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第47話 エルグリア家の生き残り


エルグリア家の屋敷の場所を確認した後、しばらくの沈黙が続いた。


やがて、ウリスゼラは馬上で揺られながら思い出話を語り始めた。


「母様は本当にお花が大好きで、とても優しかったんだ…… それでリカルドはさ……」


ジュラフォードが軽い相槌を交えながら話を聞いていると、ウリスゼラが重い口を開き、話題は父との確執へと移った。


既に聞き及んでいた内容とは別に、エルグリアから連れ戻され、投獄生活が始まるまでの話だ。


「クソ親父も、あれで母様が居なくなったのが寂しかったんだろうな……」


あれほど嫌っていたリクスヘルデンに対して、初めて人前で見せた肉親への情だった。


ジュラフォードが横目でウリスゼラを見つめ、訊ねる。


「どれだけ憎んでも、血の繋がりだけは断ち切れない。お前だってそれを分かってるから、本心では父親を理解したいんだろ?」


ウリスゼラからすぐに答えは返ってこなかった。


『迂闊なことを聞いてしまったか……』


反応の悪さに、確執の深さを再認識するジュラフォード。


少しして、ウリスゼラがそっと口を開く。


「……だからさ、見る目がない親父に腹が立ったんだよ。誰かにすがりたくなる気持ちは分かるけど、なんでよりによってグランザなんかに……」


「だから許せなかった?」


ジュラフォードの核心を突いた問いかけに、ウリスゼラは小さく「あぁ」と返した。


「だが、リカルドだっていたはずだ。それにグランザが言ってただろう、リカルドが自分を怪しんでいたと」


ジュラフォードの言葉に、ウリスゼラは首を横に振る。


「グランザは良くも悪くも懐に入るのが上手かった。リカルドは少し不器用だったからかな……」


「全てはグランザの思う壺だったわけか……」


「クソ親父が弱ってる時に一番掛けてほしかった言葉も、グランザは全て口にしてきた。本当はそれも計算尽くだとも知らずに」


もしリクスヘルデンがリカルドの言葉にもっと耳を傾けていたなら……。


そう感じていたジュラフォードに対し、ウリスゼラは表情を曇らせていた。


『そもそも最初からオレが母様を殺させたりしなけりゃ、こんなことには……』


未だに蘇る罪悪感に、ウリスゼラはびくびくと体が震えた。




やがてジュラフォードたちを乗せた馬は、エルグリア家の屋敷へと辿り着く。


だが、御三家と呼ばれる高貴な位を持つ一族の屋敷には到底思えなかった。


窓越しに見えるカーテンは所々が破れ、門は朽ち、石畳は砕け、生えっぱなしの雑草はまるで密林のようだった。


『話に聞いていた通りか……』


ジュラフォードがエルグリアの屋敷を見つめていると、ふとウリスゼラが訊ねた。


それは、勢い任せでここまで来たため、これまで疑問に思っていなかったことだった。


「ここまで来たはいいけど、オレの無実をどう証明すればいいんだよ?」


ウリスゼラの素朴な疑問に、ジュラフォードは真剣な顔色をみせる。


「もしこの屋敷に魔獣の痕跡が残っているなら、それだけで証拠になり得る。だが……」


屋敷の窓から、ぼんやりと外を覗く人影を見据えつつ、ジュラフォードは続けた。


「エルグリアの生き残りがいるなら、引きずり出して自白させればいい」


最上階を見つめるジュラフォードの視線を、ウリスゼラが追う。


「そうか、ニハイルドのことか……!!」


「あぁ、そういうことだ」


ジュラフォードは朽ちた門に馬を繋ぎ、屋敷の内部へと踏み入れた。


ウリスゼラの脳裏を過去の記憶がよぎり、表情が強張る。


自分の運命が大きく揺れ動いたキッカケのひとつでもある、あの日の事件。


すると、ジュラフォードが振り返った。


「このまま、終わらせたくないんだろ?」


小さく頷くと、ウリスゼラの揺らいでいた心から迷いが消えた。


後を追うようにウリスゼラも続くと、二人は廃墟と化したかつての豪邸を目の当たりにした。


内部は荒れ果て、そこら中に染み付いた血の臭いが漂っていた。


「うっ……」


ウリスゼラは思わず吐き気を催し、口元を手で押さえる。


「辛いなら、やっぱり外で待ってるか? 誰も責めないぞ」


ジュラフォードの言葉に、ウリスゼラが気丈に答えた。


「……いや、これはオレが目を背けちゃいけない〝罪〟だから」


「そうか、分かった」


ウリスゼラの決心を聞いたジュラフォードは、調査を再開する。


手すりの破壊された階段を登り、二階、三階へと進む。


その惨状は、最上階の四階に至るまで広がっていた。


「気配があったのはこの奥だ」


四階の一室の前でジュラフォードが立ち止まる。


「オレの手で開けさせてくれ」


そう言うと、ウリスゼラは重い扉を開いた。


どんよりと淀んだ空気が肌身にまとわりつく。


部屋の最奥、窓際に佇む一人の少年の姿が見えた。


「なにしに来たの? 今度は僕まで殺しに来たの?」


少年がウリスゼラを睨み付けながら言葉を発する。


その声は弱々しく、どこか儚さを感じさせた。


「あれがニハイルドか?」


「あぁ、オレもそんなに話したことはないけど間違いねえ」


すると、ニハイルドは鋭い目をしながら甲高い声を上げた。


「お前が僕の家族を奪った! お前さえ居なきゃ、お前さえ居なきゃ…… この〝悪魔〟め……!!」


言い返すことのできないウリスゼラは、静かに俯いた。


それでも罵り続けるニハイルドに、ジュラフォードが代わって反論を返す。


「だが、お前らは魔獣なんぞと手を組み、裏で私利私欲のために悪事を働いていたんだろ?」


「だとしたら何だって言うの? それが僕らを殺す理由になるの?」


冷たい眼差しを向けながらニハイルドが言い返す。


「ウリスゼラ、本当はそうじゃない。そうだろ?」


事の経緯には理由がある。たとえ結果が許されないことだとしても、ジュラフォードはそれをウリスゼラ自身の口で語らせたかった。


「……あぁ、おまえらエルグリアは子供の命を平気で弄んでいた! 魔獣に、買い集めた子供たちを……!!」


ウリスゼラは声を震わせながら続ける。


「オレだって殺すつもりはなかった…… そんなことは止めろと言ったら、エルグリアの連中はオレになんて言った!?」


鬼気迫る表情には、涙が滲んでいた。


「これ以上楯突くなら〝お前の妹〟も喰わせるって…… それでもオレはエルグリアから魔獣との関係を断ち切らせようとしていた!」


ジュラフォードは静かにウリスゼラの言葉を見守る。


「だけど最終的におまえらエルグリアは、目障りだからと消すことを選んだ。魔獣に襲われたオレは抵抗したんだ、魔法で……」


それでも生き残ったニハイルドにとっては、親族を根絶やしにされたという冷たい現実だけが突き付けられていた。


「グランザは一番の地獄を見せる為にまだ我慢しろなんて言ってたけど、もういいよね。僕はそんなの興味ないし…… もう殺していいよね」


「な、なに言ってんだ!?」


「アンタも僕と同じ目にあえばいいんだ。みんなみんな死んじゃえばいい……!!」


ウリスゼラはニハイルドへ飛びかかり、その拳を叩き込んだ──


……が。


目の前にいたはずのニハイルドは煙のように溶けた。


直後、ジュラフォードとウリスゼラの脳内にニハイルドの声が響く。


『残念。僕はもうここにはいないよ。君たちが見てるのはただの幻影…… ぷぷっ…… バカだね』


脳内の声に、ジュラフォードが辺りを見回しながら返す。


「ふざけやがって、姿を見せろ!」


しかし、ニハイルドの姿が現れることはなく、またしても声だけが響く。


『それより、こんなとこに居ていいの? ヤバイんじゃない?』


「どういうことだ!!」


ジュラフォードが叫ぶと、突如として目の前に四角い光の幕が出現した。


その幕には映像が映し出されている。


それは、ティダインベルグ領のバリケードに囲まれた屋敷だった。


だが、映っていたのは屋敷だけではなく──


「な、なんだと……!!」


「おいおい、なんだよこれ!! 魔獣が…… こんなに……」


嘲笑うかのように、脳内にニハイルドの声がふたたび鳴った。


『僕がいまいるのはティダインベルグ領…… そう、この無数の魔獣どもと君の大切な物を全て滅茶苦茶にしてやるところさ!!』


ウリスゼラは震える拳で光の幕を殴りつけた。


しかし、光の幕もまた煙のように溶けた。


「チッ…… くっそぉ……!!」


「こうしちゃいられん。早く戻るぞ!」


ジュラフォードとウリスゼラは、ニハイルドの強襲を受けるティダインベルグ領へと、馬を急かし引き返していった。


ウリスゼラに絡み付いた因縁に終止符を打つ瞬間は、すぐそこまで迫っていた。



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