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第24話 孤独の火葬


全員の回復を終えた頃には、リカルドは身体中に大量の汗をかいていた。


「ありがとうございました!」


「いやいや、いいんだ。みんな無事で良かったよ」


「リカルド、本当に礼を言う」


「気にしないでくれよ。私も貴方に助けて貰えなかったらどうなっていたやら…」


リカルドはその場で小さく会釈すると、外に視線を向けた。


「すまない、私は主の召集で急がねばならない身だ。これで失礼するよ」


「あぁ、気を付けて行けよ」


「あんたもな。良かったらこれを使ってくれ。俺は予備があるんだ」


手にしていたランタンをジュラフォードへ差し出すリカルド。


「何から何まですまない」


「……じゃ、また縁があればどこかで」


そう言うと、リカルドはまだ落ち着かない様子の子供達に微笑みかけながら館を後にしていった。



「ジュラフォードさん!」


瀕死の状態から復活を果たしたベウニルが子供達に囲まれながらジュラフォードに声をかける。


子供達は、唯一の見知った人物であるベウニルから離れようとせずくっついていた。


「御師様ぁー!」


意識を取り戻したユバは、子供達の集団から飛び出すと、勢いよく飛び跳ねてジュラフォードに抱き付いた。


「おい、こら! ユバ!」


「あのね、ユバね! 悪いやつらと戦ったんだよ! でも負けちゃった……」


「あぁ、その悪いやつらは俺が片付けた。よく頑張ったな」


ジュラフォードは優しい笑みを浮かべながらユバの頭を撫でた。


ベウニルにしがみつく村の子供達と同じ様に、ユバもまたジュラフォードから離れようとはしなかった。


「ユバちゃん、ありがとうね。私のこと守っていてくれたんだよね」


ジュラフォードの背後からリリアフィルがユバへ話しかけた。


微笑むリリアフィルを一目見た途端、ユバは塞き止められていたものが決壊したかのように涙が溢れだした。


「リリアぁ……!! リリアぁ!!」


ジュラフォードの肩にユバの涙とそれから鼻水がポタポタと垂れていく。


「へへ、よく頑張ったね」


リリアフィルは親指の腹をユバの目元に近付けると、溢れる涙を拭き取った。


「おい、なんか俺の肩が濡れちゃいないか?」


「き、気のせいですよ! うん、気のせい気のせい!」


そう言いつつも、ジュラフォードはユバを抱きかかえたまま、涙して震えるその小さな背をさすっていた。



「そういや、メルマドゥナさんの姿が見えませんね」


ベウニルの一言を受け、ジュラフォードは辺りを見回す。


リカルドから回復を受けていたまでは確実にその姿があったというのに、気が付けば忽然と姿を消していた。


「どうしたんでしょう…… 私もう一度あの人にもしっかりお礼をしたかったのに」


「仕方ないさ。やつとはただの協力関係に過ぎなかったんだ。事が終われば元へと帰るだけなんだろう」


「そういうもんなんですかねえ」


「あぁ、あまり深入りはするな。恐らくやつにもやつの考えがあるんだ」


そう言われたとしても、リリアフィルはどこか寂しげな表情を浮かべていた。


「こうはしていられないだろう。早く村へ帰ろう」


「でも、外は夜ですよ?」


「こんなとこ、子供達にとっても長居はしたくないはずだ。それに俺とベウニルが居れば平気だろう?」


「ジュラフォードさん……!」


その言葉で、自身を信頼してくれていると感じ、思わず表情が和らぐベウニル。


「分かりました! 後ろは俺に任せてください!」


すると、ベウニルはジュラフォードから離れないようにと子供達への説得を試みる。


それにはユバも加わると、子供達は互いに手を繋いでジュラフォードへ身を寄せ合った。


「さあ、行こう」


子供達を引き連れながら、ジュラフォードはリカルドから譲り受けたランタンを照らし、館の外へと出ていった。


殿を担うベウニル。すると、その斜め前を歩いていたリリアフィルが急に立ち止まった。


リリアフィルは、館を見つめながらなにやら難しい表情をしながら黙考していた。


「どうしたの?」


同じ様にベウニルも足を止めると、館を見つめるリリアフィルに声をかけた。


少しの間を置いて、くるりとベウニルたちの方へと向き直る。


「すみません、なんでもないんです。行きましょ」


心ここに在らず。ベウニルが見受けたのはそんな印象だった。


そのときリリアフィルがなにを考えていたのか、分かるはずもなかった。


村へ着くまでの間、ベウニルはリリアフィルの表情の意味を考えていた。


それから間もなく。ついにジュラフォードたちはデオリア村へ帰還を果たした





少し時を遡り、ジュラフォードたちが館を出てすぐのこと。


激情が刻まれた広間には、メルマドゥナの姿があった。


回復を受けたメルマドゥナは、ジュラフォードたちが生還に歓喜している合間に、この広間へと移動していた。


「サキュバス……」


絶望の表情で固まったまま事切れたサキュバス。


その首と胴体とを、蘇るはずもないのにメルマドゥナは魔法によって結合させていた。


「私はあなたの母じゃない。人と魔獣が一緒に居続けられるわけないのよ……」


メルマドゥナはサキュバスの死体に手を添え、見開いたままの瞳を閉ざした。


「でも、私が供養してあげなきゃ、誰も貴方たちの命を哀しんであげられないから……」





サキュバス、インキュバスの二人とメルマドゥナの出会いは、遡ること一年前の出来事だった。


村を離れ、魔法で拵えた岩戸に篭る生活を続けていたメルマドゥナは、ある日きまぐれで辺りを散策していた。


代わり映えのない自然の風景が続くなか、突如として深傷を追った小動物を目撃する。


遠巻きに見て、小動物だと思っていたそれは、死にかけていたサキュバスとインキュバスだとすぐに分かった。


悩みに悩んだ末、それが異形たる魔獣と分かっていても、メルマドゥナは情けで治療を施す。


その甲斐もあり、本来なら間違いなくそのまま死んでいたであろう二体の命は、なんとか繋ぎ止めることが叶った。


「ママ……!」


「やめなさい、私はママじゃないわ」


以来、まだ子供同然だったサキュバスたちはえらくメルマドゥナに懐いてしまった。


魔獣である二体の成長は著しく、一週間足らずでメルマドゥナの簡単な魔法を見よう見まねで会得していた。


その成長は肉体にも現れ、二週間も経った頃には立派な翼と角が生え揃っていた。


次に人の言葉を覚えたサキュバスたちは、メルマドゥナに、自身が人工的に造られた魔獣であると話した。


だが、実験段階で失敗作であると見なされ、屠殺される運命だった。


しかし二人は屠殺される前に処理場を抜け出したところ、野生の魔獣による襲撃に遭い、生死を彷徨い、今に至る──


その話を聞くと、メルマドゥナは追い出そうとしていた決意が揺らいでしまった。


それからはズルズルと、放っておけない状態が続いていった。


出会いから二週間半が経過したある日。


「さあ、早く消えなさい! 何度も言うけど私はあなたたちの母親でもなんでもないのよ! もう十分に動けるまで面倒見たでしょ!?」


隠れ家にしていた岩戸から二人を突き放すようにして追い出すメルマドゥナ。


「お母さん! そんな嫌だよ! 私たちどうするの!」


「お願いだよ! 開けてよ!」


岩壁をがむしゃらに打ち付ける音が室内に響き渡る。


そしてその音が、メルマドゥナの心を強く縛り付けた。


「ダメなのよ…… 貴方たちは魔獣なんだから…… このまま一緒に居続けたら貴方たちも不幸になる……! 分かってちょうだい、お願い……!」


岩戸の中で身を丸めながら、メルマドゥナは必死に涙を圧し殺す。


それでも岩壁をすり抜けて聞こえてくる悲痛な叫びと壁を叩く音が、涙を作らせた。


「また捨てられちゃったんだね、私たち」


メルマドゥナに突き放されたサキュバスたちは、自分達を棄てたのだと恨みを抱いていった。


それと同時に、自らの〝人工魔獣〟という出自に立ち返る。


それは、二人の生きる道が決まった瞬間でもあった。


「もういいわ、インキュバス。私たちは所詮、魔獣よ。だったらそれでいいじゃない」


「でも、俺たちこれからどうするんだ!」


「あのお方に認めて貰えれば私たちにも居場所が出来るはずよ」


「なるほどな! ジュラフォードとやらをブチ殺すのか……」


「そうよ。そのためには力をつけなきゃいけないわ。そして、メルマドゥナもいずれ殺すのよ」


サキュバスとインキュバスに芽吹きかけていた人の心は完全に消え去った。


二度も棄てられたという思いだけが、彼女らを駆り立てていた。


一方的な恨みからメルマドゥナの姿に化け悪事を働き、ついには拐った子供の命を奪う。


ただ居場所が欲しかっただけなのかもしれない。


しかし、運命が及ぼした掛け違いは、徹底した魔獣としての生涯を決定付けてしまった。


果てはその野望も潰え、サキュバスとインキュバスは揃ってその短い一生を終える。


役割も見出だせず、居場所も見つけられず、やがて迎える死のそのときまで、冷たい真実だけがつきまとっていた。





「さようなら。サキュバス、インキュバス。私に化けて悪さしていたのも、もう水に流すわ」


メルマドゥナはサキュバスの死体を庭先まで運び、指から放った炎でそれを弔った。


答えなど出ないというのに、メルマドゥナは寒空の下、燃ゆる炎を見つめながら物思いに耽っていた。


どれだけの時間が経ったのか、灰だけになったサキュバスを見つめるとメルマドゥナは呟いた。


「悪いのは全て人工魔獣を生み出した奴よね。貴方たちの為にも、私は必ず人工魔獣を阻止してみせる」


こうして、決意を込めたメルマドゥナは、重たい表情のまま館を後にした。


そしてその頃、ジュラフォードたちは──



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