リリアフィルは勇ましい表情でリクスヘルデンの部屋を後にした。


それを横目で見つめていたメルマドゥナが、ほんのりと微笑みながら呟いた。


「そう、貴方は無理に戦う必要なんてないの」



リリアフィルと行き違うように、騎士がリクスヘルデンの部屋へとやってきた。


「リクスヘルデン様! 魔獣の数はおよそ数百です! ほとんどがサイクロプスと思われます!」


メルマドゥナから少し離れた後ろにいるリクスヘルデンは、騎士の報告を聞きつつ窓から外を眺めていた。


「なんということだ、ガーゴイルとドラゴンも居るではないか……!!」


リクスヘルデンの表情が苦悶に歪む。


くるりと騎士の方へ向くと、避難命令を発動し配備させていた騎士全員を屋敷内へ戻るよう告げる。


すると、窓を見ている余裕のないメルマドゥナは、手を翳したままリクスヘルデンに問いかけた。


「ドラゴンって本当に言ってるの!?」


額には冷や汗が伝い、その声は驚きに震えていた。


「それもざっと数えただけで五体。あのレベルとなれば間違いなく禁忌魔法で使役しておるのだろう……」


微塵の余裕も感じられないリクスヘルデンに、メルマドゥナは口角を上げながら自信ありげに言い放った。


「ジュラ様が戻ってくれば、どうってことないわ。絶対そうよ。だからそれまで、なんとしても私と貴方で食い止めるわよ!」


リクスヘルデンの眉がぴくりと動く。


「何をバカな…… そんなことありえるはずが…… 結晶さえ持ち帰ってくれればそれで済む話だ」


リクスヘルデンは、壁に立て掛けていた杖を手にすると魔力を込めた。


ブォォン……


紫の魔法陣を放つメルマドゥナと違い、赤の魔法陣がリクスヘルデンの足元に浮かぶ。


まるで氷付けにでもされていくかのように、屋敷にはリクスヘルデンの発動したバリアが下から上へと張り巡らされていく。






屋敷 シフルリアの私室──



「じゃあユバちゃんシフルリアちゃん、今度はお人形さんで遊ぼっか!」


リリアフィルは気丈に笑いながら、子供二人に人形を差し出した。


シフルリアは屋敷の内部にまで伝わる地響きから不穏な気配を感じ取り、その表情には怯えが見えていた。


「ユバは外でかけっこしたいよ~! ねえ、なんで外に出ちゃダメなの~?」


一方のユバは、シフルリアと違い異変をなんとも思っていないのか、きょとんとしていた。


「お願いだから、ね? これも修行なんだよ! ジュラフォード様が言ってた! 剣士たるもの何事にも忍耐せよ…… って!」


ジュラフォードの物真似を交えながらユバをあやしていると、パルメリーヌが耳打ちで訊ねた。



「やはり魔獣の仕業なのですね?」


リリアフィルは固唾を飲みながら、パルメリーヌに小さく頷き返す。


「ねー、何の話?」


「あ、ごめんね! 今日の晩御飯がすんごいのって教えてくれたんだよ!」


「ばんごはん!!! なにくれるの!!」


食事の話に食いついたユバに、ホッと胸を撫で下ろしながら話を広げる。


パルメリーヌも口裏を合わせ、この私室から出ないよう力添えをしていった。


『ジュラフォード様…… 早く……』


カーテンで閉ざされているというのに、不安そうに窓を見つめるリリアフィル。


その表情は、強い焦燥で溢れていた。







ティダインベルグ領 近郊──



全速力で馬を駆るジュラフォードとウリスゼラは、遠方に見えるドラゴンを見つめる。


「なるほどな…… 総力戦がお望みというわけか」


ジュラフォードが呟くと、ウリスゼラが固い表情で返した。


「あれだけの数、きっと相当の結晶を使ってるに違いない! 油断するなよ!」


「あぁ、俺は魔法を見くびったりはしない……」


馬はラストスパートをかけると、ジュラフォードたちは林道を抜けていく──


そして、ようやく屋敷の周辺へ辿り着くと、魔獣の群れがバリケードを覆っていた。


「あそこに屋敷があるなんて到底思えないほどだな……」


「わわ、うわぁ……!! やべぇよ、どうすんだよこの数!!」


慌てふためくウリスゼラを背に、ジュラフォードは馬から降りると、冷静に辺りを見回した。


その視線は、空に浮かぶガーゴイル、地上のサイクロプス、そしてドラゴンに乗っているニハイルドまでを捉えた。


最後に視線を屋敷から聳える光の柱に向ける。


「あの光はなんだ?」


「……ん? あぁ、あれはバリアだよ。でもクソ親父のより精密だな。あのメルなんとかって魔女のだと思う」


ウリスゼラは馬から降り、着ているバニースーツのカップの位置を直しながら答えた。


「そうか…… メルマドゥナのやつ、やるときはやるじゃないか。なら本気をぶつけても大丈夫そうだな」


嬉しそうに笑みを浮かべながら、ジュラフォードは剣の柄に手をかける。


「手加減無しでいく。離れてろ、ウリスゼラ」


ジュラフォードは、そのとき浮かべたウリスゼラの少し寂しげな表情の意味を理解できなかった。



ウリスゼラは黙って素直に離れようとはしたが、脳裏には少し前に見た、獣の目をしたジュラフォードが過っていた。


ぎゅっと胸を締め付けられる感情が込み上げる。


しかしウリスゼラは、ジュラフォードに一言だけ言葉を残した。


「オレ、ジュラフォードにだけ辛い思いさせるつもりねえから! 守るために、オレも戦うよ」


心からの言葉を聞いたジュラフォードは、ふと昔のことを思い出すと表情が和んだ。


「おまえ、フェレインそっくりだな。ふっ…… 分かったよ」


「フェレイン? 誰だよそれ」


「まぁ、平たく言えば〝戦友〟だ。とうに死んじまってるだろうがな」


「そっか…… 〝戦友〟か……」


すると、ウリスゼラはジュラフォードに拳を握った手を突き出した。


「ん!」


「なんのつもりだ?」


「オレの命、半分預けるぜ相棒」


ジュラフォードはさらに微笑みながら、左手の拳で返した。


「いや、全部だ」


ウリスゼラはそれ以上なにも言わず、笑顔のままジュラフォードに背を向けて離れていく。


『戦友か…… でも、ありがとう……』


心のなかでなにかが吹っ切れたのか、ウリスゼラは満足げな表情に変わった。


そして、十分な距離を取ると、ジュラフォードに叫んだ。


「いいぞーーー!!! やっちまえーーー!!!」


その言葉を遠くから聞いたジュラフォードは、剣を構えた。


全身全霊を一本の剣に込める。


溢れ出るオーラは大気を揺らす。


屋敷を取り囲む魔獣の、最後尾の一体がジュラフォードの殺気に気づく。


だが──



逢魔焉閃おうまえんせんッッ───!!」



キィィィィン……


残響がこだまする。


時は既に遅かった。


放たれた稲光を纏うどす黒い衝撃波は、魔獣の群れを引き裂いた。


地上に居たサイクロプスは横半分に分かたれ、事切れる。


異変に気付いた反対側のサイクロプスやガーゴイル、ドラゴン、そしてニハイルドまでもがジュラフォードに注意を向けた。


「あいつ……!!! やれ!! おまえら全員であの剣士を叩き潰せ!!」


魔獣たちの攻撃の手は、ニハイルドの号令によってジュラフォードへと切り替わった。


「どこまでも邪魔してくれちゃってさ…… 僕は君みたいに恵まれたやつが大嫌いなんだよ!」


ニハイルドの怒りに反応するように、ドラゴンは火焔を放出する。


「グォォォォアァ!!!」


他のドラゴンもまた氷や水、それぞれの属性でブレスを放っていた。


「魔法ってのはこんなものかッッ!!!」


ジュラフォードは──


ただ一本の剣で、その全てを断ち切っていた。


「そんな動き止まっているのと同じだ!!」


サイクロプスの猛攻を華麗に捌き、斬り刻む。


「グォァァアアア!!!!」


疾風のブレスは一太刀で二股に断ち、火焔のブレスは一振で払い除ける。


「ギゥァァァア!!!」


背後から押し寄せる冷凍のブレスは超速で躱し、射線上にいたサイクロプスへ直撃させる。


「たらふく生命エネルギーを与えた魔獣たちが…… なんでこんなやつ一人に!!」


「引きずり降ろしてやるよ、ニハイルド!!」


ジュラフォードがニハイルドを目掛けて空へ跳ぶ。


しかし、主君を守るようにガーゴイルの群れが行く手を阻む盾となった。


「邪魔だ…… 失せろ!!」


空中で放たれた一閃が、ガーゴイルを肉塊へと変えて地面へ叩き落とす。


「ニハイルドォ!!」


力を込め、一撃を放った。



しかし───



その一撃はただ虚空を裂き、ニハイルドは煙のように消えた。


「それ、幻術の分身だよ」


嘲笑を孕んだニハイルドの声が背後から届く。


振り向きざま、ジュラフォードの正面からは超激流の水のブレスが飛び込んだ。


「小癪な……っ!」


落下していく最中、ドラゴンに乗ったニハイルドが見せた口角の歪む表情は侮蔑そのものだった。


「結晶取り込んでる魔法に、剣だけで勝てるわけないでしょ。もう死んじゃいなよ」


そう言うと、ニハイルドの背後には屋敷を飲み込むほどの魔法陣が浮かび上がった。


「うぐっ…… 僕の命やるから…… 全て滅茶苦茶にしてよ……!!」


苦痛に顔を滲ませ、胸を押さえるニハイルド。


その背後から現れたのは、全身に鎖が巻き付けられた、漆黒の巨大な竜だった。



「ヴァァァァルルル!!!!」



巨大な竜の咆哮は、辺りの木々を吹き飛ばした。


その余波を受けて飛ばされながら、ジュラフォードの脳裏にふと母の言葉が蘇った。



『異界の魔獣は、神具でなければ倒せない。だから貴方が戦うのよ。これは貴方にしかできないこと』



それは、今や聖戦と呼ばれる、かつての大戦──


現れた鎖の竜は、聖戦での巨大魔獣を想起させる気迫があった。


「す、すごいや……!! これが異界の契約竜!! パパ、ママ、兄さん! 僕はこんな魔法まで使えるようになったんだよ!!」


両手を広げ、恍惚に浸るニハイルド。


ジュラフォードが険しい表情を浮かべながら、ニハイルドと竜を見つめる。


「こうなればやむを得ん……」


左手に巻かれた封を解こうとした、そのとき──


ズギュュンン!!


頭に響くような轟音とともに、目の前を疾風と岩塊を纏った凍気の魔弾が横切った。


まさかと、冷や汗を溢しながらジュラフォードは魔弾が放たれた方へ視線を向ける。


と、そこには。


昂る魔力を迸らせ、凄まじき威力の魔法を繰り出すウリスゼラの姿があった──



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