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第25話 一夜明けて


デオリア村の中央広場では、大きな篝火が闇夜を照らしていた。


それに群がるように周りを囲っていたのは、避難していた丘から戻っていた村民たちだった。


「パパ!! ママ!!」


村へ戻ると、集団で固まっていた子供達のうちの一人が、両親の元へと飛び出していく。


一人が飛び出せば、釣られて次々に子供達がジュラフォードから離れていった。


それぞれの親は、噛み締めるように我が子を抱き締める。


だが、不運にも全ての子供が無事に帰ることは出来なかった。


「そんな……! 俺の息子はどうしたんだ!? お前が助けに行ったんだろ! なぁどうなんだ!!」


息子を失ったひとりの村の男が、ジュラフォードに詰め寄ると、やり場のない感情をぶつけた。


ジュラフォードは、それに対し何も言い返すことはせず、ただ黙ってその言葉を受け止めていた。


「やめてください! ジュラフォード様はなにも悪くありません!!」


見兼ねたリリアフィルが間に入ると語気を強めて言い返す。


男はジュラフォードから目線をはずし、リリアフィルを睨み付けた。


「なんだてめぇ!!?」


我を忘れた男は、自分でもどうしたいのかどうすればいいのか分からず、無闇に拳を振り上げた。


すると、その腕をベウニルが力強く握り締めた。


「恨む相手が違うだろ。この人たちがいなかったら、全員死んでたかもしれないんだぞ!」


ベウニルの鋭い言葉が男を突き刺す。いたたまれず、男は罪悪感で表情を曇らせた。


「いいさベウニル。俺を殴ってスッキリするなら、別に構わない」


「ジュラフォードさん……」


重たい空気が強くのし掛かる。


張り詰めた空気にリリアフィルは思わず声を漏らすと、両手で口を覆った。


「ともあれ、あなた方のおかげでどうにかなった。これで無事に奉納祭も執り行………」


村長が言葉を言い切るのを待たず、奉納祭という文言を口にした途端にジュラフォードが胸ぐらを掴んだ。


「遺体すら残らず死んでしまった子供もいるんだぞ!? なのにお前はまだそんなことを言うのか!!」


そこにいる誰もがジュラフォードに視線を寄せていた。


事態を重くみていないと受け取れる村長の一言。


これまで冷静を保っていたジュラフォードは感情を爆発させてしまう。


「……だが、代々のしきたりなんだ……! よそ者には分かるまい…!!!」



パチンッ!



リリアフィルの張り手が、村長を揺らした。


「目を覚まして! それは子供の命よりも大事なことなんですかッ!?」


その一言に、村長は思わず目を逸らし黙り込んだ。


村人の数名がぞろぞろと村長の元へと近付き、声をかける。


「村長、この人たちの言ってることは正しいと思う」


「ああ。残念だけど、こんな状況で奉納祭は無理だ。なにより子供達が浮かばれない!」


「そうね。私もそう思うわ… 奉納祭をやるくらいなら、亡くなった子達を弔いたいわ」


多くの村人たちには、ジュラフォードとリリアフィルの言葉は響いていた。


事件を経てもなお村長がしきたりとして押し進めようとする奉納祭に対して、村人からは反対意見が出た。


「村長、これが民意だよ。本当に神様なんているなら、とっくに子供達を守ってくれてるはずじゃないか」


ベウニルがそう言うと、村長はようやく自分の間違いに気がついた。


ハッとさせられたような様相を見せると、涙を滲ませ「なんてバカなことを」と呟いた。


「本当に、ありがとうございました。なんとお礼を言えばいいのか……」


村人の一人がジュラフォードに礼を述べると、周りにいた数名も頭を下げて感謝の言葉を口にした。


「ベウニルも、よくやってくれたよ。ありがとうな」


すると、ジュラフォードは〝子供達を弔いたい〟と言っていた村人の言葉から、ある思いつきを口にした。


「奉納祭とやらは舞いを披露するんだったな。だったら、それを弔いとして亡くなった子供達のためにやるってのはどうだ?」


ただの思いつきだったその一言は、それまで立ち込めていた重たい空気をガラリと変えた。


一番近くにいた初老の男が、静かに呟く。


「……弔いの舞い、か。確かに、亡くなった子どもたちに向けてなら悪くないかもしれん」


初老の男の言葉を隣で聞いていた女性が目を伏せつつもそっと頷いた。


「奉納じゃないなら……ねぇ。それなら、神様に縛られずに済むんじゃない?」


さらに別の男が、腕を組んだままジュラフォードの意見に賛同を示す。


「……俺は、いいと思う。奉納祭をやる気にはなれないが、同じ舞いでも子供たちの為なら話は別だ」


次に、若い母親が涙をぬぐいながら言葉を漏らす。


「死んだあの子のためにも、私もそうしたい……!」


すると、ようやく村人たちの間に確かな流れが生まれ始めた。


「そうだ! これは奉納じゃない! 亡くなった子らのための鎮魂の舞いだ!」


村人の誰かが声高に宣言した瞬間、その場の意見は、弔いという一貫したものへと変わっていった。


「いいじゃないか。それなら俺もやる!」


「ジュラフォードさん、あんたは本当に凄い人だ!」


「あぁまったくだ! 最高のアイディアじゃねえか!」


次々に賛同の声が立ち上がり、その波が村長へと押し寄せていく。


「わかった、奉納祭はやめて弔うことにしよう」


村長は静かに答えた。


気がつけば、誰もがジュラフォードの言葉を名案として受け取っていた。



亡くなった者へ捧げる鎮魂演舞レクイエム──


奉納祭こそ執り行うことはなくなったが、弔いとして村人が一丸となって舞うこととなった。


と、そこへ最初にジュラフォードの案に賛同した初老の男が話しかけてきた。


「……けど、今日はもう夜も遅い。なにより疲れたでしょう? あなた方のために私の家をお貸しします、どうぞ休んでください」


「いいのか、おまえは?」


「あぁ、大丈夫です。弟の家に泊まらせてもらいますから」


まだ胸の中では心の傷跡が残るものの、ジュラフォード、リリアフィル、ユバの三人は明け渡された人家へと向かった。


こうして、神隠し事件は幕を下ろす。



そして──



翌日。


一夜明け、一足先に目を覚ましていたジュラフォード。


すやすやと穏やかな眠りにつくリリアフィルとユバの寝顔を、微笑みながら見つめていた。


「あれだけの事があったんだ。ゆっくり寝てくれ」



コンコン!



「おはようございます!」


戸を叩く音とともに、ベウニルの軽快な声が寝起きのジュラフォードの耳をつついた。


「ベウニルか…… 朝から騒々しいやつだ」


窓から差し込む朝日を背に浴びながら、うるさく鳴るドアへと向かう。


あくびを浮かべながら、気だるそうに戸を開けるジュラフォード。


目の前には、どこか腫れ物がとれたような清々しい表情のベウニルが待ち構えていた。


「おはようございます! 昨晩はゆっくり眠れましたかっ!」


「あぁ、お前のおかげで二度寝し損ねたがな」


「……っとと! そりゃどうもすみません…… あはは」


「それで、こんな朝早くから何か用か?」


ベウニルは中央広場に目を向けながら答える。


「ええっと、ジュラフォードさんに一番に見てもらいたいもんがあって…… 来てもらえます?」


渋々ながら、少しばかり面倒そうに眉をひそめつつも、ベウニルに着いていった。


「ほぉ、圧巻だな」


そこでジュラフォードが目にしたのは、奉納祭に代わる鎮魂演舞の飾り付けが施された広場の風景だった。


昨夜まで灯していた篝火の代わりに、大きな御輿が中央に鎮座し、それを取り囲むように紙垂が取り付けられていた。


「これ全部、俺が一人でやったんです。少しでもみんなの役に立とうと思って。それにみんな事件のことでやっぱり憔悴はしてるし」


ベウニルが拵えたという、鎮魂演舞のために新たに作られた御輿を観察する。


「おまえ、これはなんだ!?」


「あ、気付きました? 良い感じでしょ?」


御輿の頂点には、元来の鳳ではなく、ジュラフォードを模した剣士の像が取り付けられていた。


「どう見ても…… こりゃあ俺じゃねぇか!」


「そりゃ、今回の事件の英雄ですから! それにこれまでとおんなじじゃ意味ないでしょ?」


溜め息をつき、呆れたように肩をすくめるジュラフォード。


すると、目を覚ました村人たちが続々と中央広場に集まり始めた。


「うぉ!! すげえ! なんだこの御輿は!?」


「おい見ろ、御輿のてっぺん! 随分イケてんな!」


村人たちは食い入るように御輿を眺める。


その出来映えに対して賛辞を受けるベウニルは、誇らしげに鼻を伸ばしていた。


「準備がありますから、舞いが始まるまでもう少しゆっくりしていてください」


「……そうか。じゃあ俺はもう一寝入りするとしようか」


そう言うと、ジュラフォードは寝ぼけ眼をこすりながら宿へと戻った。


「……あ、おはようございます」


大の字で熟睡するユバの隣から、まだ眠たそうなリリアフィルの挨拶が聞こえてきた。


「起きていたのか。何か飲み物でも入れてやろう」


キッチンに向かうジュラフォードに、リリアフィルが静かに近付く。


そして、リリアフィルはカップにハーブを落とす、ジュラフォードの左手にそっと手を重ねた。


不意に背後から差し伸べられた手に戸惑いながらも声を掛けるジュラフォード。


「お、おい! どうした急に」


「あの、ちょっと聞いてもいいですか……」


「……今度は、なんだ?」


「あの館でのことなんですけど、ちょっと気になることがあって……」


そう切り出しながら、リリアフィルは静かに語りかけた。



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