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第44話 暴かれた正体


ザシュッ……!!


暗がりのなか、ジュラフォードの背後から音もなく殺気を帯びた鋭い穂先が飛び込んでくる。


刹那の一撃。


だが、その攻撃はジュラフォードにはあと一歩のところで届かなかった。


「な、なぜだ……!? 狙いは確かだったはずだぞ……!!」


聞き覚えのある声が暗闇のなかで漏れ聞こえる。


確かに仕留めたかに思われていた一突きは、ジュラフォードの頬を掠めていた。


「その声……」


ジュラフォードは攻撃の際に生まれた一瞬の殺気を感じ取って急速回避で躱していた。


ウリスゼラは何も見えないなかで、ジュラフォードと同様に声で暗殺者の正体に気がつく。


「グランザッッ!! てめぇ!!」


槍を引き戻すカチャンという鋼鉄の音には、焦りさえ滲んでいた。


ジュラフォードが静かに呟く。


「正体は分かってんだ。面と向かって話せ」


その言葉に、諦め混じりの溜め息が返ってくると、パチンという指を鳴らす音が響く。


指の音に反応するかのように、すぐに暗がりだった倉庫に再び明かりが灯る。


「やはりな……」


瞬きもせずジュラフォードが見つめる先には、焦燥に満ち顔をひきつらせたグランザの姿があった。


「間違いなく狙いは合っていたはずだ!! 魔法で視覚を極限まで高めていたんだぞ! 俺には手に取るように分かっていた!!」


驚きのあまり早口で捲し立てるグランザに、ニヤリと笑みを浮かべながらジュラフォードが答える。


「俺に寝首をかこうなんて千年早ぇよ」


余裕を見せるジュラフォード。グランザの表情が苦悶に歪む。


しかしジュラフォードは、さらに追い討ちをかけるようにこれまで内に秘めていた言葉をついに発する──



「……そうやって、リカルドのことも背後から殺したんだろ?」


ジュラフォードの一言に衝撃が走る。


明らかに動揺した様子を見せ、顔を歪ませたまま後ずさりするグランザ。


だが、動揺していたのはグランザだけではなかった。


「お、おい…… どういうことだよ……? な、なぁ…… こいつがリカルドを殺したのか……?」


ジュラフォードの背後からは、ウリスゼラの震えた声が聞こえてきた。


ウリスゼラは気が動転した状態で、ジュラフォードの肩を掴む。


「おい!! どういうことだよジュラフォード!!」


興奮するウリスゼラの手を、ジュラフォードはそっと優しく払いのける。


けれど視線はグランザから外さないまま、さらに続けた。


「隠し部屋にあった魔導書…… あれが狙いだったのか?」


ジュラフォードが目を細めながら問いかけるも、グランザは自身に向けられた嫌疑を強く否定する。


「そんなもの知らん…… それに興味も用もない」


そう返すグランザに、ジュラフォードは容赦なく鋭い眼光を向けながら迫った。


「本当か? 断じて嘘ではないのか……?」


気迫に押され尻込みするグランザ。


その目は嘘っぽさがなく本当に誤解なのだと訴えかけていた。


それは、最初から開いていた書庫の扉もグランザの仕業ではないかと問い詰めた際に見せた目と同じだった。


グランザの反応から、ジュラフォードは書庫を荒し魔導書を盗み出したのはグランザではないと断定する。


ジュラフォードの眼差しが一旦落ち着きを見せると、グランザはどこかホッとした様子で肩の力が抜けた。


しかし、緩みかけていた緊張の糸を張り直すように、ジュラフォードが追い詰める。


「そもそも、俺は元からお前が怪しいと思っていた…… リクスヘルデンの元から離して、お前をあえて泳がせていたわけだ」


「それで俺をご指名だった、というわけか…… フンッ、食えないやつだ」


「どのみちサイクロプスの件といい、暴発するように仕込んでいた剣を渡した事といい、お前は限りなく黒に近いグレーだが……」


ジュラフォードは再び表情を引き締め、リクスヘルデンから指示を受けた際のグランザのある反応を指摘した。


「リクスヘルデンの部屋でウリスゼラがエルグリアの名を出したとき、お前は露骨に食いついていたよな?」


すると、ウリスゼラがふと思い出したように口を開いた。


「そういやそうだ。サイクロプスとエルグリアに関係があるって言ったら、余計なこと喋んなってオレの腕を随分と絞ってくれたよな」


黙り込むグランザ。表情は曇る。


「答えないってことが、答えてるようなものだな」


ジュラフォードがそう言うと、ひきつった表情を見せるグランザから乾いた笑みが零れる。


「フ、フフ、フフハハ…… フハハハハ!!!! フハハハハハ!!!」


それは突然だった。


壊れた人形のように笑い始める。


一度笑い出せば、ドミノ倒しのようにして不敵な笑みがこだまする。


「な、なんだこいつ…… 急に笑い出したぞ」


グランザの凶変にウリスゼラが思わず声を漏らす。


ジュラフォードはただ静観していると、グランザがついにまともに言葉を発した。


だがそれは、狂気に満ちた笑みが混じっていた。


「ハハハハ、そうだァ……! そうだよ! 何もかも全てお前の推理通りだ! サイクロプスの群れも剣の暴発も全て俺の仕組んだことだァァ!!」


目の色に正気はなく、半狂乱に歪ませた目と口は大きく開きっぱなしになっていた。


「ようやくおまちかねの本性だな……」


「ウリスゼラァァァ!!! よォく聞けぇ!! リカルドをブチ殺したのはなァ…… ハァァァア……」


勿体ぶって言うその言葉に、ウリスゼラの表情が一瞬にして冷えきる。


「リカルドをブチ殺したのは俺なんだよォォ!!! ンヌアハハハハハ!!!!」


ウリスゼラは歯軋りをしながら、震える拳を握り締める。


怒りと悲しみが混在する表情は、泣けばいいのか怒ればいいのか分からない様子だった。


「チクショォォォォオ!!!!」



ドンッ!!



感情を込めた握り拳をグランザの半狂乱の顔に叩き込むウリスゼラ。


殴られた衝撃で勢いよく吹き飛ばされるも、鼻から血を流しつつグランザは立ち上がる。


「ウリスゼラァ!! てめえがエルグリアを滅ぼしたと聞いた時、俺は心底お前を憎んだ…… その時は任務を放棄してでもお前らをブチ殺そうと思ったァ……!!」


鼻血を手首で拭いながら、グランザは続ける。


「なによりリカルドは目障りだったァ…… 俺のことを嗅ぎ回りやがって、あいつは目の上のたんこぶだった…… おかげでいつバレるのかとヒヤヒヤしていた。ブチ殺してやりてェとずっと思っていたァ!」


「てめぇぇ……!!」


「見回りに行くと言ってリカルドが戻る頃合いを見てサイクロプスと共に奇襲してやった…… リクスヘルデンのバカはそうとも知らず…… フハハハハ」


ウリスゼラがもう一発拳骨を食らわせようとしたそのとき、その拳をジュラフォードが止めた。


「気持ちは痛いほど分かる…… だが少し冷静になれ。いまは話を聞き出すのが先決だ。殴るならそのあと好きなだけすればいい」


小声でそう諭すと、ウリスゼラは不満そうにしながらも握り拳を収めた。


「もはや小細工は通用しない。単刀直入に聞こう、お前の目的はなんだ?」


ジュラフォードが投げ掛けると、グランザは腹を抱えて仰け反り笑いながら答えた。


「ハハハハ!! 俺の目的ィ? 愚問過ぎるぜ…… それはただ一つ…… 忠誠を誓った〝エルグリア家〟の再興に決まってんだろォオ!!!」


グランザの明かしたその正体に、ジュラフォードもウリスゼラも目を丸くした。


「サイクロプスを使役してティダインベルグの領土を襲わせてるのは俺だ…… どうするものかと見ていたらリクスヘルデンのやつ、魔法結晶を使うと言いやがった」


「リクスヘルデンはその力で究極の防御壁を作り出す、そう言っていた」


「あァ、そんなことをされたんじゃあ…… 俺の楽しみがおわっちまう。エルグリアと同じ目に、いやそれ以上の目に遭わせるには、じっくりと痛め付けてやりたかったからなァ……」


その言葉を聞いたウリスゼラは怒りを通り越し、悲しみにうちひしがれその場で力なく項垂れた。


「俺は元々エルグリアから送られたスパイだったんだよ…… リクスヘルデンみてえな腰抜けに媚びへつらう日々は苦痛だったぜ……」


ジュラフォードはグランザへの視線を外さぬまま、項垂れるウリスゼラに寄り添いつつその背をさすった。


「俺ははなからエルグリアの従者ァ!! 忠誠を誓うのはただひとつゥ!! 唯一生き残った〝ニハイルド様〟とともに…… 再びエルグリアをォォ!!!」


雄叫びのように吼え叫ぶグランザ。もはやその姿は、ジュラフォードには哀れな道化に思えていた。


すると、ウリスゼラの耳がぴくりと反応し、小さく声を漏らす。


「ニハイルド……」


「知ってるのか?」


ジュラフォードが訊ねると、ウリスゼラが弱々しい声で返す。


「オレが婚約者として宛がわれた相手の弟だ…… 随分と陰気で無口なやつだったよ」


「貴様ァァ……!!! ニハイルド様を愚弄するのか!!」


激昂するグランザに、ウリスゼラは涙に掠れた声でグランザに言い放った。


「でもお前は!! エルグリアに良いように利用されていただけだろ!! スパイやヒットマン、結局は全部汚れ仕事じゃねえか!!」


感極まって放ったウリスゼラの言葉に、グランザが眉間に皺を寄せる。


「だからどうしたァ? パンデモーラ出身のこの俺に名前と居場所をくれたのはエルグリアなんだ!! 俺の命をエルグリアに捧げて何が悪いィ!!!」


グランザの一言は、ジュラフォードの眉をぴくりと動かせた。


『パンデモーラ、確かベウニルもそこから来たのだと言っていた……』


ベウニルがこの世の最底辺と形容していたことを思い出すジュラフォード。


「そうかお前も……」


ジュラフォードが独り言を言うと、グランザが槍を構える。


「もう十分話しただろう。次はお前が喋れ…… お前は一体何者だ!! そのデタラメな強さは何なんだ!?」


鬼気迫る表情で詰るグランザにジュラフォードは落ち着いた様子で答える。


「それを答えるのに、言葉は要らねえよな?」


「上等だァ…… 本気を見せてやる……!!」


ついにその本性を暴かれ、全てを明かしたグランザ。


こうして、ジュラフォードVS魔法騎士グランザの直接対決が幕を開いた。



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