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第43話 アインフォーデン


ジュラフォードは恐る恐る、本の中身を確かめる。


そう厚みのない本。だが、そこに記されている文字を解読することは出来なかった。


未知の言語にも見えるそれは、数頁にも及び、巻末には一枚の精巧な風景画が貼り付けられていた。


綺麗な風景画は、上から見下ろした緑に恵まれた孤島だった。


そして微かに点として捉えられるものは、ジュラフォードの目には人のように映っていた。


「なんだ……?」


風景画を手に取り、ぺりぺりと音を立てながらめくる。


そーっと、その裏面を確認すると、そこには小さく文字が書かれていた。


ただ唯一そこに記された文字だけは、ジュラフォードも読み解くことが出来た。


『我が親友、ジルディータとヨテルと共に。  ~ティダインベルグ・アインフォーデン~』


その文言を見て、ジュラフォードの表情は驚きで固まり、思わず声を漏らす。


「ジル!? ヨテル!?」


かつての仲間である、烙印同盟の一員の名前が克明に記されていたのだった。


おまけに、最後にはその手記を残した人物と思われる者の名も刻まれている。


ウリスゼラでもなければリクスヘルデンでもない、ティダインベルグ姓の名──


「アインフォーデン…… 誰だ……?」


表紙には烙印同盟の紋様、そして巻末に挟まれていた孤島の風景画、たった数頁の解読不能の文字。


さらには手書きによる、ティダインベルグ・アインフォーデンなる人物のサイン。


厚みからしても、それが魔導書や歴史書の類いではないということくらいは分かっていた。


ふとジュラフォードは山積みの本を片付けているウリスゼラに視線を向ける。


「おい、ウリスゼラ! ちょっと来い!」


「あぁ? なんだよ! つーかお前も手伝えよ!」


「いいから、早く!!」


「ったく、しょうがねえなぁ~……」


ウリスゼラは不満そうにポリポリと髪をかきむしりながら、ジュラフォードの元へ。


気だるそうにするウリスゼラとは対照的に、ジュラフォードは落ち着かない様子でウリスゼラに問いかけた。


「なあ、この文字読めるか? あとこのアインフォーデンって誰だ? この島どこか分かるか?」


畳み掛けるように質問を重ねるジュラフォード。


ウリスゼラは堪らず気圧されたような表情を浮かべる。


それでも、ジュラフォードから半ば強引に押し付けられた手記にウリスゼラが目を通す。


「どうだ!? なにか分かるか?」


ジュラフォードが期待混じりの瞳で訊ねる。しかしウリスゼラの反応は芳しくなかった。


「……わからねえ。オレにもなんて書いてるか読めねえ。それにこのアインフォーデンって誰だ?」


期待を裏切られる一言に、ジュラフォードの表情が一気に曇り始めた。


「う…… 嘘だろ!? ここ、俺にも読める。間違いなくティダインベルグと書いてるじゃないか!」


「ンなこと言われたってオレにも分からねえモンは分からねえんだよ!」


ジュラフォードに両肩を揺すられるウリスゼラは、険しい表情をしながら答えた。


「……仕方ないか。とりあえずこれは回収して、リクスヘルデンにでも聞くか」


「あぁ、オレに聞くよかクソ親父に聞いた方がよっぽどマシだと思うぜ」


煮え切らないものの、ジュラフォードは謎の手記

を懐に仕舞い込んだ。


すると、おもむろに辺りを見回していたウリスゼラがあるものを発見する。


「なんだありゃ……? あんなのあったっけな……」


ジュラフォードはウリスゼラの顔を一瞥したあと、その視線の先を追った。


そこには、元々は棚に隠されていたと思われる隠し通路が姿を現していた。


ぼんやりと暗がりを覗かせるその奥に、なにかあるのではと直感が働いた。


「隠し部屋か? ウリスゼラ、お前も知らなかったのか?」


「初めて見たし、なによりあんなの聞かされてもねえ……」


ジュラフォードとウリスゼラは、恐る恐る隠し通路に足を踏み入れる。


その狭い通路は、行き交うことは不可能で、一人ずつ進んで行くしかなかった。


埃っぽい壁に胸と背中を挟まれながら、横歩きに隠し通路を通る。


「これ、リリアなら通れなかったんじゃねえの? オレでもギリギリ……」


ウリスゼラの独り言にジュラフォードは反応せず、隠し部屋へと辿り着く。


そう広くはなく、通路から入る僅かな光源に照らされる薄暗い部屋は、数時間前まで居た牢屋を想起させた。


だがジュラフォードは、ウリスゼラの心を傷付けまいとそのイメージを口にせず、静かに辺りを確かめ始める。


「おいジュラフォード、これ見てくれよ。この台座みたいなの何だろう?」


ウリスゼラがジュラフォードを呼びつけると、二人揃って部屋の最奥にある台座を凝視する。


薄暗い部屋ゆえに目だけを頼りにはせず、手も使って台座に触れながら確認していく。


すると、ジュラフォードはその台座に窪みがあることに気付いた。


それと同時に、感受性の高いウリスゼラは微弱な残留魔力を感じ取っていた。


「ここの窪み…… 本を収めとくにはぴったりだ」


「それだけじゃねえ、微弱だけどここに魔力の痕跡がある」


「魔力の痕跡? なぜそんなものが?」


「オレが思うに、ここにはなにか〝特別な本〟を隠していたんじゃねえのか……?」


「じゃあその魔力ってのは、本を封印していたとか…… そういうことか?」


「あぁ、恐らくそうだと思う。でも封印は破壊されてるし、その封印に使われていた魔力だけが残っているんだろうな」


互いの推察を照らし合わせていると、またしてもジュラフォードの勘が働く。


「……てことは、扉が開いてたのも本が荒らされてたのも、これが狙いか……?」


「恐らくそうかもな。表に散らばってた、ただの魔導書には手も付けられてねえ」


理解が追い付かないまま、二人が唖然としていると、ウリスゼラは思い付いたかのように予想を口にした。


「もしかして…… ここに置いてたのは〝禁忌魔法の魔導書〟なんじゃねえのか?」


ウリスゼラの言葉に、ジュラフォードが反応する。


「その仮説でいくなら、全てに辻褄が合うな…… 例えベヒーモスと応戦してでも、中を荒らして見つけ出す価値は大いにあるはずだ」


しばらく、ジュラフォードとウリスゼラは緊迫した表情のまま硬直していた。


各々がその場で考え込み数分が経つと、ふと我に返ったようにジュラフォードが沈黙を破った。


「どのみちリクスヘルデンに確かめる方が早そうだ。まずは結晶を回収してここを出よう」


「そ、そうだな……」


再び狭い通路を抜け、広々とした書庫の中央まで戻る。


改めて辺りを見回すと、ジュラフォードはグランザが居なくなっていることに気がついた。


「あのビビり、また逃げやがったな。何を考えてるんだか……」


「あんなやつは放っておこうぜ。いざとなりゃ手負いのジュラフォードでも相手にならねえだろ?」


「ふっ、随分と俺を高く買ってくれてるんだな?」


「少なくともグランザなんかよりは遥かにな」



その後、ジュラフォードとウリスゼラは二人がかりで地下へ続く階段を覆う本を片付けていった。


何十冊、何百冊という山積みの本は、その多くが今ではそう珍しくもない魔導書ばかり。


『魔導協会が管理していたんじゃないのか……? まったくどうなってるんだ……』


胸のうちでは魔導書をティダインベルグ家が所有することに疑問を抱きつつ、淡々と本を退かしていくジュラフォード。


中には生物図鑑もちらほらあり、時おり作業の手を止めてその中身を確かめるジュラフォードに、ウリスゼラは口煩く文句を言った。


その繰り返しが数十分続いたところで、ようやく地下倉庫へ続く階段が姿を見せた。


「ふぅ…… やっとだな」


「ジュラフォードが途中で手を止めてなきゃとっくに終わってたろ!」


「いや~~悪い悪い。図鑑だけは文字が読めちゃうもんだからつい嬉しくてな」


そんなやり取りをしながら階段を下りていく。


倉庫に取り付けられた扉にも鍵穴は付いているものの、書庫入口の扉と同様に施錠はされていなかった。


「ここも確認済みってわけか」


ジュラフォードはそう呟きながら倉庫の扉を開ける。


隠し部屋とは異なり、倉庫には魔法結晶で駆動する照明が室内を照らしていた。


馬なら五頭ほど置いておけそうな面積の倉庫には、所狭しと様々な物が鎮座する。


「ここも荒らされてるな…… おまけに足の踏み場もねえ」


ジュラフォードは辺りを見回しながら倉庫を確認する。


「この感じじゃ、魔法結晶も回収されてるかもしれねえな」


ウリスゼラは状況を見て冷静に分析する。


「それはありえるかもしれん。もし目的が魔導書でも、結晶は副産物としては上等だろう」


互いに二手に分かれ、会話をしつつも乱雑に物が散らばる倉庫の中を確認していった。


「もし結晶があるとしたら、宝箱か何かにいれてるはずだ! まずはそれを探してくれ!」


ウリスゼラの言葉を背中で聞きながら、ジュラフォードは掻き分けるようにして調査していた。


しばらくして、ウリスゼラの「なんだこれ!」という声に、ジュラフォードの手がピタリ止まる。


そして釣られるように視線をウリスゼラに向けると、ウリスゼラは掲げるようにして〝見覚えのある物〟を手にしていた。



それは──


「なに……! いや、そんなはずが……!!」


リリアフィルに授けた聖装にも似た一着の黒いバニースーツだった。


慌てるように急ぎ足でウリスゼラの元へ近づくジュラフォード。


「おい、なんだこれは?!」


困惑するジュラフォードの表情を、怪訝そうに見つめるウリスゼラ。


「なにって? バニーちゃんだろ? あ! ちょうどいいや! 服ボロボロになったしこれに着替えるか!」


ウリスゼラはそう言うと、隣にジュラフォードがいるというのにも関わらず恥ずかしげもなく着替え始める。


「お、おまえ…… 少しはリリアフィルみたいに恥じらいというものをだな……」


気を遣ってジュラフォードが視線を逸らす。


その後、装いを新たにバニースーツを身に纏ったウリスゼラが視界の隅からひょこっと姿を現した。


「これ意外と動きやすいじゃねえか! 胸んトコがちょっとスースーするけど、ギリ見えねえよな?」


その場でストレッチをしてみせるバニーガール姿のウリスゼラ。


ジュラフォードは、リリアフィルとはこうも違うのかと思いながら、その衣装に視線を落とす。


「だが、なぜこんなものが……」


「オレにも分からねえけど。昔、屋敷で客を招いた催しでこれ着てるメイドいたようなぁ……?」


「はぁ、つまり備品か…… まったく驚かせやがって……」


「なんかよくわかんねーけど、リリアのと似てんなとは思ったけどな」


「あぁ~あ…… 良かったな、見た目はお揃いだよ……」


一気に肩の力が抜けるジュラフォード。



と、そのときだった。



プシュン……



「わ!? なんだ急に!?」


倉庫の明かりが一瞬にして消え、暗闇に包まれる。


取り乱した様子でおろおろと体を動かすウリスゼラ。


それに対しジュラフォードは無駄な動きは一切見せず、瞬時に聴覚を集中させていた。



その暗闇の向こうでは───


「ここで死ね、ジュラフォード……!!」


ジュラフォードを付け狙う、何者かの魔の手が迫ろうとしていた。



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