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第45話 超剣術VS大魔法


先手必勝と言わんばかりに、グランザの高速の槍が炸裂する。


残像すら見せる本気の攻撃に手応えがあるのか、グランザはニタリと笑みを浮かべた。


だが、次第にその笑みは怒りへと変わって行く。


「その程度か?」


荒らされた倉庫は物が散乱していて足場が悪いというのに、ジュラフォードは器用に体を動かす。


呼吸を乱すグランザに対し、ジュラフォードは顔色ひとつ変えずに一連の高速撃を躱し切った。


「クソがァァ……!!!」


次にグランザは槍に魔力を込め、これまで手数勝負だった攻撃手段を一撃必殺に切り替えた。


槍は魔法で生成された風を纏い、その形をより凶悪化させる。



ザシュゥン!!



「死ねェェ!!!!」


疾風の一撃。


まるで風そのものが殺気を帯びているような突き刺す突風が吹き荒れた。


本来の槍の射程は、突き刺すような風でさらに伸びる。


目にも止まらぬ強烈な一撃で、グランザは勝利を確信する。


しかし──


そのしたり顔に飛び込んで来たのは、ジュラフォードが超速で放った裏拳だった。


バキバキという鈍い音とともに、めり込んだ拳がグランザの頬骨を叩き折る。


高速で放たれた疾風を纏う突きを、ジュラフォードはさらにそれを上回るスピードで躱していた。


正面から飛び込んでくる槍に対し、体を右に反転させながら、左手で撃ち込まれた神速のカウンター。


グランザの骨を砕いた拳は、勝利を確信していた優越感まで砕いていた。


「おのれェェ!!!! おのれおのれおのれェェェェ!!!!」


グランザは敗北を悟った。


疾風の突きは、彼にとって最大にして最強の技だった。


「やっぱジュラフォードは強ぇぇ!! 勝負あったな」


戦いを至近距離で見届けていたウリスゼラが呟く。


先ほどまでリカルド殺しを自供したグランザに絶望していたウリスゼラだったが、ジュラフォードの華麗な攻撃に表情が晴れ晴れとする。


グランザが起き上がらないのを確認したジュラフォードは、ウリスゼラの元へ駆け寄った。


「おい、怪我はしてないか?」


「オレは平気だよ」


互いに状況を確かめ合うジュラフォードとウリスゼラ。


すると、そのとき。


戦闘不能になったと思われていたグランザは、吹き飛ばされた場所で予想外の物を発見していた。



ニチャア……



諦めかけていたグランザに、再び不敵な笑みが蘇る。


「ハハハハハハハハ!!!!! 天はまだ俺に勝機を与えてくれたァァ!!! 我が生涯はエルグリアと共にィイ!!!」



膝をついたまま、天高く拳を突き上げるグランザ。


その手には、魔法結晶が握られていた──



「あれは……!!」


ウリスゼラが反応する。


だが、気付いた時には手遅れだった。



ガギガギガギィという音を立てながらグランザは魔法結晶を手で砕いた。


そして、それをそのまま口の中へと流し込んだ。


「お、おい……!! お前そんなことしたら!!!」


もはやそのウリスゼラの言葉は、グランザには届いていなかった。


「リクスヘルデンの絶望に歪む顔を拝められないのは残念だが…… こうなったら手段は選ばん……!!」


ドクン……!!


「ウガァァァァア!!!!」


魔法結晶を直接取り込んだグランザは、人の言葉とは思えない叫びを上げる。


全身の血管が歪に浮かび上がり、その目は真っ赤に充血し、狂ったように口は閉じず涎を垂れ流す。


そこにはもう、理性はなかった。


「おい、あれはどうなってる!?」


ジュラフォードが訊ねると、ウリスゼラは哀れみの目をグランザに向けながら答えた。


「本来は触れるだけで結晶の持つ魔力を得られる。それを直接体内に取り込むのは暴走を厭わない自殺行為だ……」


「じゃあ、奴はもう……」


「ああなった以上、死ぬのは時間の問題。戦うだけ無駄かもしれない」


二人の元へ、グランザの放つ疾風魔法が容赦なく襲いかかる。


ウリスゼラはあえなく吹き飛ばされ、ジュラフォードから距離を離される。


「エルグリアトトモニィィイ!!!!」


密室のなかで無差別的に吹き荒れる疾風は、天井を突き破った。


砂埃が充満し、瓦礫の山が倉庫を埋め尽くす。


ジュラフォードはウリスゼラの安否を後回しにし、被害を最小限に留めるためグランザを挑発し書庫へとおびき寄せた。


「ドコヘニゲテモムダァァァ!!!!」


グランザは槍を八の字にさばきながら凄まじい疾風を何度も繰り出す。


やがて書庫の壁や天井までも破壊し、倒壊寸前となった。


『クソッ…… このままじゃウリスゼラが生き埋めに……!』


地下倉庫へ視線を向けるも、視界に入るのは瓦礫の山のみ。




だが一方のウリスゼラは、傷だらけになりながらもジュラフォードの手助けになる物を持ち出して、倒壊前に逃げ仰せていた。




「ヨソミシテイルノカ!!!!」


だが、狂化したグランザの攻撃の手は止むことなく、気付けば建物はついに跡形もなく消える。


見回せば辺りは池や木々が顔を覗かせていた。


『クソッ…… ウリスゼラ……!!』


ウリスゼラが生き埋めになったと思っているジュラフォードは顔を歪ませた。


「シネェェエ!!!!」


しかしそんなジュラフォードをよそに、疾風の中からグランザが現れ直接攻撃を仕掛けた。


その一突きをジュラフォードは瞬時に身を沈めて回避したあと、グランザの顎へ蹴りを叩き込む。


上空へ吹き飛ばされていくグランザ。


ジュラフォードがその軌道を見つめていると、突如として空には魔法陣が浮かび上がった。


「アバレロォォ!!! サイクロプスドモォォオ!!!」


グランザの雄叫びと共に、魔法陣からは五体のサイクロプスが召喚された。


「な、なんてやつだ……!」


ドシンッ!!


巨体を誇るサイクロプスが順に着地すると、大地は大きく揺れる。


最後にグランザがすっと着地し、ジュラフォードへ槍の穂先を向けた。


「ブチコロセェェェ!!!!」


号令のように放たれた一言により、サイクロプスが一斉にジュラフォードへ押し寄せる。


まるで丸太のような腕から放たれる拳は、五体同時に飛び掛かった。


ひとつひとつを躱しながらカウンターを浴びせていくジュラフォードだったが、予想外に体力を削られていく。


一発、そしてまた一発。


大振りの攻撃は威力こそあれど、ジュラフォードには止まって見える。


しかし、召喚されたサイクロプスは魔法結晶の効力により高精度で錬成されており、その肉体は極めて頑丈だった。


「これじゃあキリがねえ……」


それでも、三倍以上の体躯を持つサイクロプスに体術のみの肉弾戦で善戦するジュラフォード。


ついにジュラフォードの呼吸が乱れた頃には、召喚されたサイクロプスは五体全て力なく横たわっていた。


「オマエハドウシタラコロセルンダァァア!!!!」


グランザの絶望にも似た咆哮が響く。


再び魔法陣が浮かび上がる──


「おいおい…… 嘘だろ……!!」


ジュラフォードの視線の先には、五体どころではなく、二十体のサイクロプスが召喚されていた。


「この数を素手でか…… 俺は武闘家じゃあねえぞ……」


そのとき、差し迫る状況からジュラフォードのなかに手加減という言葉が消える。


二十体のサイクロプスによる進攻。


そして後方からはグランザの魔法による遠隔攻撃。


グランザは風に加え、土の魔法も同時に発動させ、限界を超えて魔力を解き放っていた。


土壁が逃げ道を奪い、そこへサイクロプスの巨大な拳が飛び込む。


さらには疾風の追撃。


ジュラフォードを追い込むには、これでもかと言うほど執拗だった。


だが──


それほどまで殺気を込めた無数の攻撃も、ジュラフォードに膝ひとつ着かせることは出来なかった。


グランザは焦りからサイクロプスの召喚数をさらに増やしていき、とうとう三十体目を繰り出す。


減らしても増えていくサイクロプスに、ジュラフォードからは乾いた笑みがこぼれる。


ジリジリと迫られていくジュラフォードは、果てに四方八方をサイクロプスに囲まれてしまう。


だがそれでも肉弾戦で応戦し続け、着実に数を減らした。


残ったのは十二体。


「モウニゲラレンゾ!!!」


最後にグランザは命を引き換えに魔力を極限まで込め、戦いを終わらせる準備へ入った。


万事休す──


そう思われた瞬間。


魔力を込めるグランザの背後から、頼もしい声が聞こえた。


「受けとれぇぇ!! ジュラフォードぉぉ!!!」


その声を聞いたジュラフォードは戦闘中であるというのに、安堵した。


「無事だったのか!! ウリスゼラ!!」


すると、ウリスゼラから流星の如く鋭い輝きがジュラフォードを目掛けて一直線に放たれる。


ザシュという音とともに、投げられた一本の剣がジュラフォードの足元の地面に突き刺さった。


「まったく、お前は本当に俺を驚かせてくれる……」


ジュラフォードは笑みを浮かべ、ウリスゼラが投げつけた剣を手に取る。


「倉庫にあったやつだけど!!! やれるよなぁ!!!」


「上出来だ…… これさえあれば三秒で終わる!!」


ついに、ジュラフォードの反撃が始まった。



ゴゴゴゴゴ………!!



溢れ出すオーラに、グランザは思わず体勢を崩しよろめいた。


「ワ、ワァ……!! コロサナイデクレ……!!」


ベヒーモスの一戦でそれを目に焼き付けていたというのに、いざ自分に降りかかるとなれば死という概念が一気に現実味を帯びた。


唸りをあげる波動は、辺りに潜むあらゆる生物に死の危険を知らしめる。


激しく波立つ水面が、急に鏡のようになるかの如く、覇気あるオーラが静まった。



そして、その次の瞬間。




「烈閃──ッ!!」




残響が轟く。


放たれた一閃は光よりも速かった。


十二体のサイクロプスは真っ二つに体を分離され、その形を奪われる。


断末魔さえ与えず。


視界の先には、一閃を受けて体を両断され、光を失った目で事切れるグランザ。


魔力の暴走で先に命が潰えたのか、あるいは一閃がトドメになっていたのか。


命乞いをするような哀れな表情が、彼の人生の最期となった。




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