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第23話 月下一閃


わずかに差し込む月明かりを頼りに、森の中を駆け抜けていく。


その心許ない光源では視認性の悪さは変わらず、ジュラフォードは聴覚を頼りにしていた。


馬車の音に意識を集中させていると、馬が大地を叩く音が複数あることに気が付く。


「3…… いや、4か……?」


鬱蒼と生い茂る木々を挟んだ向こうでは、馬車の後方に四頭、別の馬が駆けていた。


「並走する気配はない…… 前の馬車が速度を落とさないということは……」


ジュラフォードは、異変を察知すると、馬車の後方に続く四頭の馬に警戒を強めた。


「追われているのか……」


ぴたりと動きを止め、ジュラフォードは鞘から得物を取り出すと、辺り一帯の木々をなぎ倒した。


近道を無理矢理に開拓すると、馬車のいる方へと直進して行った。


ほどなくして、ジュラフォードの右手側には荷を曳く馬の姿が見える。


乗っていたのは鎖帷子を着た男だった。


一心不乱となって鞭をしならせ、急接近するジュラフォードに気付いている気配はない。


「やっと追いついた……!」


男は逐一後方を振り返り、そしてまた前を振り向けば鞭を打ち込む。その動作だけを延々と繰り返していた。


「おい!!! おい!!」


隣まで近付いたジュラフォードが、何度か声を掛けた所でようやく気が付く。


しかし、男は酷く取り乱した様子だった。


「ひぃ、ひぃぃ!!! なんだお前!!」


「追われているんだろ!?」


「は、はぁ……?!」


「どうなんだ! ハッキリしろ!」


「あ、あぁ! やつらにずっと追われている! このままじゃ殺されちまう!」


「そうか! なら俺が手を貸してやる! 安心しろ!」


男にそう告げると、ジュラフォードは足を止め、くるりと後方へ体を向けた。


「な、なんなんだ…… あの男は……」


鎖帷子の男は鞭を打つ手を止めると、乗り出し加減に振り向きながらジュラフォードの背を見つめる。


「馬と並んで走るやつなんて初めて見た… ありゃ本当に人間なのか……?」


鞭を打つ手が止まったことで、疲労困憊の状態だった馬は緩やかに速度を落としその歩を止めた。


男は馬車から降りると、遠巻きに見えるジュラフォードを、目を細めながら凝視し始めた。



男から二十馬身ほど離れた先では、剣を構えたジュラフォードが追跡者と相対している真っ最中だった。


「失せろ! 今すぐ引き返すなら無傷でいられるぞ!」


ジュラフォードが情けをかけて忠告するも、追跡者の迫るスピードは衰えることはなかった。


それどころかさらに加速していき、グングンと伸びていくスピードでジュラフォードを引き摺ろうと考えていた。


追跡者との距離が狭まるにつれ、その追跡者が〝人間ではない〟ことに気がつく。


外観こそ人間に酷似した構造を持つ人型の生物。それは一つ目の魔獣、サイクロプスだった。


「魔獣か…… なら遠慮はいらねえな。お前らが選んだ答えだ、後悔はするなよ……」


構えた剣に力を込める。大地が震えるように揺れ動き、爆発的な衝撃が唸りはじめた。


そのオーラにサイクロプスたちの乗り込む馬は酷く怯え始め、それまで勇ましかった歩様は取り乱したように蛇行していた。


ピリピリと肌を突き刺すような波動がサイクロプスたちにも伝わると、馬を乗り捨て応戦体勢へと入る。


「オマエ、ブッコロス!!」


「ブッコロス!!」


「ブッコロス!!」


鼓舞するかのように、サイクロプスたちによるブッコロスコールが始まった。


手にする金槌をブンブンと振り回しながらジュラフォードへと突撃する。


勇猛果敢というべきなのか、あるいは無謀と言うべきなのか。


「閃ッ──!」


それはわずか一瞬の出来事だった。


大地の震えが収まったかと思えば、次にジュラフォードが放った一太刀が、一閃の元でサイクロプスを葬り去った。


キィィィィン……


残響する風切り音が虚空を揺らす。


後を追うように、サイクロプスたちの断末魔が響いた。


ゴトン、ゴトン、と鈍い音を立て、ジュラフォードの得物によって斬り裂かれた胴体が転がり落ちる。


ジュラフォードは粛々と、刀身に残った青い血を一振りで振り払いながら鞘へと戻す。


遠方では、嘶きを上げながら逃げ去るサイクロプスたちの馬が方々へと散っていった。


「……さて、これで片付いた。こうしちゃいられん。早く助けてもらわないとな」


再び鎖帷子の男の元へ戻ると、男はジュラフォードを見つめながら終始その目を丸くしていた。


「あ、あんた…… 本当に人間か!?」


警戒を解すようにジュラフォードは、はにかみながら答える。


「あぁ、驚かせたならすまない。追っ手は無事に始末したもう安心だ」


「お、おぉ……!ありがとう、ありがとう……!! 本当に、なんとお礼をすればよいか……!!」


男は膝を下ろしながら、すがるような様相でジュラフォードへ繰り返し頭を下げた。


「なに、このくらいどうという事はない。気にしないでくれ」


よほどサイクロプスに手を焼いていたのか、予想よりも過剰な感謝に思わず困惑してしまうジュラフォード。


「……ところで、お前は魔法が使えるか?」


ジュラフォードは本来の目的である本題へと入った。


「あ、あぁ。でもおかしなことを聞くもんだ。使えないはずないだろう?」


男が疑問符を浮かべながら質問に答えると、ジュラフォードはさらに続けた。


「仲間が瀬戸際なんだ。もし魔法を使えるなら助けてほしい。近くの館に匿ってるんだが…」


「なに!? そういうことなら話は後だ! 私もあまり時間は無い。早く行こう! さあ乗ってくれ」


男が再び馬を動かすと、ジュラフォードは馬車へと乗り込んだ。


「どっちだ?!」


「あっちの方角だ」


ジュラフォードが館の方角を指差すと、男は馬車をぐるりと旋回させる。


ヒヒィィィンン!


ギュギュっと男が手綱を引くと、馬は館の方へ駆けていった。


月明かりと馬車に吊るしたランタンの灯が悪路を照らす。


しばらく突き進むと、ジュラフォードが来た道に戻っていた。


「そこだ、俺が道を作ったところがある。そこからなら早く抜けられるだろう」


最短で追い付くために、木々を薙ぎ倒して開拓した近道を通る。


それを見て、男は再び驚きを口にする。


「これもあんたがやったのか!? たまげたなぁ」


「どうということはないさ。そういえば、お前の名はなんと言う? 俺の名はジュラフォードだ」


「おっと。名乗り遅れていたね。私はリカルド。改めて礼を言うよ」


ジュラフォードとリカルドは軽く握手を交わした。


気を良くしたリカルドは、聞かれてもいないというのにサイクロプスに追われていた理由を話し始めた。


「そうそう、私がサイクロプスの群れに襲われていたのはね、これが目的なんだよ」


そう言うと、リカルドは馬車に積んであった麻袋からキラキラと輝く不思議な石を取り出した。


「なんだこれは、なかなか綺麗じゃないか」


月明かりを反射しながら神秘的に輝く鉱石に、ジュラフォードは思わず見惚れる。


「でも、なんでこれを奴らが?」


「この石には妙な力があるらしくてな」


「それが目的ってわけか」


「そうだ。私は主の使い走りで、こいつを受け取って持って帰っていた最中だったんだ」


「なるほど、その道中に襲われたんだな」


「あぁ、だが私だって抵抗はしたさ。それでも多勢に無勢。オマケにやつらは強い! 逃げるしかないと思ったね」


リカルドは、ジュラフォードの華麗なる戦いっぷりを思い返しながら続けた。


「なのにジュラフォードさん、あんたはたった一撃だもんな。恐れ入ったよまったく」


すると、リカルドは麻袋に詰められた石の中からひとつ、とりわけ小振りなものを選んでジュラフォードに差し出した。


「助けてくれたお礼にひとつやるよ。オマケだ」


「そんな、いいのか?」


「あぁ気にしないでくれ。治療だけじゃ割りに合わないと思うしな」


「だが、お前の主の物なんだろう? 勝手にいいのか?」


「そこんとこはホラ、これで。」


リカルドは人差し指を唇に当てながら言うと、半ば強引に石を押し付けた。


ジュラフォードは渋々それを受け取ると、天に翳し眩い月の光に照らした。


「しかし綺麗だな…」


「へへ、神秘的だろ? 一つくらいバレやしないさ。まあ貰っとけって、感謝の印だよ」


それから少しばかり馬車に揺られていると「館はあれか?」とリカルドが訊ねる。


「あの館だ、間違いない」


リカルドは手綱を緩めると、館の前で馬車を停車させた。


荷台からランタンを降ろすと、小走りで館へと入っていき、その後ろをジュラフォードが追いかける。


「リリアフィル、無事か!?」


「ジュラフォード様……!」


館に入るや否や、ジュラフォードはリリアフィルの名を呼んでその安否を確かめる。


返事が返ったことに安堵していると、リカルドはホールの辺りを見回していた。


「随分と酷い傷だ。すぐに取りかかるよ」


リカルドは、瀕死のベウニルに目をやると、真っ先にベウニルへの治療を開始した。


器用に両手を使い、空いた手で並行しながら子供達にも魔法を使っていく。


「なあ、全員大丈夫だよな……?!」


ジュラフォードが神妙な面持ちで訊ねると、リカルドは「大丈夫だ」と返答する。


その一言を聞いて、ジュラフォードがホッとため息をこぼすと、静かにリリアフィルの傍へと寄り添った。


「心配かけてすまなかった。怖い思いもさせてしまったよな。本当に、なんと言えばいいのか……」


ぐすんっ……


必死に涙を堪えながら、リリアフィルは子供のようにジュラフォードを抱き寄せた。


「怖かった…… 怖かったよぉぉぉ……!!」


ジュラフォードは、リリアフィルの生きた温もりを噛み締める。


それからしばらくして、リカルドの回復によりベウニルたちは無事に生還を果たした。



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