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第33話 悪魔と呼ばれた令嬢


「オレがエルグリア家の一族を殺したのはな…… やつらが、薄汚ねェ魔獣なんざと手を組んでたからだ」


ウリスゼラの話をジュラフォードは黙ったまま聞き続けた。


「あいつらはクズだ。それもとびきりのな。このままじゃいつかとんでもねえ事になる…… そう思ったから殺した」


「それで、手を組んでいるというのは具体的にはどういう事だ?」


「簡単に言やァ、自分等に都合が悪い連中を容赦なく魔獣に始末してもらっていた。そんでその見返りをエルグリアは魔獣に渡していた」


ジュラフォードは聞かされた蛮行に眉をひそめながらも、食い入るように訊ねた。


「エルグリアが差し出した見返りとはなんだ?」


「子供の命と、安全な生活領域。平たく言えば、寝床と食事ってとこか」



ガチィン……!



「なんだと!!!?」


怒りのあまり、ジュラフォードはガチィンと檻の柵を叩いた。


「それを、お前の父親は…… 魔導卿は知っているのか?」


「事情は全て話したさ。でも聞き入れてもらえなかった。オレは生まれたときから一族でも鼻摘み者だったからな」


そう答えるウリスゼラの声色に、ジュラフォードはどこか哀しさを感じていた。


「だからお前とオレは似た者同士ってわけよ。同じ誤解されたままこんなトコにぶち込まれる」


「さっき、お前は自分のことを鼻つまみ者と言ったな?」


「あァ~~、それがなにか? 忌み子、憎まれっ子、ろくでなし。好きに呼んでくれたらいいさ」


どこか諦めを感じさせるような物言いをするウリスゼラ。


「違う、そうじゃない。お前はなぜ一族からそんな風に嫌われている? 生まれたときからと言ってたが」


「オレ、悪魔って呼ばれてんだよ。さっきパンを届けに来た看守もそう呼んでたろオレのこと」


ジュラフォードは直前の出来事を、看守が吐き捨てていた独り言を思い返した。



『こんなのんきなやつらが〝悪魔〟と同じ場所に収容されるなんてな……』



最初は意味の分からない一言だったが、ウリスゼラの背景を知った今なら、その言葉の持つ意味をジュラフォードは理解できていた。


「まさか、悪魔ってのは……」


「そうだ、オレのことだ。そういや〝悪魔令嬢〟なんて呼ばれ方もしてたっけ。アッハハハ!!」


冗談っぽく笑い飛ばすウリスゼラ。


しかしそれが、本当に冗談なのか、あるいは心の底では痩せ我慢なのか、それはジュラフォードにはまだ分からなかった。


だが、少なくともウリスゼラが完全なる悪人でないことだけは確信を持っていた。


そしてジュラフォードは、ウリスゼラへの理解を深める一心で、さらに問いかけた。


「悪魔と呼ばれている理由はなんだ?」


「へっ…… オレは生まれながらに魔法の才覚に恵まれてたらしくってよ。でも残念ながらそのコントロールまでは上手く出来なくてな」


その次に出た言葉に、ジュラフォードは思わず息を飲む。


「……五歳のとき、魔法を暴走させてお母様を殺してしまったんだよ」


何一つ気の利いた言葉が思い付かないジュラフォード。


「でもそれはオレがそうしたくてした訳じゃねえ。でも分かってくれなかった」


ウリスゼラの言葉からは、後悔や悲しみまでもが伝わっていた。


さらに続けて、ウリスゼラは魔法を暴走させて以降の自身への扱いについて語った。


「それでクソ親父は、オレに花嫁修行をさせれば少しは丸くなって、おまけに上手く嫁がせれば厄介払いも出来て一石二鳥と考えてたんだろうけどな。目論見はハズレだったな」


ウリスゼラの話を聞いて、ジュラフォードは徐々にある決心を固めつつあった。


その決心が間違っていないかを試すかのように、ジュラフォードは最後にもうひとつ訊ねた。


「リカルドが死んだと聞いて、随分取り乱してたな。どういう関係だったんだ?」


その問いは、すぐに返答はされなかった。


微かに冷たい床に鎖が擦れる音だけが鳴る。


すると、「スンっ」と鼻を啜る音がウリスゼラから聞こえてきた。


「泣いているのか?」


思わずジュラフォードからついて出た言葉に、ウリスゼラが反応する。


「う、うるせえ! 泣いちゃいねえよ! ただ、ただ……」


言葉を詰まらせつつも、ウリスゼラはリカルドへの思いの丈を口にした。


「リカルドは唯一オレのことをバカにしたり除け者にしたりしなかった。お母様のことも、エルグリアのこともリカルドだけはちゃんと分かってくれた」


「そうか、お前にとってリカルドは唯一の理解者だったということか」


「だから悲しいんだ。この世界はもう、リカルドがいない世界になったんだなって思うと」


そこに乱暴な言葉遣いはなかった。


それどころか、どこか弱々しく、取り留めの無い感情が乱れているかのようだった。


「そうだったのか……。リカルドは俺たちにとっても恩人だ。それに話を聞いて分かったことがある」


そう切り出すと、ジュラフォードはウリスゼラに力強い口調で投げ掛けた。


「お前はこんなとこに閉じ込められるべきじゃない!! 俺は決めた!! 必ずお前をここから連れ出して、親父に本当のことを分からせてやる!!」


ジュラフォードの自信に満ちた決心の言葉に、ウリスゼラは激しく鎖の音を鳴らしつつ答えた。


「はぁ!? なに言ってんだよお前!! それにお前も罪人だろーが! だいたい娘の話も聞かねえ頑固親父なんだぞ!!」


「だったら諦めるのか!!! リカルドが理解してくれたお前を!! リカルドが受け入れたお前を!! 自ら無かったことにするのか!!!」


フェードアウトしていくように、静かに鎖の音が止んでいった。


突き刺すようなジュラフォードの一言は、ウリスゼラの心を強く揺さぶっていた。


そして次第にそれは、激情の洪水として、頬を伝った。


「うっぅぅ…… うぁぁぁぁあ!!!! オレだっでぐやじぃぃよぉぉ!!!!」


ついに、ついに。


悪魔令嬢として忌み嫌われ、リカルド以外から理解もされず、問答無用で投獄されたウリスゼラの感情が爆発した。


それは何年も何年も、心の奥底に無理矢理に封じ込めていた本当の気持ちだった。


許されたい、認められたい、共感されたい、受け入れられたい、そして。


愛されたい──


突如としてウリスゼラの元に現れた一人の男によって、その感情は封を切られたのだった。



そして、それからいくらかの時間が過ぎた。


ジュラフォードの感覚で数十分が経過した頃。


一頻り泣いて泣いて、とうとう泣き疲れたのか、ウリスゼラは泣き止んでいた。


すると、様子を伺うように、ウリスゼラを気にかけるユバの健気な声が聞こえた。


「ねぇねぇー、お姉ちゃん大丈夫ー? かなしいことあったの? ユバがともだちになってあげるからね」


「……へへ。ありがとな。まさかちっこいのに励まされるなんてな」


落ち着きを取り戻したとはいえ、ウリスゼラは鼻が詰まった声を出していた。


「ともだちになってくれるの?」


「あァ、ユバとオレは友達だ」


「うぉーー!! いぇーい!!」


「暗くて顔が見えねえけど、シフルリアと同じ年頃か…… 妹と同年代の友達が出来るとはな」


囁くような小さな声で吐き出された一言だった。


しかし、ウリスゼラが口にした妹の存在にジュラフォードの耳がぴくりと動く。


「ウリスゼラ、お前には妹が居たのか」


「なんだ、聞こえてたのか。いるよ。年は離れてるけどな」


「とは言っても、妹とは当分会ってないんだ。ここに入る前から長いこと近付かせて貰えなかった。でも元気で幸せにやってるならそれでいいんだ……」


妹を想うときのウリスゼラの声色は、リカルドのときとはまた少し違った暖かみを帯びていた。


ジュラフォードは啖呵を切ったものの、どうやってここを抜け出すかを考えていた。


力業で檻から抜け出せば、その時点で話し合いは出来なくなってしまう──


考え込んでいると、ふと正面の牢屋から、スゥスゥと穏やかな寝息が聞こえていることに気が付いた。


それは、リリアフィルの寝息だった。


「まあ、確かにこんなとこじゃ今は寝るくらいしかすることもないか……」


有効策のない今、ジュラフォードはそれ以外に出来ることはないと目を閉じた。


深い深い眠りの中へと落ちていく。


「……おいジュラフォード!! こっから出るんだろ!? どうすんだよ!! ……って、寝てやがんのかぁ?」


ウリスゼラの問いかけも虚しく、ジュラフォードは床に背中を預け眠りについていた。


「さては看守がメシ持ってきた時に叩くって作戦か? それならオレも少し寝て体力温存しとくか……」



そして翌日──


思わぬかたちで〝果報は寝て待て〟が成就することとなった。


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